愛しい女
錦覓 君に初めて逢ったのは旭鳳が先だった
変わった娘 それが初めての印象だった
私の本来の姿を目にしても変わらぬ微笑みを返してくれた
君を我が策の駒として近づいた でも 心が少しづつ変わり始めた
無邪気な君 危なげで手を差し伸べたくなる君
いつしか 愛しく想う女(ひと)になった
天帝と天后の嫡男である弟 旭鳳
すべてを持つ者 君の心までいとも簡単に手中にした
何事にも関心を持たぬ私に芽生えた嫉妬 憎悪 悩み 悲しみ
君と旭鳳の情事を、魔獣が吐いた夢境で見てしまった時の哀しみを君はわかるまい
拳を握りしめることしかできぬ己
だが 君の母上が君に与えた隕丹が私に味方した
そして 天帝と水神の婚姻の約束
愛がわからぬ君
いっそのこと 永久に知らなければいい
私の傍に君がいてくれれば 少しの愛を永く長久...
隕丹の力をもってしても旭鳳を慕う君
それがなんであるかも知らず
恐れていた隕丹の消滅
だが 天意は我に味方をした旭鳳の死
君は愛を自覚したが想う相手はもういない
君が身を寄せる処は私だけなのだ
漸く手に入れた君
身は私の傍らにありながら心は旭鳳と共に逝ったのか
いつになったら私を受け入れてくれるというのだ
君は身体と心を傷つけながら旭鳳を追い求めた
私が今生 欲してやまない君
手放さない 何があっても...
復活を成し遂げた旭鳳
私は君を取り返すべく最終決戦に臨んだ
思いもかけず我ら兄弟の間に立ちはだかった君
君は旭鳳の腕に抱かれて落命してしまった
私にはもう何も残さず 逝ってしまった君
旭鳳は来世の君を探して彷徨う
五百年後 ふたりはまた出逢った
私は天帝 魔獣と鄺露だけが残った
天界で高みを得た引き換えに失った最愛の女 錦覓
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