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Braunschweig University of Art 2022
Braunschweig University of Art
Hochschule für Bildende Künste Braunschweig
場所:Johannes-Selenka-Platz 1, 38118 Braunschweig
サイト:hbk-bs.de
活版スタジオ:https://www.youtube.com/watch?v=yZy_DhiowFo
計算してみると私は20代の半分を海外で過ごしたことになるのだが、30代もそうなるのではないかという予感を空港で感じた。行ったり来たりの人生である。戦争のせいで日本からドイツへの直行便はキャンセルになった。ロシア上空を飛べないからだ。代わりに11時間かけてドバイまで、3時間のトランジット、また6時間かけてフランクフルトまでたどり着き、その後DBというドイツ全土に広がっている特急列車で3時間、ついにブラウンシュヴァイクに到着した。
欧州やアメリカの美術大学には、しばしば活版スタジオが存在する。多くの場合、グラフィックデザイン科の管轄下になるが、稀に活版印刷専攻がある大学もある。HBKは緑に囲まれた広いスタジオを持つ。窓からは美しい光が差し込む、理想的な活版スタジオだ。金属活字の種類が特に豊富である。
機械は、アメリカ製 VanderCook に似た KOLLEX というドイツ製の校正機である。相違点はKOLLEXは紙を乗せるテーブルがローラーと一緒に動くことである。その分回すのは重い。
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タイポグラフィの教授であるF氏に週に2、3回マンツーマンで組版を教えてもらえることになった。自分で用意した英米文学から抜き取った文章や、ドイツ語の詩などを活字で組し、活版印刷機で印刷する。
ある日、笑顔で「アヤがよく来るからこれを買ったんだよ」と辞書を見せてくれた。それはドイツ語から、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語へ訳せる、活版印刷用語の特別な辞書であった。聞くと、印刷連盟に問い合わせて、お勧めしてもらったそうだ。なんとその辞書は 1917 年のものであった。このような優しい時間も共有しながら、たまにスタジオへ行きすぎて「アヤはこのスタジオで寝泊まりした方がいいかもね」と言われたりもし、私は彼女に組版を教わっている。
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日本では級数、という単位で活字が作られている。これは関東と関西で微々たるサイズの違いはあるが、1 級=0.25mm、11 級で 8pt となる。これと似たルールがドイツにもあり 12 pointは 1 cicero となる。4 cicero は 1 konkordanz となる。組版の際に mm は一切使わない。このcicero, konkordanz の単位を使用する。始めのうち、この12進法のルールには頭を悩まされたが、最近は計算も早くなってきたと思う。
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チェーホフやフィッツジェラルドのお気に入りの部分を印刷したりもするが、ある日スタジオのあまり使われていない活字ケースにヘブライ語活字を見つけた。9pt、ニクダーという母音記号までご丁寧に揃っている。ヘブライ語は基本的に子音のみで構成される言語であるが、勿論子音のみでわからない時や子供向けの本ではニクダーが表記される。ここでは詳しく書かないが私は 2017 年にイスラエルに留学しており、その時にイディッシュ語を勉強していた。イディッシュ語はドイツ語に音が似ているが(この事は私のドイツ生活で非常に役立った)表記はヘブライ文字である。約 80% がドイツ語由来、約 20% がヘブライ語由来、その他もアラム語やスラブ系の言語由来の単語で構成されている、非常に美しく、どこか懐かしい言語である。ちょうど我々日本人が約 20% ほど漢字を使うのによく似ている、と当時一緒にイディッシュ語を学んでいた中国人留学生の友人と話したものである。せっかくなのでこの眠っていたヘブライ語活字を使って、イディッシュ語の詩をドイツ語の翻訳と共に組版、印刷してみた。ロシア系ユダヤ人女性の詩である。なぜこの学校にヘブライ語活字が眠っていたのかわからないが、戦前
のユダヤ人がこうやってドイツで本を作っていたことを想像し、これは私にとって非常に感慨深いものとなった。
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日本で活版印刷を学ぶ時、一番学ぶ機会が少ないのが欧文組版である。この機会を得るまでに長い年月を費やしてしまったが、ついに欧文組版を学ぶことができ、また修練する時間も数ヶ月与えられたことを感謝したい。
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