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コロナ時代・新たなる始まり 第12話「生まれ変わる」


どんなに頑張っても心を込めても、思い描いた通りに進まなくなることもある。でも、それは神様が「違う道を選んだ方がよいよ」と教えてくださっているだけなのだろう。

『天's SPACE』は、2021年春から貸しギャラリーとして、本格スタートを切ろうとしていた。それまで全国各地の様々なギャラリーでカチーナ展を行ってきた経験を生かし、これがあったら便利だな、あれも必要だな、などと思いつく限り、まさに準備万端整えて、いざ!という直前にストップがかかった。その時は、正直なところ目の前が真っ暗になった。

この貸しギャラリーを運営することで、ある程度の収入はあるだろうと見込んでいた。しかしその道は絶たれた。『ハミングバード』の売り上げは、まだ家賃とアルバイト代の支払いで消えているような状態である。そんな中で、いつか再開出来る日の為にホピショップの家賃を支払い続け、事務所の家賃もバックヤードにしているayaハウスの家賃も必要経費として払っている。

どうにかギリギリ踏ん張り続けてここまでやって来ているが、無駄な家賃を払う余裕など皆無だ。これ以上お金を支払い続けるリスクを無くす為にも、物件を解約してしまった方が良いのではないか、とも思った。

でも、TENらしい奇跡的な流れの中で出合った物件であることは揺るぎない事実であり、私達の地元、谷根千エリアにおいてこれ以上の立地条件はないといえるほどの場所にある。
何より、大家さんに「本当はあなたにここをお店にして欲しくて借りてもらったの」という言葉が胸に刺さっていた。

考え方を変えるとエントランス以外は、床も壁も綺麗にし、雨よけ日差しよけテントまで既に取り付けている。
あとはエントランスを変えることが出来たなら…直ぐにお店として息を吹き返すことはできるのだ。
どうにか出来なものだろうか…と思っていたら、なんと前に申請していた個人事業主向け支援給付申請が通ったと連絡がきた!

やはり神様は凄いタイミングで物事を整えていく。
それほど多い金額ではなかったが、多分、これでエントランスは変えることができるはずだ。

でも、どんな店???

ワタシは一日考え、そして、ひらめいた。
TENがこれまで出合ってきた「ステキ」これから見つける「ステキ」をセレクトしたお店を開けば良いのだ!これまでも国内外導かれるかの如く巡った場所で出合ったステキなものをネットショップの中で販売し続けてきたではないか。それを、リアルな店舗で行えば良いだけだ。

ブータンで見つけたドラゴンブローチも、

ナバホの友人が作ったビーズアクセサリーも

そのまま、事務所の奥に眠ったままだ。日本各地にも陶芸家やガラスアーティスト、アクセサリー作家など、素晴らしい作品を生み出す友人たちがいる。

更に、もともとお洋服が大好きなこともあり、ある程度思いつくメーカーさんもある。それに問屋さんから仕入れる方法もあるだろう。

そう思った途端、お店のビジョンが一気に広がって見えてきた。


扉は、木にガラスが入ったお洒落で開放感あふれるものにしよう。エントランスは明るいウッドデッキにして、扉の前にはお花を置こう。中も明るくそこには素敵なお洋服や雑貨や小物が並べられていて…。

そうだ!奥にはホピショップが開くまで、カチーナやホピジュエリーも並べて、このお店でホピのことも紹介していこう!


ワタシは一気にワクワクしてきた。

ワタシは早速、佳世子さんに再び連絡を取り、打ち合わせをした後、理想とするような扉のイメージ写真をネットで探して送った。


しかし、このような扉はオーダーメイドでしか出来ず、多分もの凄く高額であり、更に時間も要するだろう…と。だから扉は既製品を取り付けてみてはどうかと、イメージ画像が送られてきたが、というかどうもピンとこなかった。やはり予算が少ないのは厳しい。

でも、そこで諦めないのがワタシだ。
絶対に予算内でオリジナルの扉を作ってくれる業者さんはいる!そう思って探しに探した。そしていくつか候補の会社も見つかったのだが、一番丁寧なやり取りをしてくださったテラカワさんという業者さんにお願いすることにした。メールであっても、人柄や仕事の丁寧さは出てくるものだ。

扉は制作から設置まで、およそ一ヶ月かかるという。
ワタシと浅井は、その間に店内の棚など可能な限り自分たちで作り上げることにした。
埼玉にある大型ホームセンターまで何度か通い、ギャラリー棚に合わせて木の板をカットしてもらい、塗装したり、釘を打ちつけたり、DIYに挑戦♪

内装とともに、アパレルメーカーさんに直接交渉したりする日々を重ね、春になった頃、


ようやく、それなりに店舗の中は整った。もう、アルミサッシの扉は嫌だったので外してもらい、ゴールデンウィーク目前に、ある程度のカタチはついた。

あとは扉の完成を待つばかりだったのだが、やはり相変わらず浮き上がっている鉄板の、ガタンガタンという音だけは気になった。そこで私達で悪戦苦闘しながら木の板を置いてみたり、外してみたり…。そんなことを繰り返していた時、斜め向かいのお花屋さんコタケさんが、私達の不自然な動きを察知してやって来た。

ここに本当はウッドデッキを作りたいのだけれど、それは難し過ぎて…なんて話をしていたら「それなら作ってあげるよ。実はご近所のお店のベンチとか、色々頼まれて制作しているものがあるからさ。板とかも倉庫にあるんだよ」という。それも、信じられないほど格安で作ってくださるというのだ。まさに渡に船だった。

「この辺りまでウッドデッキがあれば、気になる部分が完全に隠れるし、晴れた日はその上に商品も並べることもできるから、きっと使い勝手が良くなるよ」

ささーっと私たちの店のエントランスサイズを測ると、

コタケさんは自分のお店の前で、数日でウッドデッキを完成してくださった。

それから数日後。テラカワさんがいよいよ扉取り付けにやって来られ、扉が運び込まれてきた。

あっという間に取り付け工事が進み、テラカワさんから鍵を受け取り、

ツーショット写真を撮りながら喜んでいたら、

コタケさんが寄せ植えのお花と、百合の花束を持ってお祝いに来てくださり…有り難すぎて言葉もなかった。

そして、ワタシはこの店の名前を『天’s SPACE』改め
『TEN’s select』(テンズ セレクト)と命名した。

その看板をどうするか…それも悩みに悩んだが、たまたま見つけた琉球石灰岩の石版ネームプレートを木枠で囲んだ看板がお店の雰囲気に良いのではないかと思い付いた。

石版は小さなものだというのはわかっていたので、木枠部分を木工職人の磯部さんならお洒落に演出してくれるだろうと思った。業者に印字してもらったら石版ネームプレートが出来上がったら、磯部さんに木枠を作ってもらおうと思っていたが、石版を見て驚いた。

あまりにも文字が小さすぎて、読むことすら困難なのだ。これではお店の看板にはならない。

磯部さんに、この石版プレートの裏を使いレタリングで改めて書いてもらえないか頼んでみた。最初は請け負ってくれたのだが、でこぼこした石という素材上、難しくて厳しいとのことだった。

「これに合わせた枠組みの木枠は完成しているので、ayaさん、この石版のプレートに店名をご自身で書いてください。そうしたら完成しますから取り付けますよ」という。

看板は顔だ。
ここまで頑張って整え直した店だ。腹を括りワタシが石版ネームプレートを完成させることで、もしかすると店に命を吹むことに繋がっているのかもしれない。だとしたなら、それも含めて神様の意思の様に感じる。

ワタシは気負わずやり遂げる為、近くのカフェで肩の力を抜きながら、ゆっくりしっかり書き上げた。


そして書き上がった石版プレートを磯部さんのお洒落な木枠に組み込んでもらい、壁に取り付けてもらって、

店の看板も完成した。

ようやく私達の新たなるお店『TEN’s select』が正式に誕生したのは2021年6月のことだった。

そして、この頃『ハミングバード』では大改革が始まろうとしていた。

…続く。

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