
朝起きたら久保史緒里が姉になってた件(後編)
↓ 前回のお話はコチラから
↓ シリーズのお話
何がどうなって天下の乃木坂46のメンバー二人が平々凡々な一般人の〇〇の家にいるのだろう。
センターを務めたこともある久保史緒里だけでもヤバかったのに、乃木坂を支えるキャプテン梅澤美波まで。
〇〇はダイニングテーブルに対峙して座っている、美波に視線を向けながらそんなことを思っていた。
美波「キミが〇〇くん?」

美波が冷静な声色で〇〇に問いかける。
〇〇「は、はい」
美波「久保の弟って本当なの?」
〇〇「いや、そんなわけないんですけど、朝起きたら史緒里ちゃんがいて自分と姉弟だって言い張ってまして…」
史緒里「だって、本当のことだし」
何故か美波の隣ではなく、〇〇の隣に並んで座る史緒里が食い気味に言う。
美波「久保は少し静かにしてて」
史緒里「はい…」
久保をたしなめてから、美波は〇〇に視線を向け直して話し出す。
美波「…はぁ、あなたも被害者ってわけね」
美波はため息をつきながらテーブルに手をついて頭を抱える。
美波「まさか、本当に異世界転移なんて話が起きるなんて…」
〇〇「し、信じてくれるんですか!?」
美波「そりゃ最初は信じられなかったわ。久保の様子がおかしくて問い詰めていったら、アイドルじゃないとか、〇〇がー、とかわけわからないこと言いだすんだもん。でも嘘ついてるふうには見えなかったのよね」
〇〇「すごいですね。…言い方はあれですけど、よく史緒里ちゃんを信じようと思えましたね」
美波「同期のかけがえのないもの仲間だもん。久保がウソついてるか、ホントのことを言ってるかなんて分からないわけないじゃない」
さらっと言ってるけどすごいことだ。
〇〇が感心してると、美波は話を続ける。
美波「とにかく、久保がもとに戻れるように私も協力するから、悪いけど〇〇くんも協力して」
〇〇「はい、もちろんです」
美波「乃木坂の活動は私ができるだけフォローするけど、プライベートなフォローはお願い。こっちでは赤の他人かもしれないけど、向こうの世界では姉弟ってことは久保にとっては精神的にだいぶフォローになるだろうし」
〇〇「わかりました」
美波「これ私の連絡先。何かあったらここに連絡して」
そういうと、美波は自分のスマホを取り出し、LINEのQRコードを〇〇に提示した。
〇〇「え、いいんですか?」
美波「仕方ないわ。でも、〇〇くんは変な人じゃないと思うし。これでも私、人を見る目はあるのよ」
乃木坂46のキャプテンを務めるほどだ。
この言葉に嘘偽りはないのだろう。
〇〇は遠慮がちに、美波の連絡先を自身のスマホに登録した。
美波「じゃあ、私はこれで帰るけど、これからよろしくね〇〇くん」
〇〇「え、帰っちゃうんですか? あの、史緒里ちゃんは…?」
美波「久保は明日は午後からだから今日はこのままゆっくりさせてあげて。今日一日慣れない環境でずっと気を張ってて頑張ってたから」
〇〇「わ、わかりました」
美波「あ、でも変なことはしちゃダメだからね」
〇〇「しませんよ!!」
美波「ふふっ、じゃあまたね」
美波はそう告げると、静かにその場から去っていった。
史緒里「なんか、ごめんね〇〇…」
先程まで静かに〇〇と美波のやりとりを聞いていた史緒里が申し訳なさそうに言う。
史緒里「私のせいで迷惑かけて…」
〇〇「史緒里ちゃんのせいじゃないでしょ。一番大変なのは史緒里ちゃんだと思うし」
史緒里「でも…」
〇〇「それに、俺は史緒里ちゃんの弟なんでしょ? それならお姉ちゃんのために、頑張るよ」
史緒里「うぅっ…〇〇〜!」
〇〇の言葉に、我慢していた感情が溢れたのか、史緒里は涙を浮かべながら〇〇を抱きしめた。
一人で知らない世界に来てしまうことがどれほど不安なことだろう。
〇〇は静かに史緒里を抱きしめると、彼女の気が済むまで落ち着くようにそのまま抱きしめ続けるのだった。
それから数週間の日がたった。
結局、史緒里はまだ元の世界に帰れずにいる。
今日も〇〇の家に帰ってきた史緒里。
以前と比べるとだいぶ慣れてきた方ではあるが、やはりまだまだアイドルの生活には苦労が多いらしい。
史緒里「ふぁ〜、ごちそうさま〜 やっぱり〇〇のところが一番落ち着く〜」
夕ご飯を食べ終えた史緒里はソファーに横になり、ぐで〜っと体を伸ばした。
〇〇「ハハ、おつかれさま。はい、コーヒー」
後片付けを済ませた〇〇は二人分のマグカップに注いだコーヒーを手に史緒里のもとに戻ってくると、ソファーの下に腰を下ろした。
史緒里「ありがとう」
〇〇「どう? お仕事のほうは?」
史緒里「大変だけど楽しいとも思うよ。大好きだったアイドルの世界を見れて体験できるんだもん。でも、やっぱり私の世界じゃないんだなとも思う」
〇〇「そっか…」
史緒里「…やっぱり私はアイドルじゃないんだよね。そういう意味ではこっちの世界の私はすごいなーと思うよ。アイドルになろうって決断して、努力して、トップアイドルとして頑張ってる。……私とは大違い」
〇〇「確かにこっちの世界のアイドル久保史緒里はすごいキラキラ輝いてたよ」
史緒里「……」
〇〇「でも、史緒里ちゃんも負けず劣らずすごいと俺は思うよ」
史緒里「えっ…?」
〇〇「いきなり知らない世界にきて、それでも頑張って、努力して。テレビとかで観る史緒里ちゃんはこっちの世界の久保史緒里と同じくらい魅力的に輝いてた」
史緒里「〇〇…」
〇〇「だから、自信持ってよ。俺は今の史緒里ちゃんも輝いてて好きだよ」
史緒里「……ありがとう〇〇。嬉しい。私ずっと不安だったの。このまま戻れないんじゃないかっていうのもそうだけど、こっちの私が凄すぎて自信なくしてた。でも、〇〇の言葉で救われた気がする。本当にありがとう。私も大好きだよ〇〇」
史緒里はそういうと、ソファーの上から〇〇を優しく抱きしめた。
翌朝。
昨日のこともあり、2人でベッドで寝ていた〇〇と史緒里。
もちろんやましいことは一切なく、ただ一緒に寝ていただけ。
スマホのアラームが鳴り、〇〇は目を覚ました。
隣では史緒里がスヤスヤと寝ている。

時刻は午前10時。
午後から仕事の史緒里のために、〇〇も起きて彼女を送り出す準備を始めようと、隣で眠る史緒里の身体を揺する。
〇〇「史緒里ちゃん〜、起きて」
史緒里「う~ん…なに〜〇〇…」
〇〇「なにってw もう起きる時間だよ」
史緒里「……あと5分〜…」
〇〇「だーめ、お仕事遅刻しちゃうよ」
史緒里「ん~、今日は土曜日でしょ…? 会社はおやすみ〜…」
ん?
会社??
〇〇「午後から撮影なんでしょ?」
史緒里「それは向こうの世界…今の私は会社員…………………えっ!?」
史緒里はカバっと起き上がると、目を見開いたように驚きながら〇〇を見た。
史緒里「〇、〇〇だよね??」
〇〇「そ、そうだけど…」
史緒里「私の弟の?」
〇〇「この世界では違うかな」
史緒里「ってことは……」
史緒里&〇〇「「もとに戻った!!!」」
2人同時にシンクロして声を発した。
思わず手を取り合い喜び合う2人。
史緒里「やったー! 戻ってこれたー!」
〇〇「よかった、よかったね! 史緒里ちゃん!」
史緒里「もう、戻れないかと思った!」
〇〇「それは俺もだよ〜」
史緒里「こっちの〇〇も向こうの〇〇と変わらないねw なんか変に安心するw」
〇〇「はは、あ、そうだ。梅澤さんに教えないと! いろいろ助けてくれてたから」
史緒里「そうなんだ! じゃあ電話しよう!」
そういうと、史緒里は自身のスマホを操作してスピーカーフォンで美波に電話をかける。
数コールで美波が電話に出た。
美波「もしもし久保? どうしたの?」
史緒里「梅! ただいま!」
美波「ただいまって……え? もしかして戻ったの!?」
史緒里「うん!」
美波「よかった〜!! 今どこ? 〇〇くんの家?」
史緒里「そうだよ、〇〇の家」
美波「わかった! すぐ行くから待ってて!」
美波はそういうと返事も言う前に切ってしまった。
史緒里「アハハ、梅も相変わらずだな〜」
電話を置いて、史緒里は〇〇に向き直る。
史緒里「〇〇、いろいろありがとう。こっちに来ていた私を助けてくれたんだよね」
〇〇「ううん、俺はなにもしていないよ。史緒里ちゃんが頑張っただけだよ」
史緒里「ふふ、向こうの〇〇と同じようなこと言ってるよw」
〇〇「俺は俺ってことなのかな?w」
史緒里「…向こうの世界でも私は〇〇に助けられたんだよ。〇〇がいなかったらどうなってたか。本当にありがとう」

そういうと史緒里はゆっくり〇〇を抱きしめた。
その後
慌ててやってきた美波とも再会を果たした史緒里は、いつも通りの日常に戻っていった。
そして、〇〇も平々凡々とした大学生生活に戻っていった
とはいかなかった。
アイドルの異世界転移はまだ続いていくことを、その時の〇〇は知らなかったのである。
つづく
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。