話題の「K5」のテナントリーシングが凄すぎたので、企画者として嫉妬したという話。
2/1(土)に日本橋・兜町にオープンしたK5( https://k5-tokyo.com/ )のレセプションパーティーに先日お邪魔してきました。
ホテルという視点とデザイン的な切り口は、一緒に内覧させていただいたホテルみるぞーさんの記事がわかりやすいので、そちらを参照ください。(写真がどれも素敵。エモい。その他記事も必見。)
日本的要素を海外のセンスで再解釈したデザインの絶妙さとか、素材の使い方とか、共用部まで手を抜いていない感じとか、すごいところはいろいろあるんですが、普段リノベーションの企画・プロマネを生業としている人間として1番に感じたのは『よくこれだけのテナントを集められたな…』ということ。何がどうすごいのか、頭の整理も兼ねてちょっとまとめてみます(個人の見解です)。
1.テナントラインナップ凄すぎ。
K5は、マイクロコンプレックス※という新たな概念を定義しています。
※マイクロ・コンプレックスとは。
大規模開発によるものでなく、より地域に寄り添った小規模の複合施設。「K5」では「1つの企業が開発を行うのではなく、感性を共にした様々なジャンルのチームが集って共同でプロデュースする」という要素もマイクロ・コンプレックスの定義の1つと捉えています。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000044029.html
Backpackers’ Japan、Media Surf Communications、Insitu Japanの3社が立ち上げた会社が運営を行う主となるホテル以外にも4つの機能が集積するビルが”K5”なんですが、そのどれもが単体でもすごいものばかりで、最初に見た時に正直目眩がしました…そのラインナップがこちら。
①CAVEMAN
②SWITCH COFFEE
③青淵(Ao)
④B
目黒、代々木八幡に店舗を構える「SWITCH COFFEE」をはじめ、Brooklyn Breweryのフラグシップ店「B」、ゴールデン街で独自のポジションを築くThe OPEN BOOKの田中開さんがプロデュースする「青淵」など、どれもがそれ1つで話題を掻っ攫えそうなラインナップ。中でも目黒の人気レストランKabiが2店舗目としてオープンした「CAVEMAN」が個人的には衝撃でした。
2.CAVEMAN
20代のシェフとソムリエのお二人が共同経営されているKabiは、日本やデンマークをルーツとした見たこともない創作料理と、ワインを中心としたお酒をペアリングで提供されています。2018年に、毎年年末に開催している「Urbanist Meet Up」というイベントでお店を会場として使わせていただいたご縁もあり、結婚記念日にランチコースで伺ったこともあるんですが、既視感ゼロの料理とそれに合うアルコールのペアリングは、口に入るものすべて美味しくて幸せな時間でした…人生の中で有意義な1万円の使い方があるとしたら、恐らくTOP5に入るであろう体験。
そのKabiがまさかの2店舗目をここにオープン…見た瞬間、「すごい」と共に「悔しい」という感情を抱いたのを覚えています。(別に何かしようとしていた訳でもないので、ただの嫉妬です。笑)
3.コンプレックスにおけるテナントリーシング
こうした床面積の比較的大きい建物のリノベーションやコンバージョン(用途変更)では単一用途では消化し切れないことが多いため、複合型のプロジェクトになりやすいんですが、1社ですべての機能をまかなうというのは中々にハードルが高くて、既に事業を行われているテナントを誘致するというケースが一般的です。
「テナントとして入っていただく=賃料をいただく」ということなので、よほど人が来ない場所であったり、賃料が相場より著しく高い、などがなければどこかしらのテナントさんが入ってくれる可能性は高いんですが、”魅力あるテナントに入ってもらう”というのは、実は非常に難しい。
①経済条件が折り合うか
②立地に魅力を感じてもらえるか
③開業のタイミングと出店のタイミングがうまく重なるか
④(そもそも)他店舗展開の意思があるか
などがうまく折り合いが付かないと出店には至りません。
①はどうしても入ってほしいテナントがいるのであれば、有利な条件を提示するということは可能ですが、②に関しては商圏であったりお店がターゲットとしている客層の来店が見込めるかが重要になりますし、③についてはその店舗(企業)の事業上の出店戦略もあり、出店するにはイニシャルで内装や厨房設備といった大きな投資が発生することもあり、そう容易に決断できるものでもありません。
そして以外と重要なのが④で、いいお店はそもそも拡大思考でないケースもままあるため、2店舗目、3店舗目の出店を考えていないことも多くあると想定されます。
Kabiがどうだったかはわかりませんが、1店舗目がうまく軌道に乗った中で、2店舗目の出店には慎重になるのが当然だと思います。
(言い方悪いかもですが)そこをうまく口説いたというのは、同じ企画・プロマネの人間として素直にすごいと思いますし、めちゃくちゃ嫉妬するポイントでもあるわけです。
4.なぜ魅力的なテナントを集められたのか?
ではどうやってこれほどまで魅力的なテナントがリーシングできたのか。そのヒントはオープン前に公開されたプロジェクトチームの中心メンバーである3人の対談記事にあると思いました。
ぼくら3名だけじゃなくて、テナントとして入ってもらうレストランやバーの人たち、デザインチームや建築設計チーム。飲み会するとただただ楽しくて、それとおなじテンションで仕事ができる。そういうプロジェクトってすごい珍しいんですよ。つまりはみんな感じあっていて、あまり衝突とかも起きないんです。
ー㈱Backpackers' Japan代表取締役 本間貴裕氏の発言を抜粋、一部中略
これまで、テナントリーシングという言葉を使ってきましたが、上の発言を見ると、”チームアップ”の方がしっくりくるような感覚があります。
つまり、オーナーと店子(たなこ=テナント)というヒエラルキーのある関係性ではなく、1つのプロジェクトの旗(=コンセプト)を立て、そこに向かうプロジェクトチームを構成し、同じ価値観でベクトルを共有しながらそれぞれの得意分野を活かし、それに共感するメンバーを更に巻き込んでいくという横並びと渦巻きの関係性のデザインが、こうした魅力的なメンバーを集められた大きな要因の1つであると思います。(聞いた話によると非常に泥臭い動きもされていて、企画者の努力の賜物であることは間違いないと思います。)
5.K5はこれからのプロジェクトのベンチマークになる。
完成前から多くのメディアやSNSで注目され、レセプションでは推定1,500人が訪れる(入場に100人くらい並んでいるレセプションは初めて見ました。)という、プロジェクトとして最高のスタートを切ったK5。
事業を行う箱ではあるので、当然ながら人が来て、泊まり、ご飯を食べ、お酒を飲むことでお金が回り、収益を上げながら持続することが本当の成功と言えますが、令和初頭のセンスの良い空気感を包括したようなこのプロジェクトは、今後の小規模開発において確実にベンチマークになってくると思いました。
同じ企画者としては恐ろしくて、もうお腹が痛くなってきていますが、K5に負けないような良いものを作らなければな、と良い刺激を受ける良い機会でした。
改めて、K5に関わった皆さん、すごいプロジェクトをありがとうございました!
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