方舟
■ 感想
久しぶりに大学時代の友人たちで集まろうと長野の別荘に行くことになった7人。そのうちの一人は友人ではなく、語り手となる柊一がこの旅行に対し思うところがあり連れてきた従兄。何か揉め事があった時に事を捌いてくれそうと同伴者に人選されただけあって常に冷静に物事を観察し、その後起きる事件の探偵役として活躍していく。
集まった日の午後、ここから歩いて行けるところに面白い地下建築があるから見に行かないか?という提案に乗るも、近くのはずのそこは峻険な山に阻まれなかなか辿り着くことが出来ない。やっとの思いで着いた頃にはもう山を安全に下山できる刻限は過ぎていた為、仕方なく地下建築に泊まることに。
昔ヤバめのことに使われていたと噂される地下建築の入り口はマンホールのような蓋になっていて、ドラマ「LOST」を彷彿とさせる不穏さ。地下施設故にスマホが圏外になり連絡が取れないので、一旦外で連絡してくると出掛けた3人は、帰還の際に6人に増えていた。キノコ狩りをしていて道に迷ったという親子3人を含む9人で施設で一晩を過ごし、開けた朝…大きな地震が起き出口が塞がれ閉じ込められてしまう。
そして地下一階では一人の友人が絞殺体となって発見される。出口は大岩で塞がり、地下3階の非常口は水が浸水し、増えていく水で呼吸ができなくなるまでのタイムリミットは1週間。誰か一人が犠牲になれば助かる道はあるが、誰か一人は命を落とすことになる。生贄を選ばないとみんな死んでしまう。でも犠牲者はどう選ぶのか。それは殺人犯だろうと犯人以外は思うも、肝心の犯人は誰なのか、1週間以内に見つけることはできるのか、その決断は正しいのか、読者も共に疑心暗鬼と葛藤の渦に巻かれていく。
自分の命と友人の命、他人の命、絡まる人間関係、生贄への暗い想い。命の期限が迫る中、読み手ひとりひとりにも誰かの犠牲の上に生きることを選ぶのか、殺人犯だからその人は死ぬべきなのか、あなたならどうする?と容赦なく正解のない問いを突き付けてくる。
地下施設の平面図書かれた名前は「方舟」。洪水から護られるはずの方舟は水没の危機にあり、方舟に入った人たちだけが終末を迎えようとしている皮肉。悪魔が下す冷酷で強烈な最後の審判に震撼する。
■ 漂流図書
■愚行録 | 貫井徳郎
久しぶりのイヤミスが楽しかったので、積読のイヤミスもこの秋はどんどん読んでいきたい。