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幼馴染のアイドルと朝食を

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ある日の朝

一人暮らしの部屋のソファーで目が覚める。


視線を動かすと、昨日の夜に遊んでいたゲーム機と漫画たちが部屋中に散らばっていた。


兵どもが夢の跡。


記憶が曖昧。

そういえば昨日は寝落ちしたのだった。




あれ、そういえば



頭の中である考えが浮かぶと同時に、洗面所のほうから物音が聞こえてきた。




シャコシャコシャコシャコ




歯を磨く音。



その音を聞いて、横になっていた身体を起き上がらせる。


軋むように身体が少し痛い。


やっぱりソファーで寝るのは疲れがたまる。




そんな身体を引きずりながら洗面所に向かうと、そこには〇〇のTシャツを着て歯を磨いている小坂菜緒の姿があった。


彼女と目が合う。



菜緒「あ、〇〇おはよう。意外と起きてくんの早かったなぁ」



朝だからだろうか

いつも以上にやわらかい関西弁の菜緒の声が耳を擽る。



〇〇「おはよう、菜緒」



〇〇は彼女に朝の挨拶を返しながら、自分も歯ブラシを手にして歯を磨き始める。



〇〇「あー、身体が痛い…」



菜緒「ソファーで寝落ちなんてするからやん」



〇〇「面目ない。ってか、俺いつから寝てた?」



菜緒「憶えてないん? フォートナイトやってるときに動かなくなったと思ったら寝とったんやで」



〇〇「あー、そういうえばそんな気もする…」



言われたら、そんな気がする。

なんとなく思い出してきた。


昨日は菜緒が仕事終わりに遊びに来て、そのまま泊っていったのだ。


別に珍しい話ではない。

たまに気まぐれにきてはこうして〇〇の家でご飯を食べたり、ゲームや漫画に興じて夜更かしする。


菜緒も遥香も昔のように、幼馴染として過ごしていた。



菜緒「ふふ、〇〇は昔から変わらんよな」


屈託のない笑みでそういう菜緒。


菜緒だって変わらない。


いや、正確には”菜緒という人格”は変わらない。
でも、”菜緒という人”は変わった。


〇〇が幼馴染として過ごしていた昔と比べると、比較にならないくらい美しくなった。

昔は”男と女”を意識することなんてなかったのに。


今ではふとした時にドキッとする。

まったく、朝から心臓に悪い。



なんて






菜緒「よしっ、歯磨き完了!」

口をゆすぎ終えた菜緒は歯をイーッと鏡で確認して、そのまま〇〇のほうに向かっても同じように見せる。


〇〇「はいはい、今日も綺麗な歯ですよ。さすがアイドル」



菜緒「あー、バカにしんな?」



〇〇「してないってw」



菜緒「えー、ホンマ?」


そう言いながら菜緒は〇〇の背中にギュウっと抱き着きながら、見上げるように〇〇を見つめる。



身長差も相まって、後ろから見上げるように見つめる菜緒の破壊力に加え、彼女に抱き着かれることによって感じる菜緒の身体の感触。


もう
朝から刺激が強すぎる。

健全な男子大学生の身にもなってほしい。



〇〇「ちょっと菜緒、歯磨きできないって」



菜緒「歯磨きくらいできるやろ。それとも菜緒に抱き着かれて興奮でもしてるん?」



ニヤニヤと〇〇をみる菜緒。


確かに興奮を覚えないとウソになる。

でも、それを菜緒に知られるのはなんだか癪だ。



〇〇「んなわけ。ほら、アホなこといってないで、飯でも食べるよ」



〇〇はそういいながらできるだけ優しく、でも少しだけ力をこめてデコピンのようにしながら中指で菜緒のおでこをピンッとつついた。



菜緒「痛った! もう〇〇!」



〇〇も歯磨きを終えて、プリプリと怒る菜緒を連れながらキッチンへ向かう。



〇〇は冷蔵庫を開けるが何とも寂しい中身だった。

自慢じゃないが、そこまで自炊をするほうでもない。



菜緒「なんもないやん」



さきほどの仕返しとばかりに嫌味のように〇〇の後ろから覗き込むようにして菜緒がいう。



〇〇「綺麗に整理されてるでしょ?」



菜緒「アホ、なんもないだけやろ」



〇〇「一応あるやん」



菜緒「缶ビールと調味料しかないやん」



〇〇「まぁ、そうともいう」



菜緒「ご飯ある?」



〇〇「ないね、残念ながら」



菜緒「んー、あっ」



そういうと、菜緒は〇〇の脇から冷蔵庫のなかをガサゴソと探る。


すると、なにかを見つけたように一つの瓶を手に取った。



菜緒「パンあったよな」



〇〇「ああ、パンはあるよ。これだけは欠かさないからな」



謎のどや顔で菜緒に返す〇〇。



菜緒「じゃあ、これで食べよ」




そういって菜緒が差し出したのは、一つのジャム。

それは、〇〇の実家で作っている手作りジャムだった。



菜緒「〇〇ママの手作りジャム。これとパンで十分や!」




そう嬉しそうにいう菜緒は、ジャムとパンを手に取りリビングに向かって〇〇の手を引いた。



昔ながらの飛び出し式のトースターにパンを2枚セットして、まっている間にケトルでお湯を沸かす。


コーヒーが飲めない菜緒に合わせてティーパックをマグカップにいれてそこにお湯とミルクを入れてミルクティーをつくった。


チーン ガチャン


ちょうどミルクティーを入れ終えたところでパンが焼けた。


菜緒「~♪」


菜緒はウキウキとトーストにジャムを塗る。



〇〇「嬉しそうだね」



菜緒「うん、菜緒これ大好きやもん」



〇〇「母さんのジャム?」



菜緒「うん。このゴロっとしたイチゴと程よい甘さが病みつきになるんよね」



〇〇「まあ、確かに俺もジャムは母さんのしか食べないけどw」



菜緒「せやろ。はい、〇〇のぶん」


菜緒が〇〇の分のトーストにジャムを塗ってくれて、お皿にのせた。



〇〇「ありがと」



菜緒「じゃあ、いただきまーす」



パクっと小さな口をおおきくあけておいしそうにパンを頬張った。


菜緒「ん~♪ うまっ!」



本当においしそうに食べる。

まるでジャムかパンのCMのような光景が目の前で繰り広げられるのを、眼福の想いで眺めながら、〇〇もトーストを食べる。



他愛もない話を幼馴染としながら過ごす朝食のひと時。



何でもない時間だけど、この上ない幸せなひと時でもある。


〇〇はそんな幸せを感じながらも、照れくさくて心の中だけでそれを隠す。



菜緒「ふふ、でもなんだか懐かしいわ。〇〇とこうやって朝ご飯食べてると、昔を思い出す」



〇〇「たしかに、昔はよく一緒に朝ご飯食べてたよね」



菜緒「またこうやって〇〇と一緒に朝ごはん食べれるなんてな~」



〇〇「それは俺のセリフだって。てか、まさか菜緒がアイドルになってるとは思わなかったし」



菜緒「ふふ、〇〇がそれいう?」



〇〇「え? どういう意味?」



菜緒「もう、なんでもない!」



〇〇「なに、気になるじゃん」



菜緒「なんでもない。それより、またこうして朝ご飯食べに来てもいい?」



〇〇「いいけど、菜緒のほうこそ大丈夫か? アイドルなのに」



菜緒「アイドルやけど、その前に〇〇の幼馴染やし、それに…」



そこまでいうと菜緒は少し押し黙った。


不思議に思い、〇〇は問いかける。


〇〇「それに?」



菜緒「…大切な人と一緒にいたいやん」


菜緒のその言葉に、これまでにないほど胸が激しく鼓動するのを感じる〇〇だった。





つづく
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。


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