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家系の記憶

家系ラーメンに虜になっている。
「虜」といえば良い響きになるが、どちらかというと依存に近い。

定期的に、無性に食べたくなる。
しかしその欲に従って食べに行くと、食べ終わる直前くらいで胃がもたれ始め、少し気分が悪くなる。
そっと丼をカウンターの上に置いて、「ごちそうさま」と店員に伝えながら、もうしばらく行くのはやめようと心の中で思うのだが、数日経てばその時の心境はいずこに消え、また無性に食べたくなっている。

そんなことを繰り返して今年も終盤に差し掛かっている。

「家系」と一口に言っても色々な種類がある。
私が好きなのは、豚骨が強めでライスが進む系の味である。
家系のお店では、ライスが無料で食べられるところが多い。
一番安い「ラーメン並」が、650円〜800円前後でだいたいのお店で設定されているため、その値段でライスまで付いてくるのは破格のコスパである。

私は以前、2年ほど駅員として働いていた時期があり、その頃は出勤のたびに駅前の家系ラーメン店で食事をとっていた。
お昼の休憩時間に食べることが多かったが、一度だけ、上司に誘われて終電対応を終えた後に行ったことがある。
酔っぱらいを追い出して改札を閉めた後の夜中1時過ぎ、居酒屋もほとんど閉店して静かな駅前でぽつんと光る赤看板。
その時食べた家系は、仕事終わりの充足感と夜中食べる背徳感とで特別な味がしたのを未だに覚えている。

さらに過去に遡って、しっかりと家系にはまり始めたのは大学4年生のとき。
卒業までのモラトリアム期間、手っ取り早くお金を手に入れるために週給の派遣に勤しんでいたが、その派遣先で出会った社員の人に可愛がっていただき、よくお昼休憩に家系ラーメン屋に連れていってもらった。

「俺はライスにこだわりがあるんだよ」

その社員はそう言って、ライスに青がっぱと豆板醤を大量に乗せて、ラーメンが届く前にかきこんでいた。
私も見よう見まねで青がっぱと豆板醤をライスに乗せてかきこんだ。

それ以来、今でも私はその食べ方を続けている。

そういった思い出がたくさんあるからか、家系ラーメンを啜るたびに、さまざまな記憶や思いを浮かべながら、懐かしい気持ちになるのである。


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