フランスから、食関連ニュース 2020.08.19
今週のひとこと
ワインの郷ブルゴーニュ地方、ボーヌの南コート・シャロネーズ地域にあるRullyの町に、昨年からペンションをはじめたばかりの日仏カップルがいらっしゃいます。「Clos d'Agneux 1840」。共通の知己の方々とのご縁が重なって、ちょうど部屋が空いているというので小旅行をしてきました。ぶどう摘みが始まる直前の嵐の静けさの前で、観光客も少ない時期。安心して足を運んできました。https://www.agneux1840.com/jp/clos-dagneux-1840-jp.html
19世紀初頭、1840年以前に建設された建物。お二人で2年をかけてリノベーションを重ねた、また今も少しずつ手を加えてらっしゃるというメゾンで、命が吹き込まれているのをそこかしこに感じます。小高い丘の上にあり、1939年にAOCが認定されたRullyのプルミエクリュに囲まれた立地で、青々としたブドウ畑を目の前に眺望できる豊かな時間が流れていました。
奥様である由香・ランドリさんは、もともとは森英恵さんのパリスタッフとして抜擢された優秀な方で、現在は食や時計のPRをされているそう。ペンションのオーナーとして、旦那様とともに二人三脚で温かなお気遣いをいただけ、パリからたった1時間半で足を運べる隠れ家として、打ってつけの場所を知ることができたのが、何よりの宝になりました。旦那様お手製のグジェール(チーズとマスタード風味のシュー)、エスカルゴのケーキやブレス鶏のクリーム煮、由香さんが庭で摘まれたミラベルフルーツで作ったタルト、、。野菜も自家菜園で作っていらっしゃいます。
季節ごとに移り変わる自然と、ワインの銘醸地でもある人々の記憶が重なりあい、場所としてのエネルギーも同時に感じました。来週からブドウ摘みが始まるらしく、グランクリュ通りという畑のただ中の道を散歩してきましたが、今年は雨がまったく降らず、ワインの生産量は30%減であろうと言われる厳しい状況でも、たわわにブドウがなる緑一面の畑に囲まれれば、大海原のただ中に佇んでいるかのような瑞々しさに満ちていました。トラクターがブドウ摘み直前の畑に入っていきます。聞けば、伸びた葉を刈り、ブドウがより太陽を浴びて熟するための仕事だそうです。直前まで、手を欠かすことをしない仕事が、我々に喜びを与えてくれるワインとなる。当たり前に思えることですが、「豊かな土壌には文化がある」と地理学者ジャン=ロベール・ピット氏もおっしゃるように、豊かな土壌に魅せられた人々が文化を育み、威信によって生まれる信条や人々の共通の戒律ともなって、自然に今に引き継がれてきたのを目の前にした思いでした。
1999年ノルウェー・オスロ生まれのファッション・エディターであるエリス・バイ・オルセン氏が創刊した雑誌「Wallet」は衝撃的でした。エリス氏は13歳の時にユースカルチャー誌「Recens Paper」を立ち上げたという、早熟の才女。情報が溢れる時代だからこそ、ヴィジュアルだけの簡便さに流されない教養の大切さ、批評の重要性が高まっていると痛感して「Wallet」を立ち上げたと言います。長財布サイズで見た目も財布であることから「Wallet」で、持ち運びも簡便でありながら、それに潜む価値観をも示唆しているように思えます。ファッションの権力や教育、マーケット、モデルたちの役割など、ファッション業界のあり方にメスを入れるジャーナリズム。こうした意識が、ファッションの都でもあったフランスではなく、ノルウェーで育っているということ。近年ヨーロッパの経済格差は広がってきており、近い未来、北と南ではそれは大きく離れていくであろうという話を、経営者たちからうかがうことがあります。フランスはなんと南にあたると聞いて、ショックを隠せ得なかったのですが、伝統の上に築かれた利権にがんじがらめの旧態依然としたマーケットが、新風が吹き込まれることを拒んでいるようにも見えます。
ランドリさんご夫婦の「Clos d'Agneux 1840」には、今まで住まわれていた方の面影が残っています。食卓のサロンの床についた足で踏める呼び鈴や、用を足した尿を流す配管の隠しタイルなど。前世紀のはじめ、町唯一のお医者様が住んでいたということで、庭を整備するに当たっても、その家の歴史を知る町の人々から、「その松だけは取っておいたほうがいい」など、優しい横槍が入ります。古き良きオーセンティックな姿が、ランドリさんご夫婦はもちろん、人々の記憶を通して守られている。それがフランスの良さであり、多くの人が愛してきたエスプリであり、これからも、こうして守られていくであろうことは、地元に根ざした人々の心意気から感じます。
ブルゴーニュから戻ったら「Miwa」のオーナーで友人である佐藤さんから、一軒貸しホテル「Maruyo Hotel」のオープンの案内が届いていました。場所は伊勢の玄関口、桑名の旧街道にあった古民家をリニューアルしたもの。もともとは明治創業「丸与木材」の築70年の建物で、佐藤さんのご実家の本家だったということです。インテリアは佐藤さんの奥様正木なおさんが担当。写真を拝見しましたが、まさに静かな記憶を感じる古き良きオーセンティックな姿が今に蘇っており、今回の旅行と重なりました。https://www.maruyohotel.com/
今週のトピックス。今週はバカンスに入り、ニュースが少ないのですが、以下をお伝えします。【A】野外設営のミクロホテル?【B】フードトラックの屋台村が陶器の町リモージュに。【C】バーガーキングのヴェジタブルバーガーがフランスでも。
今週のトピックス
【A】野外設営のミクロホテル?
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