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山下美月との同棲生活は刺激が強すぎる件
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今日はバイトがクローズまでの日。
〇〇が家にたどり着いたのはもう日付が変わろうかという頃だった。
〇〇「(あー、さすがに10時間ぶっ通しは疲れたー…)」
鉛のように重くなった身体を引きづるように、なんとかアパートの階段を一歩ずつ上がっていき、ようやく自分の部屋のある三階までたどり着いた。
でもまだこれからだ。
〇〇の部屋は一番奥の角部屋。
いつもは角部屋最高なんて思っているが、こういう時は恨めしく思う。
一歩一歩歩みを進めると、暗くてよくわからなかったが〇〇の部屋の前に蹲る人影が見えた。
〇〇「(え、なに? マジ無理、怖いんだけど…)」
お化けとか怖いもの系はからっきしの〇〇は、思わず足を止めた。
しかし、疲れもピークに達しようとしている。
はやくシャワーを浴びてベッドにダイブしたい。
その思いだけで、身を奮い立たせ歩みをふたたび進めはじめた。
コツコツと足音を響かせながら進むと、蹲っていた人影が〇〇に気づいたのかゆっくりと伏せていた顔を上げる。
その瞬間、薄暗い廊下の電灯にわずかに照らされた、蹲っていた人の顔の輪郭をとらえた。
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〇〇「!? や、やま――」
〇〇がそう言い切るまえに、蹲っていた人はバッと立ち上がって〇〇のもとに駆け寄ってきた。
美月「ちょっと〇〇、これどういうこと!?」
〇〇「ちょ、落ち着いて、山下美月さん!!」
とびかかる勢いで〇〇の胸に飛びつくと、いまにも泣きそうなほどに瞳を潤わせながら必死に問いただすのは、ついこの間乃木坂46を卒業したばかりの山下美月だった。
美月「そんなに私のこと嫌いだったの!? わざわざ前の家に引っ越しちゃうなんて手の込んだことまでして!」
ドンドンと胸を叩きながら必死にそう問いかける美月。
何が何だか、〇〇には全く分からなかったが、彼女が異世界転移してしまっていることだけはすぐに察しがついた。
美月「ねぇ! なんとか言ってよ〇〇!」
〇〇「お、落ち着いてください山下さん。ここじゃご近所にもご迷惑になるので、ひとまず中へ…」
美月「わかったわ… はやく開けて」
美月はようやく声を荒げるのをやめた。
しかし、釈然としないままのようで、ムスッとした表情のまま〇〇がドアを開けるとズイズイと中に入っていった。
美月に続いて〇〇が中に入ってドアのカギを絞めると、美月は〇〇のほうを向き直って再び声をあげた。
美月「さぁ、答えて! なんでこんなことしたの!?」
〇〇「ちょっとまって、まずは落ち着いて…」
美月「落ち着いてなんかいられないわよ! 帰ったら家が〇〇と暮らす前の部屋のレイアウトになってるし、〇〇の荷物も何もかもなくなってる。おまけに私のスマホから〇〇の連絡先まで消すなんてどういうこと!?」
再びつかみかかろうとする美月をなんとかたしなめる〇〇。
なんとか異世界転移のことを説明した。
美月「…そんなバレバレの嘘で私を騙せるって思ってるの?」
〇〇「嘘じゃないんですって!」
美月「じゃあ証明してよ! 嘘じゃないって!!」
美月を説得するにはあの人たちを呼ぶしかない。
〇〇は史緒里、美波、飛鳥のLINEグループにメッセージを投下した。
さすがにこの夜遅くにあやめを呼び出すのは申し訳ないので外しておいた。
これが原因で後で怒られるのはまた別のお話。
〇〇「<@All 助けて! 山下さんが異世界転移しちゃったっぽい!>」
夜遅くでダメもとだったが、すぐに既読が付いていく。
史緒里「< え!? 美月が!? >」
美波「< マジ!? 今どこなの!? >」
〇〇「< 俺の家。やばい、なんかすごい怒ってる >」
飛鳥「< 〇〇なにした? >」
〇〇「< 何もしてないです(T T) とにかく来れる人いますか?>」
史緒里「< もちろん行くよ! >」
美波「< すぐ行く! >」
飛鳥「< 山と〇〇のためなら仕方ないか >」
なんとか、三人とも来てくれるらしい。
〇〇「史緒里ちゃんと梅澤さん、それと飛鳥さんも来てくれるって」
美月「え、みんな来るの?」
〇〇「え、山下さんみんなを知ってるんですか?」
美月「当たり前じゃない。乃木坂で一緒だったんだから」
〇〇「え、そっちの山下さんも乃木坂だったんですか!?」
美月「さっきから何言ってるの? 当たり前でしょ? っていうか、〇〇はマネージャーだったから知ってるじゃない」
〇〇「俺がマネージャー!?」
三人がくるまで美月から話を聞くことにした。
美月の話では、美月はこっちの世界とおなじ乃木坂46の3期生として活動していたが、こちらのせかいよりもだいぶ早く卒業したらしい。
〇〇は、大学に入ったと同時にアルバイトスタッフとして働いていたが、いつのまにかマネージャーとして登用されていたのだとか。
そんな話をしていると、玄関のドアがガチャっと開いた音がした。
どうやら三人がやってきたらしい。
異世界転移を知っているメンバーには鍵が開いているときは好きに入ってきていいという暗黙のルールのようなものがいつのまにか出来上がっていた。
リビングに通じるドアがあくと、案の定史緒里、美波、飛鳥の三人がはいってきた。
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飛鳥「うわ、本当に美月がいる」
史緒里「ほんとうですね」
美波「〇〇、あなたどんだけメンバーを転移させてるのよ…」
〇〇「いや、俺のせいじゃないから…」
美月「あ、飛鳥さん! 梅、久保! 久しぶり~」
美月は先ほどとは打って変わって笑顔で三人を迎えた。
久保「え!? 美月、私たちのことわかるの?」
美月「?? わかるに決まってるじゃん」
美波「どういうこと?」
〇〇「じつは…かくかくしかじかで」
先ほど途中まで美月からきいたことを〇〇は三人に説明した。
飛鳥「へ~、それはまた特殊なケースだね」
美波「ん? それで、美月はなんで怒ってたの?」
美波が話をきいてふと疑問に思ったことを尋ねた。
たしかに、これまでの話を聞く限りではなぜ美月が怒っていたのかはわからなかった。
美月「そりゃ旦那がいきなりいなくなって、勝手に独身時代のアパートに行っちゃってたら誰だって怒るでしょ」
あっけらかんという美月。
史緒里「…ん? 旦那? 誰が誰の?」
美月「?? 〇〇が、わたしの」
〇〇・史緒里・美波・飛鳥「「「「えーーーー!?」」」」
美月「ちょ、なんでそんなに驚くのよ! てか、〇〇が驚くのは違うでしょ!」
〇〇「いや、だ、だって…」
美波「そりゃ驚くわよ! 美月結婚してるの!?」
美月「してるに決まってるじゃない。てか、みんな結婚式にも披露宴にも来てくれたでしょ」
そう言いながら薬指につけた結婚指輪を見せる美月。
それは正真正銘、彼女が結婚していることを証明してる証だった。
飛鳥「山、いつごろ〇〇と結婚したの?」
美月「一昨年ですね。ずっと同棲していて正式に婚姻届けを出したのが一昨年で、結婚式は去年上げました。って、飛鳥さんにも逐一報告してましたし、結婚式にも来てくれたじゃないですか」
飛鳥「美月、ごめんだけど。こっちの世界の私たちはその話は知らないんだよ」
美月「え…? だって、飛鳥さんですよね…?」
飛鳥「私は私だけど。美月がいた世界の私じゃない。正直私も実際に体験してなかったら信じられなかったと思うけどね」
飛鳥の言葉に、美月に明らかな動揺が走る。
美月はすがるような思いで最愛の旦那であるはずの〇〇を見た。
美月「〇〇… 〇〇は〇〇だよね…?」
〇〇「…ごめんね山下さん。俺は山下さんが知る〇〇じゃないんだよ」
美月「そ、そんな…」
フラっ…
美月は思わずふらついて体勢を崩しかける。
とっさのところを〇〇が抱きかかえると、美月は堰を切ったように静かに大粒の涙を流しながら〇〇の胸元に顔をうずめた。
美月「うぅっ…〇〇……グスッ…」
〇〇「山下さん…」
どうすることもできず、〇〇は静かに美月を抱きしめるしかなかった。
しばらく泣き続けた美月は、泣きつかれたのか眠りについてしまったので、〇〇のベッドに寝かしつけた。
美月の眠るベッドのある部屋のドアを閉めてから〇〇たちはダイニングテーブルで話し合う。
美波「早く元の世界に還してあげたいけど、こればかりはどうしたらいいかわからないもんね。飛鳥さんと久保はなにか心当たりとかない?」
飛鳥「んー、私も戻るきっかけはわからない。ある日突然って感じだったしな…」
史緒里「私も…本当に寝て目が覚めたら元に戻っていた感じだから…」
美波「そうだよね… とにかく、美月が還れるまでは私たちでサポートしていこう。特に〇〇!」
〇〇「は、はい!」
美波「いまの美月にとって〇〇は、唯一無二のかけがえのない”家族”なの。だから、できる限り美月を支えてあげて」
〇〇「”家族”… わかった。俺にできることは何でもするよ」
こうして、美月が還るまでの日々が始まった。
仕事のほうは、不幸中の幸いにも仕事内容がほぼ変わらないので、大きな問題も起きずになんとかなっている。
仕事面では史緒里や美波、飛鳥のフォローのおかげもあって、美月は日々を忙しく過ごしている。
〇〇はそんな美月をプライベートの面から支えていた。
美月「〇〇~、ただいま~」
美月が仕事を終えて家に帰ってきた。
しかし、帰ってきたのは〇〇の住んでいたアパートではなく、美月がもともと住んでいたマンションである。
美月が〇〇と一緒に住みたいと言い出したのだが、こちらの世界では美月は結婚していないトップ女優の一人。
〇〇の住んでいたアパートでは誰に見られるかわからないし、セキュリティ上の懸念もある。
そこで、美月が住んでいたマンションで一時的に〇〇が住んで同棲することになったのだ。
〇〇「おかえり、美月」
美月「んっ!」
美月が手洗いうがいを済ませてリビングまでやってくると、ダイニングキッチンで夕飯の支度をしていた〇〇の元まで寄っていくと両手を広げた。
〇〇「お疲れさま、美月」
ぎゅ~~
〇〇は美月を優しくしっかりと抱きしめた。
美月「ふふ、〇〇」
美月は〇〇の身体に頬を摺り寄せる。
〇〇「ふふ、美月、くすぐったいよ。さあ、お腹空いたでしょ。ご飯にしよう」
美月「あ、ちょっとまってて」
そういうと美月は自分の部屋に戻ってジュエリーボックスのなかからペアリングを取り出した。
美月「はい、〇〇!」
美月はペアリングの片方を自らの薬指につけて、もう一つを〇〇に手渡した。
美月の希望で購入したペアリング。向こうの世界での結婚指輪は肌身離さずにネックレスにして身に着けているが、こちらの〇〇ともつながりが欲しいというので、そこまで高いものではないがペアリングを購入したのだ。
それを二人でいるときはかならずつけるというのが、二人のルールだった。
二人で指輪をつけて、ダイニングテーブルで一緒にご飯を食べる。
傍から見たら仲のいい新婚カップルそのもの。
それがたとえかりそめの姿だとしても、美月は幸せだった。
ご飯を食べ終えて、〇〇が皿洗いなどの後片付けをしていると、背後から美月が近寄ってきた。
ぎゅう
そして〇〇の腰に他を回して抱きしめてきた。
〇〇「美月? どうしたの?」
美月「…ぎゅうってしたくなったの。早く終わらせて」
〇〇「はいはい。ちょっとまっててね」
お皿を洗い終えるまで、美月はずっと〇〇を後ろから抱きしめ続けていた。
すこしして、ようやく洗い物を終えた〇〇。
〇〇「お待たせ、美月」
美月「〇〇、抱っこして」
〇〇「いいよ」
美月「えへへ、やったぁ! よっ!」
美月は嬉しそうに〇〇の正面に回り込むと、〇〇を見上げるようにしてから、ジャンプするかのように〇〇に抱き着くと、そのまま〇〇は美月を受け止めて、抱っこしたままソファーに歩いていく。
それにしても軽いな。
ちゃんと栄養とれてるのかなと心配になる。
美月を抱っこしたままソファーに座る。
必然的にそのまま美月に抱きしめられるような体勢になった。
どうやら今日はアマアマモードらしい。
〇〇を抱きしめたまま、満足そうに安らぐ美月。
もう慣れてきたけど、あの山下美月に抱き着かれたり、抱きしめたりするのはやはりドキドキする。
鼻孔をくすぐる香水のいい香り
美月を抱きしめた時の艶めかしい感触。
必然的に下半身が反応しそうになるのを必死に我慢していた。
美月「…〇〇、一つお願いがあるんだけど…いいかな?」
美月は抱きしめる力を少しだけ緩めると、ほんの少し身体をはなして、〇〇を見下ろすようにしながら言葉を紡ぐ。
どこかトローンとした雰囲気になっている美月。
〇〇「…お願い? 俺ができることならなんでも言って」
〇〇がやさしくそういうと、美月は小さく深呼吸をしてから言葉をつづける。
美月「…私ね、〇〇との子供が欲しいの」
あまりに唐突な美月の言葉に、思わず言葉が詰まる〇〇。
しかし、美月は冗談などで言っていないことは彼女の目を見れば明らかだった。
だからこそ、〇〇はどう返していいかわからなかったのだ。
〇〇「…ダメだよ、美月。俺は美月の本当の旦那さんじゃないんだから」
美月との約束のひとつ。
美月といるときは美月の旦那の〇〇であり続けること。
その約束をやぶっても、否定しなければいけないと〇〇は思った。
美月「わかってるよ。でも、私、〇〇と生活して気づいたんだ。〇〇は、〇〇だって」
〇〇「美月…」
美月「私の愛した〇〇は、こっちの世界の〇〇も同じだったんだ。どこまでも優しくて、私のことを第一に考えてくれて、ずっと一緒に居たいと思わせてくれる。そんな〇〇のこと、私はもう一度好きになっちゃったんだ…」
美月はそういうと、静かに顔を近づけて〇〇にキスをした。
優しくも、美月の想いが伝わってくる深いキス。
美月「だから、お願い。私に〇〇と愛し合った証をちょうだい…♡」
美月はゆっくりと立ち上がると、〇〇をベッドへど誘う。
〇〇は、ただ美月に身をゆだねるしかなかった。
その日、〇〇は初めて、メンバーと一線を越えたのだった。
翌朝
目が覚めると、隣に寝ていた美月はすでに目を覚ましていて、目線が交差した。
美月「おはよう、〇〇」
〇〇「おはよう美月」
まだ日が昇ったばかりでカーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
もう少し寝てたいな、なんて思いを胸に秘めながら再び美月に視線を向ける。
すると、美月はニヤッと微笑みながら口を開いた。
美月「ふふ、向こうの私の身体は気持ちよかった?」
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美月はいたずらな微笑みを浮かべながら〇〇に問いかける。
〇〇「え…? 向こうのって…もしかして美月、戻った?」
美月「うん、そうみたい。戻ってきたら裸で〇〇と寝てるもんだからびっくりしたよ」
〇〇「ご、ごめんなさい…」
美月「ふふ、気にしないで。多分、向こうの私から誘ったんでしょ?」
〇〇「え、どうして…」
美月「〇〇は優しいから。〇〇からしようとは言わないかなって思っただけ。それとも、する?」
〇〇「し、しません! 早く服着て!」
美月「ふふふ」
やっぱり〇〇は優しいね。
向こうの私が好きになったのもわかる気がする。
私もそんな〇〇のことが好きだよ
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つづく
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。