『スマホ脳 』(アンデシュ・ハンセン〈Anders Hansen〉著 久山 葉子訳 新潮新書)読了雑記2021.02.12

今更ながらだけれど、『スマホ脳 』(アンデシュ・ハンセン〈Anders Hansen〉著 久山 葉子訳 新潮新書)を購入。

この30年間における精神疾患、特に鬱や学習障害等々の急増要因をどこに見出すかにおいては経済格差や相対的貧困の再生産などが挙げられているが、なるほど2012年頃の電子通信分野における技術的成果を人類の変革期の波の一つと考えれば思い当たることはある。

社会とか、世間とかという単語が示す外界という概念は、基本的に、自分の足で歩いて移動できる範囲内で直接接触できる他者との間に構築されるものだというのが、人類の歴史における殆どの部分を占めていた。

加えて、過去1000年間の間に文字と書物という情報パッケージ技術を得ることによって、(読み手に判読能力を求める必要性があるという制約は存在するのだが)時間と空間を超えた意志の伝達を可能にした。そこで、書物に触れることができる人々の社会は格段に広がった。

過去100年間ほどの間に発明された電話とテレビの遠隔通信技術は、人類のコミュニケーション手段における一大革命である。そしてそれらの技術を基にしているとは言うものの、手に収まる情報通信端末によって(システム維持と電気の持続的確保の問題はあるが…)現在は文字通り、瞬時に、しかも、個人レベルで地球のほとんどの地域に居住する人々誰とでもと意志の伝達を可能になっている。

更に、わずか数時間で1000km以上の移動を可能にする列車や飛行機が普及することで、小学生が一人でも東京からハワイまで出かけることができる時代だ。1980年代以降の人間の移動量は大航海時代以降100年間の伸び率と比較しても急増しているはずだ。

人類の歴史において、直近の70年間のような飽食の時代など経験していない。同様に、他者との接触頻度(人類の進化の過程における直接対面ではないにしても)が、それまでの歴史(それも、過去100年間どころか、つい最近の15年間のことだ!)におけるそれとは桁違いに上昇している時代も未経験だ。

脳の情報処理機能と身体の制御機能が社会構造における自身の立ち居振る舞いと齟齬を起こすのも当然だろう。私たちはそんな時代に生きている。

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