巴雅爾(はがじ)と伊珠(いしゅ) 3
草原を吹き抜ける風
ふたりの頬を優しい風が撫ぜて行く
巴雅爾 私はあなたから拒まれて 砂漠に逃げた時 傷心の私をあのひとが
包み込んでくれたの
初めは友だった 好意は気づいていたけれどあなたしか見えなかったの
それでも櫂花の薫りを嗅ぐとあのひとを想い切なくなったわ
いくら拒絶しても諦めず現れるあの人
あの人を受け入れた そして嫁ぐと決めた
伊珠 あの者の妻にはなれないのだよ あの者は皇帝の甥
君は庶民に過ぎないのだから
そうね 望めはしないわね
悲しそうに笑う伊珠
巴雅爾 あなたは出逢った時から私を助けてくれた
知らない間に憂慮する障害を取り除いてくれたのね
あなたが私を拒んであなたのもとを去ってからも
私は事あるごとにあなたに頼った
あなたは何も言わず守ってくれた
私はそんなあなたに甘えた、いいえ利用したんだわ
伊珠 それは違う 私は無償の心でしただけだ
気に病むことは無い
君が幸せならそれでよかったのだよ
強い風が伊珠の衣を舞い上げる
風が強くなってきた そろそろ戻ろうか
伊珠が黙って巴雅爾の車椅子をおした
伊珠、君の寝台の横に木箱がある 中の衣装を着てくれないか
私が見てみたい衣装なのだよ 頼む
伊珠は小さく頷いた
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