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朝起きたら久保史緒里が姉になってた件(前編)
↓シリーズのお話はコチラから
いつもと変わらない朝
大学入学と同時に上京し、その頃から住んでいる築30年のアパート。
ベッドの上で目を開けると、見慣れた天井とカーテンのすき間から差し込む朝日。
その先にはもう何度見たかわからないアパートの敷地内に立っている桜の木が見えた。
いつもなら静かな朝の雰囲気に誘われて二度寝に落ちることも少なくない。
これができるのが大学生の特権の一つだ。
しかし
今日は違和感で否応にも目が覚める。
シャコシャコシャコ
なにか音が聞こえる。
しかも外ではなく家の中から。
なんの音だろう
ひとりぐらしのこの家には〇〇以外は誰もいない。
若干の恐怖心を抱きながら耳を澄ませる。
シャコシャコ
シャコシャコ
歯ブラシで歯を磨く音…?
え、マジで怖いんだけど
まさかオバケとかじゃないよな
4年近く住んでるけど、そんなこと一度もなかったのに、まさかね
〇〇は自分に言い聞かせるようにしながら、ベッドからおりて音のするほうへ向かって歩いていく。
案の定、たどり着いたのは洗面所だった。
意を決してのぞき込む。
そこには黒髪の女性が鏡に向かって軽快に歯を磨いていた。
わけが分からず〇〇が少し身を乗り出して女性の顔を、確認しようとした瞬間、鏡越しに女性と目が合った。
その瞬間、〇〇は別の意味で心臓が止まるほどの衝撃が走った。
〇〇「く、久保史緒里!?」
史緒里「びっくりした〜、なによ〇〇いきなり大声だして〜」
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驚く〇〇とは対照的に、史緒里は声には驚いたがその後は何事もなかったかのように〇〇を見ながら歯磨きを続ける。
〇〇「な、なんで久保史緒里が俺の家に!?」
史緒里「なんでって、いつものことじゃない。昨日も遅くまで会社で残業だったから会社に近い〇〇の家に来たのよ」
会社?
若干引っかかったが、それよりも引っかかったことがあった。
〇〇「え、てかなんでそれで俺の家に??」
史緒里「?? 姉弟だからに決まってるじゃない」
〇〇「姉弟!? 久保さんと俺が!?」
今日一大きな声が出た。
天下の乃木坂46のセンターも務めたことがある久保史緒里と、平々凡々を絵に描いたような〇〇が姉弟なんてあり得ない。
もちろん〇〇と史緒里は姉弟ではない。
〇〇は一人っ子で姉も妹もいないのだ。
確かに宮城に実家はあるが、両親が転勤族だったので結構転々としていて最後に住んでいたのが宮城というレベル。
どうまかり間違っても、〇〇と史緒里が姉弟ということはありえないといえる。
史緒里「ていうか、その「久保さん」ってやめて。なんでそんな呼び方なのよ。それで言ったら〇〇だって久保さんでしょ」
歯磨きを済ませて口を濯ぐと、史緒里は〇〇に向き直っていった。
〇〇「いや、え? 俺は喜多川〇〇ですけど…」
史緒里「?? 喜多川は旧姓でしょ? うちに養子に来たときに久保〇〇になったじゃない」
全く話が噛み合わない。
そうだ!
咄嗟に〇〇はベッドの枕元に置きっぱにしていたスマホを取りに戻り、YouTubeで「久保史緒里」と検索する。
瞬時に数え切れないほどの動画がヒットした。
よかった
自分がおかしいんじゃなかった。
そんな妙な安堵感を感じながらも、史緒里にスマホを見せる。
〇〇「乃木坂46って知ってる?」
史緒里「もちろん知ってるわよ。私だってファンだもの、一緒にライブとか握手会とかだって行ったことあるじゃない」
〇〇「いやいや、ファンじゃなくて! あなたもメンバーでしょ!」
史緒里「私が!? ないない! 私はヲタクだよ? 観るのは好きだけど、あんなキラキラした世界なんて恐れ多いもん」
史緒里は笑い飛ばすかのように一蹴しようとしたが、〇〇が見せた動画を見て、次第に表情が変わる。
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バスラの映像や、乃木中の過去ナンバーなどを食い入るように見つめる史緒里。
しばらく見続けていた彼女はようやくスマホから目を離した。
史緒里「…どういうこと?」
〇〇「どういうことと言われても…」
史緒里「なんで私が映ってるの!? なんで私の名前が乃木坂の公式ホームページにメンバーとして載ってるの!?」
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〇〇のスマホを使って検索したのだろう。
乃木坂46のホームページの自身のメンバー紹介画面をみせながら、慌てた様子で〇〇に詰め寄ってきた。
〇〇「だから、久保さんは乃木坂のメンダーだから…」
史緒里「久保さんって呼ばないで!! …いつもみたいに史緒里って…呼んでよ ヒクッ グスッ」
史緒里は力なく〇〇の胸に顔をうずめると、静かに涙を流しながら消え入るような声で言った。
なんて声をかけていいのか〇〇にはわからなかった。
だって、これまではテレビやライブで一方的に見ているだけの関係だったのだから。
アイドルとそのファン。
それ以上でも以下でもない関係。
それがいきなり天変地異かのごとく何かが起こったのだ。
〇〇「…とりあえず、状況を整理してみましょう。久保さ……史緒里さん」
〇〇はなんとか考えて言葉を紡ぐ。
黙っていても仕方がない。
まずは考えて、行動できることがあるなら行動しないと。
史緒里「うん…ごめんね。ありがとう〇〇」
それから、〇〇と史緒里は自分が知っているお互いのこと、それから自分のことを話していった。
整理するとこういう感じだった。
まず、目の前にいる史緒里は「久保史緒里」であることは間違いないようだ。
宮城県出身で、幼い頃からアイドルが好きで2016年の乃木坂46の3期生オーディションに受けようとしたところまでは合っていた。
でも、目の前の史緒里はオーディションは結局受けずに、大学に進学して今では東京の普通の会社で働いているらしい。
一方の史緒里の〇〇の認識は、生まれてからの幼馴染だったが、東日本大震災のときに〇〇の両親が亡くなってしまい、親交のあった久保家が〇〇を養子として引き取ったことから、姉弟になったらしい。
だから、呼び方もお姉ちゃんとかではなく昔からの「史緒里」と〇〇は呼んでいたということらしい。
ちなみに、年齢は2024年現在時点で史緒里が23歳、〇〇が21歳というのも合っていた。
ここまで話して、史緒里が嘘をついていないことは〇〇でも理解できた。
そもそも、ここまで精緻な嘘を付く必要が史緒里にはない。
百歩譲ってドッキリの類いだとしても、カメラもないし、ネタばらしされる気配もない。
〇〇「もしかして、異世界転移……?」
史緒里「…〇〇、いくらなんでもラノベの読み過ぎだよ…」
いや、確かにラノベ好きだけど。
てか、そこは一緒なんかい……ハズい
〇〇「いや、マジで! だってそれ以外説明つかないじゃないですか!」
史緒里「いや、わかるよ。でも、いきなり異世界って言われても、まだ〇〇が頭おかしくなったとしか思えないんだけど…」
〇〇「えぇ…向こうの俺ってどんななのよ……?」
そんな話をしていた時だった。
ティロリロリロリロン♪
不意にどこからともなく着信音が部屋に響き渡る。
しかし、Androidユーザーの〇〇には聞き馴染みのないiPhoneの着信音。
史緒里「あ、私だ」
リビングのソファーのしたに置かれていた史緒里のバッグ。
史緒里はバックからスマホを取り出して液晶画面を確認するが、不思議そうな表情を浮かべている。
〇〇「史緒里ちゃん? 出ないんですか?」
史緒里「いや、これ…」
そう言いながら鳴り続けているスマホの画面を〇〇の方に向ける。
そこには「マネージャー」と表示されていた。
史緒里「マネージャーって誰??」
〇〇「いや…そりゃ…乃木坂のじゃない?」
史緒里「うえっ!? 〇、〇〇出てよ!」
〇〇「無茶言わないでよ! 久保史緒里の電話に男が出たら大騒ぎになるって!」
史緒里「弟なんだから大丈夫よ!」
〇〇「こっちの世界では違うの! いいからはやく出なってば!」
史緒里「あー、もう! わかったわよ! も、もしもし…」
意を決して史緒里は電話に出る。
史緒里「……は、はい………だ、大丈夫です………」
なんとか合わせられているようだ。
しかし、次第に怪しい雰囲気に。
史緒里「……え?…収録?………はい…き、今日ですか!?……い、いえ、なんでもないです……」
見るからに動揺している。
史緒里「……わかりました。準備しておきます………はい、失礼します……」
あからさまに動揺の色が隠せないまま、スマホを耳から離した。
史緒里「〇〇〜、どうしよう〜!」
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〇〇「と、とにかく向こうの世界に戻れるまでは、こっちの久保史緒里として頑張るしかないよ!」
史緒里「無理だよ! 私普通のOLだよ!? アイドルなんて無理だって!」
〇〇「だ、大丈夫! 俺もできる限り協力するから!
」
史緒里「うぅ〜〜〜!」
史緒里はそれから時間ギリギリまで、〇〇が知る限りのこっちの世界の史緒里のことをレクチャーしてもらい、乃木中とかの映像を片っ端から見てできる限り頭に叩き込んだ。
それから史緒里は一度家に帰り支度をしてから仕事に向かって行った。
それから、〇〇も大学に行ったりバイトに汗を流したりしていたが、史緒里のことが心配で集中できなかった。
その日の夜
〇〇が家で待っていると、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
タタタッ
廊下を駆けてくる音
そして、次の瞬間
史緒里「〇〇〜! もう無理〜!」
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リビングのドアを開けるなり飛び込んできた史緒里がソファーにいた〇〇に飛びかかるように抱きついた。
〇〇「ちょ、し、史緒里ちゃん!?」
史緒里「あー、〇〇の匂いは変わらない〜、落ち着く〜」
〇〇に抱きついたまま、史緒里はスリスリと頬を擦り付けるようにしながら抱きしめる力を強める。
〇〇「ちょっと史緒里ちゃん! ダメだって抱きついたりしちゃ!」
史緒里「弟なんだから問題なし〜」
〇〇「それは向こうの世界での話でしょ…」
いや、ていうか
弟だろうと問題な気もする
そう、〇〇が思っていた時だった
美波「まさか…本当の話だったとはね…」
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〇〇「う、梅澤美波!?」
不意に聞こえてきた声
そこにはリビングに入ってきたところだった梅澤美波が半ば驚きながら〇〇と史緒里を見ながら立っていた。
つづく
※この物語はフィクションです
※実在する人物などとは一切関係ございません
↓ 後編はこちらから