湊高台3丁目
初めて不動産屋に行って自分で部屋を借りたのは22歳のときだった。仕事は決まったけど給料は安くて、車も持っていなくて、あるのは若さと体力だけだったあの頃。
彼氏と同棲するために借りたその部屋は、ごく普通の1Kで、お風呂とトイレが別になっていることと、日当たりの良さ、1間の押し入れが付いているところが決め手だった。家具らしい家具を持っていなかったから、押し入れは必須だった。
Google マップで見ると、今でもそのアパートはある。
友達が誰一人いない土地で、彼氏しかいなくて、それでも平気だったなんて、今では信じられない。その彼氏とも1年もせずに別れてしまって、それでもしばらくあの部屋で暮らしていた。
あの頃は本当にお金がなくて、早朝のパン屋の仕事と昼間のパートを掛け持ちしていた。朝4:00過ぎに家を出て、夕方6:00過ぎに帰ってきて。
家計簿が付けられるようになったのもあの頃だ。自分が、最低でもどのくらいお金があれば生きていけるのかを知ることができた。
自分で自分を食べさせるだけで精一杯で、娯楽はテレビと音楽くらいしかなくて。前の仕事のボーナスで買ったSANSUIのコンボが、唯一の高級品だった。
職場の人と遊びに行くようになったり、つきあう人が変わったりしたけど、北海道に帰ることが決まった時に「帰るなよ」と言ってくれたのは時々遊びに来る男友達だけだった。
もうすぐ20年ぶりにあの部屋のある街を訪れる。フェリーターミナルに迎えにきてくれるのは、あの男友達だ。
湊高台3丁目のアパートにも連れていってもらおう。お金もなくて、なんだかいつも寂しくて、めちゃくちゃだったけど、今のあたしの一部はあの部屋で作られている。