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”おいも”と祐希と僕の一週間の物語

【与田祐希 短編物語】

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これはある秋の物語。


祐希「〇〇~、ただいま~」


彼女の与田祐希の声が、同棲している中古の一軒家に響き渡った。



〇〇「遅かったね、おかえー…り?」

祐希の気配をたどって彼女のもとへやってきた〇〇は、思わずびっくりして言葉がとまった。


そこには、祐希の姿があった。


しかし、それだけではなく、彼女と同じくらいの大きさの犬が、同じような格好で〇〇のほうを振り向いていた。


〇〇「え、この犬どうしたの?」


もちろん、〇〇と祐希は犬など飼っていない。



祐希「なんかね、道を一人で歩いていたの。ほらいつもいく河川敷の近く」



〇〇「え、それってマズくない? 飼い主さんとか心配してるんじゃ…」



祐希「祐希もね、そう思ってあたりを捜してたんだけど、全然見つからなかったんだよね。リード付けてなかったからどこからか逃げ出してきちゃったのかな?」


祐希はそういいながら犬をわしゃわしゃと手で撫でながら、半分犬に語り掛けるかのように言った。


犬「ワフッ?」


祐希「そうかそうか、わからないよね~」



通じているのかいないのかわからないけど、なぜか意思疎通している様子の祐希。


〇〇はほほえましく思いながらも、さてどうしたものかと頭を抱える。



河川敷のあたりに返しに行くにしてももう夜は暗くなりつつある。

さすがに犬1匹で夜の河川敷に放り出すことはできない。



〇〇「仕方ない。明日から飼い主探しだな」



祐希「うん! そうだね!」




ということで、〇〇と祐希の迷子の犬の飼い主探しがはじまった。



祐希は余っていた有休を使うといってとりあえず1週間休みをとった。


いきなり休みをとって大丈夫なのかと心配になったが、


祐希「梅ちゃんや美月、史緒里もいるから大丈夫!」


といって半ば強引に休んでしまった。


美波・美月・史緒里「「「与田~~~!!」」」


同期たちに与田が怒られるのはまた別のお話。



さすがに〇〇は仕事を休めないので、テレワークなどを駆使して協力していくことにした。


とりあえずSNSなどを通じて情報発信と情報提供を呼び掛けてみたり、地元の商店街の友人に協力してもらい、チラシを張ったりとかで様子を見ることにする。



〇〇「はい、それでは失礼します」



いろいろなところにお願いの電話をかけおえた〇〇。


スマホを切り終えたときだった。




祐希「おいも~! お散歩いくよ~!」




庭のほうから祐希の声が聞こえた。


声に誘われるように〇〇が庭のほうにいくと、そこには庭で一緒にいた祐希と犬の姿があった。


というか、さきほど聞こえてきたのって、もしかして…



〇〇「祐希、”おいも”って、なに?」



〇〇が祐希に問いかけると、くるっと振り返って答える。



祐希「この子の名前! 何もないと呼びづらいし可哀想でしょ?」



〇〇「まぁそれはそうだね。ところでなんで”おいも”?」



祐希「だって、なんだか焼き芋みたいな毛の色だし、秋に出逢ったし。秋といえば焼き芋でしょ?」



〇〇「そ、そうかな?」



祐希「え~、いい名前だとおもうけどな~ ね~、おいも?」



おいも「ワフッ!」

どうやら、ネーミングセンスに疑問を思っているのは〇〇だけのようで、おいもは嬉しそうに祐希に後ろから抱き着くようにしながら、祐希と二人で満足そうに〇〇を見るのだった。









それから1週間


〇〇と祐希、そして、おいもの二人と一匹の生活は続いた。



祐希「〇〇~、おいも~、お散歩いくよ~」


〇〇「はーい」


おいも「わふっ」



もうすっかり慣れた感じで、祐希がリードをもって、〇〇がハーネスを着ける。



祐希がリードをもって、祐希がおいもを見つけた河川敷へ。

それがいつもの散歩コース。


河川敷を歩いていれば、おいもの飼い主にも会えるかもしれないという期待を込めてだった。


それでも、残念ながら今日に至るまでおいもの飼い主は現れなかった。



前を歩く祐希とおいも。

祐希と同じくらいの大きさのおいもは、ゆうきに合わせて隣をゆっくりと歩く。


それでも、河川敷の原っぱまでくると、ソワソワしたように走る準備をし始めた。



祐希「よーし、おいも! いくぞ~!」



おいも「ワフッ‼」

走り出す祐希とおいも。


すっかり仲良くなった二人。



そんな二人をほほえましく眺めていた〇〇。

すると、不意に〇〇のスマホが鳴った。





しばらく遊んだ祐希とおいも。


祐希「ちょっと休憩~」


独り言のようにそう言いながら河川敷の原っぱにゆっくりとしゃがむ。


心地よい秋風が吹き抜ける。


草を踏む音を鳴らしながら、おいもがゆっくりと近寄ってきて祐希に身を寄せる。


祐希「ふふっ」


そんなおいもが可愛くて、祐希はおいもを撫でながら目の前の川原を眺める。



祐希「おいも、家族見つからないね…」



おいも「ワフッ」



祐希「…いっそのこと、ウチの子に―」



祐希がそう言いかけた時だった。




「ミゲル‼」




遠くのほうからそう叫ぶ声が聞こえた。

それと同時に、おいもがピクッと反応して声のほうを向く。


祐希もそれにつられて声のほうに視線を向けると、〇〇と一緒にこちらを見つめている老婦人がたっていた。



老婦人「ミゲル!」



ふたたび老婦人がそう叫ぶように呼ぶと、おいもが立ち上がって駆けだした。



おいも「ワフッ! ワフッ!!」



おいもは老婦人に勢いよく駆け寄ると、しっぽを勢いよく振りながら嬉しそうに身体を擦り付けた。



おいもと入れ替わるように〇〇が祐希のもとに近寄る。



〇〇「おいもの飼い主さんだって。さっき張り紙見て連絡してくれたんだ。うっかり家から逃げ出しちゃったらしくて、ずっと探してたんだってさ」



祐希「……そう…なんだ」



〇〇「…よかったな見つかって」



祐希「…ミゲルだって、カッコいい名前だね」




おいも「クゥーン…」


トトト
と、おいもが静かに祐希に歩み寄る。



そんなおいもを祐希はゆっくりと抱きしめて額をくっつけながら語り掛ける。



祐希「よかったね。飼い主さんみつかって。もう迷子になっちゃダメだよ」


最後の別れを惜しむようにギュッと抱きしめてから、その力を緩めて祐希はおいもに最後の別れを告げる。



祐希「…ほら、行きな。 待ってるよ」



おいもは、まるで”ありがとう”というかのように、声にならない声でも発しようとしているかのように口を小さく動かしてから、飼い主さんのもとへと歩いていった。




飼い主さんがペコペコと見えなくなるまで頭を下げるのを見送る〇〇と祐希。



手を振っていた手を下ろす。



〇〇「……がんばったね」



〇〇はそう言いながらゆっくりと祐希の頭を優しくなでる。



祐希「ぐすっ」



となりの祐希の瞳からは大粒の涙がとめどなくあふれ出ていた。



そして、祐希はギュウッと〇〇を抱きしめるようにして顔をうずめる。

むせび泣く祐希の感情が伝わってくる。


〇〇はできるだけ優しく勇気を抱きしめた。



祐希「ぐすっ……〇〇はずっと私と一緒にいてね」


〇〇「…うん、絶対離れないから。祐希とずっと一緒にいるよ」



涙を浮かべながらそう願う祐希をみて、そう心に決める〇〇だった。








おわり
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。

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