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女生徒

■ ひとこと概要

少女から女性へと変化の時にある思考を描くその見事さに何度読んでも新鮮に感動する。見事な冷淡さに毎回痺れるような懐かしさを覚え、夜空の甘酸っぱさを思い出す。今井さんのイラストが見事に彼女に色を与え、更に大切な1篇となった。

■ 感想

「女生徒」太宰治(絵)今井キラ(立東舎)P96

少女から女性へと変化の時にある女の子の脳内を描くその見事さに、何度読んでも新鮮に感動する。早口であろう次々と飛び去る思考、移りゆく気持ちは少女の期間を通り過ぎた人であれば見に覚えがありすぎて、まるで文字で見るアルバムの様。

レエスやすみれ、古風なアンブレラ、絹レエスで編んだ黒い手袋。薔薇のワルツを夢見ながら、現在の自分をマッチ売りの娘と例える不機嫌さは少女そのもの。柔らかいピンクの夕靄に美しく生きたいと願ってすぐ、巡り巡る思考の中で夢を見、絶望し、軽蔑し、憧憬しては、ご機嫌と不機嫌を行ったり来たり。女心の矛盾のない矛盾は、読んでいるうちに自分の思考かと思えてくるほどに違和感なく、脳内を解剖されている心持ちになってくる。

大好きな部分は、草について思うパート。どうして草とは毟りたい草とそっとしておきたい草があるのか。可愛いと感じる草とそうではないと感じる草に大差はないはずなのにと思案し、「理屈はないんだ、女の好ききらいなんて」と大胆に確信をつく所も小気味好い。

哲学のシッポにつかまる瞬間に放たれる「キュウリの青さから、夏が来る。」などのはっと胸を突かれる短文の魅力にも溢れている。そうして思春期特有の思考に想いを巡らせ、色々に心を揺さぶられていると突然、「もう、ふたたびお目にかかりません」と、ピシャリと彼女の思考から追い出される。

勝手に彼女と脳内で会話でもしている心地から突然の幕切れに放心させられ、見事な冷淡さに毎回痺れるような懐かしさを覚え、夜空の甘酸っぱさを思い出す。今井さんのイラストが見事に彼女に色を与え、更に大切な1篇となった。

■ 寄り道読書

「女生徒」太宰治(写真)佐内 正史(作品社)P100

写真家・佐内正史さんが撮る女生徒と太宰と読者の間で生まれた女生徒が溶け合っていく大好きな本書。

時代の違いはあっても、少女の内面世界は共通した喜びも悲しみも鬱屈した想いもあることがふとした表情から伺える。多感な時期のおしゃべりな思考は、一見取り澄ました少女の中で渦巻いている。そんなことを思い返しながら重ね合わす遠い日の幸福な時間が愛おしい。

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