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ビヨンセ 映画『Renaissance: A Film by Beyonce』

2023年音楽界に大きな衝撃を与えたビヨンセの7年ぶり単独ワールドツアー「ルネッサンス・ツアー」の様子と制作過程を収めた映画『Renaissance: A Film by Beyonce』が公開された。本ツアーは観客動員数270万人を集め、12月21日からは日本の一部劇場でも限定公開が始まった。4年間の構想を経て実現したステージは衣装からゲストまでまさにメガ級。アレキサンダー・マックイーンやグッチ、ティファニーといった有名ブランドが衣装提供をしていることでも注目が集まった。
最新アルバム『Renaissance:ルネッサンス』は3部作のうちの1作目であることがアナウンスされている。新たな伝説の始まりを予感察せる本作は、LGBTQsコミュニティから大きな影響を受けており、ハウス・ミュージックのオマージュがふんだんに散りばめられている。まさに新時代の幕開けとなるダンスメドレーなのだ。

ルネッサンスは"新しい始まり" "再生"である。

Renaissance: A Film by Beyonceより

年末、平日の夜にも関わらず劇場はほぼ満員であった。映画館の観客は中高年層、同性カップル、外国人客まで幅広い客層であることが印象的だ。

2023年はまさに『Beyoncé』『Tayler Swift』そして『映画 Barbie』の年だったと言えるだろう。日本では米国ほどの盛り上がりを見せなかったものの、強い力を持った偉大な女性の姿が社会へ与えた影響は大きかったはずだ。本作でビヨンセは自身の家族について多く語っており、社会で活躍する女性のロールモデルであり続ける彼女が持つ母としての一面を見ることができる。

オープニングはビヨンセがソロ歌手として脚光をあびるきっかけとなった『Dangerously In Love』から始まる。舞台に薄く広がる煙の中から、黒いドレスに身を包んだビヨンセが登場すると、会場のファンからは大きな歓声が沸いた。ミラーボールをイメージし半球状にくり抜かれた舞台を背にダンサーたちが並ぶ。ファンはアルバム「ルネッサンス」のジャケットイメージに合わせてシルバーの服とカウボーイハットを着こなす。ライトに照らされキラキラと輝いた客席全体が、ミラーボールの半球ように彼女を照らした。どうやらビヨンセ自身がsnsで「お気に入りのシルバーファッションをして、みんなでミラーボールになろう」と呼びかけたらしい。女王蜂(クイーン・ビー)と称されるビヨンセを中心に、ファン(ビーハイブ)が作り上げる球体はまさに巨大な蜂の巣のようだ。

「偏見や対立のないセーフスペースを作ることができて幸せだ」

Netflixで配信されている前作『HOMECOMING』は黒人であり女性である彼女自身の交差性を前面に押し出し作り上げたコーチェラの歴史的ステージ「ホームカミング・ステージ」の制作模様が収録された。作中では、歴史的黒人大学をモチーフにした記録映像が挟まれ、黒人として、黒人女性としての意思表示を果たしている。今作ではキーパーソンとしてビヨンセの家族に大きな影響を与えたジョニー叔父さんについて語られている。彼は有色人種やLGBTQへの人々への弾圧が強かったの50年代に、黒人のゲイとして厳しい人生を送ってきた。しかし同時にユーモアに溢れ常に誰かを笑わせる家族の中心的存在でもあった。ファッションの力を信じ、家族を勇気づけてきたジョニー叔父さんはビヨンセにとって戦いの象徴のような存在である。彼の思い出を語る家族の顔は自信と笑顔に溢れていた。
有名ブランドのドレスの他に1着だけジョニー叔父さんの遺作であるドレスを着て歌うビヨンセの姿はとても印象的だ。

以前からLGBTQコミュニティの音楽から大きな影響を受けていると言われているビヨンセだが、ジョニー叔父さんの存在を知った後だとその影響をより強く感じるだろう。アルバム『Renaissance』から選曲された『PURE/HONEY』はゲイクラブのミュージックをサンプリングして作られている。サンプリングに使用された1990年代の楽曲、ケヴィン・アヴィアンスの『Cunty』モネ・ルネの『Miss Honey』は、アルバム発売後に再び注目を集めた。
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女性にとってもLGBTQの人々にとっても、ブラックの人々にとっても、ビヨンセは自身のアイデンティティへの愛を代弁してくれる存在であり、彼女のライブは全ての人にとっての楽園なのかもしれない。ジョニー叔父さんが叶えられなかった未来を今ビヨンセが実現しようとしているのだ。

ビヨンセの愛娘ブルー・アイビーが踊る『MY POWER』

舞台に上がるブルーと共に流れる「舞台に立たせたことを後悔してる」というビヨンセの音声。しかし、舞台に立ち歓声に包まれたブルーの顔は11歳らしからぬ自信に満ち溢れた表情であった。ライブで踊りたいと言った娘に母が出した条件は「一生懸命努力して練習をしたら一曲だけ踊らせる」ことだった。
ブルーが踊るのにぴったりだと選ばれた『MY POWER』はアフリカ系アメリカ人のアイデンティティを讃える曲である。ダンサーの中心に立ち緊張した面持ちで踊る娘、その後ろから車の上に乗った母ビヨンセが登場する姿は勇猛な母ライオンのようであった。偉大な女性に育てられた娘はきっと未来の女性たちを引っ張っていく存在になるはずだ。

パフォーマンス終了後の舞台裏で待ち構えていた父 jay-Zは、「ママもこんなくしゃくしゃの顔をしていたぞ」とブルーを見つめるビヨンセの顔真似をしながら娘を称えた。

全力を出せなくてもいい。私は私のまま、反抗心でここまで来た訳ではない

Renaissance: A Film by Beyonceより

アルバム『Renaissance』がリリースされた際、ビヨンセは自身のインスタグラムにアルバムに込めた想いを綴った。ルネッサンスの"再生"とは完璧主義や考えすぎることからの解放による"再生"でもあるという。娘を持つ母でありながらクイーンであり続ける彼女は、馬に跨り自由で伸びやかな世界へと皆を導く先導者となるのだ。

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