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元カノと会議室で二人きりになったら

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ある日

デスクでこの後の会議の準備をしていると、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


絵梨花「ねぇねぇねぇ」


〇〇「はい?」



視線を上げると、そこには会社の上司の生田絵梨花がこちらを見ていた。



絵梨花「このあとのオンライン会議って〇〇も参加だったよね?」



昔から変わらない呼び方で呼ばれるたびになんだかこそばゆさを感じる。


〇〇「はい」



絵梨花「資料ってもうできてる?」



〇〇「できてます。今見直してたとこです」



絵梨花「ありがとう。いちおう私も目を通しておきたいから先に会議室いける?」



〇〇「はい、大丈夫です」



絵梨花に連れ立って会議室に向かう〇〇。


会議室のドアを閉めると絵梨花はテーブルにノートパソコンを置くと、椅子に腰を下ろしながら〇〇に向き直りながら話し始める。



絵梨花「ねぇ〇〇」



〇〇「はい?」



絵梨花「いま二人なんだから敬語やめてよ」

絵梨花はそういいながら肘をつきながらいう。



〇〇「いや、でも先輩、というか上司ですし」



間違ってはいない。


絵梨花は〇〇の会社の上司である前に年次的には先輩にあたる。

さらに言えば大学時代の先輩でもある。



しかし、そんな通り一辺倒な言い訳は絵梨花には通じないみたいだった。




絵梨花「それ以前に、私の元カレでしょ」





これも間違ってない。


〇〇と絵梨花は大学時代に付き合っていた。

ゼミの先輩後輩。

それから彼氏彼女の関係になるのにそんなに時間はかからなかった。


感覚で生きるタイプの絵梨花。

そんな彼女に惹かれていた〇〇だったが、二人の関係も長くは続かなかった。


絵梨花が大学を卒業して院に進む時に、ドイツに留学することになった。


世界を見てみたい


そうキラキラした目で言われたのを昨日のことのように覚えてる。

でも、それと同時に、あぁ終わっちゃうんだな、と思ったのも鮮明に刻みついた残滓として残っていた。



遠距離恋愛なんてタイプじゃない


それは〇〇も絵梨花も一緒。


だから、どちらからともなく二人の関係を終えた。



それから二人は連絡を取り合うことはなかった。



その後、〇〇が就職して、その会社に偶然絵梨花が中途採用で入ってくることになるとは、神様は何とも言えないイタズラをするものである。



〇〇「もう何年前だよ」



〇〇は諦めて昔のように話し始める。



絵梨花「何年前でも、関係ないよ」



〇〇「そんなもんかね。てか、資料チェックするんでしょ?」



〇〇はそういいながら自分のノートパソコンを開き絵梨花に資料を見せようとする。



絵梨花「いいよ見ないで」



〇〇「え? いいの?」



絵梨花「〇〇のこと信用してるから」



何気なくいう彼女

昔から変わらない。

ゼミの研究でも、いつも「〇〇なら大丈夫だね」と信頼してくれていたのを思い出す。


〇〇「じゃあなんで先に会議室に、なんて言ったんだよ」



絵梨花「別にいいでしょ。強いて言えば気分かな」



ふふっと微笑みながら言う絵梨花に思わず惹かれそうになる。


昔と変わらないその笑みと

昔よりも綺麗になった彼女に


〇〇「なんだよそれw」



〇〇はバレないように平静を装って答えた。

しかし、そんな〇〇を動揺させるようなことを絵梨花が続けて言った。



絵梨花「てかさ、昨日麗奈ちゃんとご飯行ってたでしょ?」



絵梨花が話題を変える。



〇〇「いや、まぁ、行ったけど…」



絵梨花「はやー。もう新人ちゃんに手を出してんの?」



〇〇「いやいや、メンターだし、普通にご飯行っただけだよ。てか最寄りの駅一緒だったんだよね」



絵梨花「へ~、それはそれはいい感じじゃないですか」


なんだかよくわからない感情でいう絵梨花。

イジっているのか、なんなのか。



〇〇「いや、いい感じとかじゃ…」


〇〇もそんな絵梨花の反応をはかりかねて、歯切れが悪くなる。




絵梨花「じゃあ、今度さ久しぶりに二人でご飯行かない?」



〇〇「いいけど。珍しいじゃん」



絵梨花「んー、まあ、なんとなく? たとえるなら、そう、昔を思い出して同窓会的な?」



〇〇「なんだよそれ。まぁ、いいけどさ」



絵梨花の言葉に思わず笑みがこぼれる〇〇。



絵梨花「よかった。てかさ、昔から変わらないよね。」



〇〇「なにが?」


絵梨花「いろいろ。まぁ、例えばちょっとだらしないところとか? 襟、崩れてるよ」


〇〇「え、マジで?」


〇〇は慌ててジャケットの襟に手をかけようとする。



絵梨花「もう、動かないで」



しかそ、その手を絵梨花が制して立ち上がり、〇〇の前に立つと両腕を〇〇の首元に伸ばして、正面から〇〇の襟に手を添えた。



まるで、首に手を回されてキスでもするかのような体勢。

ほんの少し顔を近づければそうなりそうなほど。



昔を思い出させるような感覚に、〇〇が苛まれそうになっていたまさにその時だった。






ガチャ





会議室のドアが開いた。


そして、そこに立っていたのは




同期の田村保乃




彼女もまたこのあとの打ち合わせに参加する一人。

会議室に来るのは当然だ。


そして、彼女が見たのは同期と先輩が密室で抱き合う(かのような体勢で襟を直す)姿。



保乃「す、す、す、すいませんでした!!」



保乃は顔を真っ赤にしながら、ドアを閉めた。


絶対誤解してる。


さすがに、会社の会議室で変なことしてたとか噂話を流されてはたまったもんじゃない。



〇〇「ちょ! 保乃! ちがうちがうちがう!!」



絵梨花「ふふ、勘違いされちゃったねw」



〇〇「いいから、はやく誤解を解くの手伝って!」



呑気にペロッと舌を出しながらおどけるように言う絵梨花を引き連れて、保乃の誤解を解くのに苦労するのはまた別のお話。




絵梨花「(〇〇となら…前みたいに……)」




絵梨花が胸に秘める思いを〇〇はまだ知る由もない。








つづく
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。

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