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ライバル以上恋人未満

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ある日の朝


毎週月曜日の朝イチは〇〇たちが所属している部署の本部会議が行われる。


各案件の進捗確認や懸案事項、あるいはトラブル対応、はたまた逆に新規案件など、様々な議案がかけられて次々と意思決定されていく。



美波「というわけで本案件の進捗率は95%。予定通り子会社に引き継いで最終のローンチに向けた対応に移行します」

本部内のお偉いさんたちが居並ぶ中でも、凛とした雰囲気で担当案件のプレゼンを行う、同期の梅澤美波の姿を手元のPCに事前配布された資料を読みながら眺めていた。




同僚A「すげーよな梅澤さん。あの炎上案件、こんなに早く沈静化してローンチに漕ぎ着けるなんて」


同僚B「前のプロジェクトも神がかってたぞ。さすが〈エース〉だな」




近くに座っていた他部署の連中のヒソヒソ話が聞こえてくる。

美波はいわゆる同期のエース。


しごでき女子でこれまで数々の高難易度の案件を任されては成功に導いてきた。





続いて〇〇のプレゼンの番がやってきた。



〇〇「以上のような事業イメージで、5年IRRは23%を見込んでいます。すでに共創パートナー候補の企業ともアライアンス交渉を開始し、概ねポジティブな反応を示していただいておりますので、本会議でご承認いただければ本格的な提携交渉を開始いたします」


〇〇もさきほどの美波に負けず劣らず、スラスラとプレゼンを行い重役人たちもうんうん、と頷いて満足げに議論が続く。


その一方で同僚たちはまたコソコソと話をしていた。


同僚A「〇〇さんもさすがだな。あんな複数の大手企業との共創事業を立ち上げられるなんて、あの人じゃないと絶対無理だよな」


同僚B「やっぱり、あの二人は神がかってるよな」


同僚A「それな。〇〇さんと梅澤さんの同期コンビはヤバいよな。ダブルエースって感じでカッコいいけど」



同期B「でも、あの二人結構バチバチらしいぜ」


同僚A「ああ、それ聞いた。まぁ仕方ないだろ。あんだけ仕事ができるんだからライバルってやつだよ」



そう。

〇〇と美波はライバル同士。

お互いエースといわれていて、部署も違うということもあって、それぞれの部署の看板としてしのぎを削っている。

だから、二人はバチバチにお互いを敵対視している。


これが社内の認識だった。






その日の夜

プレゼンを無事に終えた〇〇は部署の慰労会に参加した。

なんとか会議での承認ももらえて、案件も進められることができる。

部署の業績も確約できたといっても過言ではない。



そのお祝いもかねて部署の面々と飲んだ帰り。

まだ飲もうという同僚や部下を振り払うのが大変だったが、なんとか〇〇は一人になることができて、夜の街を進む。


やがて見えてきたオフィス街に佇むオブジェ。

そのたもとに一人の女性の人影が見えた。


〇〇「おまたせ、美波」


美波「もう、遅いよ。3回もナンパされちゃったじゃない」

そこにいたのは同期の美波だった。



〇〇「え、大丈夫だった?」


美波「睨んだら逃げてったから大丈夫。でも埋め合わせはしてよね」



〇〇「ハハ、わかったよ。じゃあ、今日は俺が奢るから」



美波「やった! 最近見つけたいいバーがあるの。行きましょ」



そういうと美波は〇〇の手を引いて歩き出した。


はたから見たらカップルのように見えるのだろうか。

なんてことを考えながら、彼女との会話を内心適当に相槌をうちながら歩みを進める。



会社ではライバルだとか仲が悪いとか色々言われているが、二人は仲が悪いなんてことはない。


というか、ライバルとかそんな言葉では二人の仲を言い表すことはできない。


同期として、同じ仕事を牽引する役割である二人はお互いのことを認め合い、言葉には表せない信頼関係を築いていた。


なかなか一緒に仕事をすることはないが、同じ立場である二人は、プロジェクトの節目を迎える今日みたいな会議の後には、決まって二人で飲みに行ったりする仲でもある。




二人は少し歩いたところにあるシックな感じのバーに入った。



カウンター席しかなく、店の中には一組のサラリーマン風の男性客が二人煙草をくゆらせながら会話と酒を楽しんでいた。


先客たちとは反対側のカウンター席に腰を下ろした〇〇たちに、店員が注文を聞いてくる。



〇〇「じゃあ、オールドプルトニーをロックで」




美波「私はインチマリンをロックでお願いします」



〇〇たちの注文を聞くと、店員は”かしこまりました”とだけ告げて去っていった。



美波「ほんとうにウイスキーが好きなのね」




彼女はお通しで出されたドライレーズンを一つ口に放り込みながらいった。



〇〇「まあね。でもそれは美波も一緒でしょ。いつもウイスキーを頼んでるじゃん」


美波「…だって—」



彼女がなにかをいいかけたとき、タイミング良くか悪くか、店員が〇〇たちの注文したウイスキーの入ったグラスをもってやってきた。


丸氷に琥珀色のウイスキーがよく映える。



とりあえず飲み物が来たので、〇〇たちは“カンパイ”と静かに告げてウイスキーを口に含んだ。


喉を焼くような高いアルコール度数のお酒の独特の感覚。




〇〇「それで?」



美波「ん?」



〇〇「さっき、なにか言いかけただろ?」



美波「ああ、なんでもないw」



〇〇「なんだよ、気になるじゃんw」



美波「いいったらいいの」



美波はそういうなり話題を変えるもんだから、〇〇もそれ以上彼女に追求するのをやめて、ほかの話題で盛り上がった。





気がつけば終電もとっくに終わり、けっこういい時間になった頃。



時が過ぎるにつれて〇〇を睡魔が襲う。




連日の残業続きで眠さに勝てず、いつの間にか〇〇はテーブルの上で意識を手放していた。



美波「〇〇? 寝ちゃったか…」



彼女は〇〇の顔を覗き込みながら、彼の髪をそっと撫でる。




髪の隙間から垣間見える寝顔に満足した笑みを浮かべながら、彼女はグラスを傾けるが、空になったグラスのなかに残る氷の”カラン”という音だけが空を切った。



マスター「お次、なにか飲まれますか?」



彼女のグラスが空なのに気づき、マスターが問いかける。



美波「じゃあ、オールドプルトニーをロックでお願いします」



マスター「かしこまりました。それにしてもお客さんは本当にウイスキーがお好きなんですね。先ほどからずっと頼まれるのがウイスキーだったものですから」



美波「ああ、でも最初はウイスキーって苦手だったんですよ」



マスター「そうだったんですか。それがなぜそんなにウイスキーがお好きに?」



マスターの問いかけに、隣で心地よさそうに寝息を立てる〇〇の寝顔を眺めながら、フフッと静かに微笑んでから答える。



美波「だって、好きな人が好きだったんですもの」

そういって彼女は再び隣で眠る好きな人の髪を起こさないように優しく一撫ですると、差し出されたウイスキーを口にするのだった。







終わり
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。


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