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推しメンと映画を観ることになったが映画に集中できません!

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仕事終わり。

〇〇は少しだけ浮かれた気持ちで足早にある場所へ向かう。


オフィス街からすこしいったところにある繁華街。

その一角にある商業施設のなかに入る映画館にやってきた。



目的はレイトショー。

20時以降に行われる映画上映。


今話題のハリウッドの恋愛ラブストーリー。

近年では、アクション映画やSFなどが注目が浴びるなかで、王道の恋愛ラブストーリーとして話題の作品である。


昔から映画好きだった〇〇としては、是が非でも見たかった作品。


でも、すぐには一歩踏み出せない理由があった。

それは、恋愛映画がゆえに、映画館にはカップルで溢れかえっていたということ。

我ながら恥ずかしいが、結婚していない〇〇には恋人はおろか、映画に誘える仲のいい女性すらいない。


そこで、〇〇が思いついたのはレイトショーならワンチャン一人で身に行っても、浮かないのではないかという計画。


ちなみに、以前に一人で休日の昼間に映画館にいったら、周りがカップルだらけ。平日にもチャレンジしたが一緒だった。

右を見ても左を見ても恋人のような仲睦まじい人たちばかり。


そのなかに一人で入っていく勇気は〇〇にはなかった。





三度目の正直。


事前にインターネットで予約して、

この日のために仕事も残業しないように1週間も前から調整してきた。



エレベーターをあがり、映画館のフロアにやってきた。



この段階で若干公開した。


周りにはカップルばかり。

しかも、普段であればレイトショーは、通常の時間帯に比べてお客さんが少ない傾向にあり、人気作品でも空席が多いことも少なくない。


のだが

どうみても普段の時間帯とあまり変わらない。

むしろ、混んでいるのではないだろうか。



まあ、せっかくきたのだ。

もう、どの時間でも同じであれば諦めてみるしかない。


ネットで予約もしているし



発券機でチケットを受け取ろうと操作をしようとすると



〇〇「あ…」



とあることに気が付いた。



〇〇「(やばい… チケット2枚買っちゃった…)」



発券ボタンを押した後に気が付いた。

出てきたチケットを手にして改めて失敗したなと、ため息をつく。


仕方ない。

払い戻ししにいくか。


〇〇がカウンターに払い戻しに行こうとした時だった。



??「えっ!? なんで、予約できてないの!?」



〇〇の次に並んでいた女性が発券機の前で声を上げていた。



どうやら予約がうまくできていなかったらしい。

何度か発券機と自身のスマホを操作していたが、諦めたようで少し落ち込んだ様子で券売機から離れる。



??「はぁ、見たかったのにな…」



その女性は抱きかかえるようにしていた事前に購入していたパンフレットを名残惜しそうに見つめながらつぶやいた。


彼女のもっているパンフレット。

それは、まさに〇〇が見たかったあの恋愛映画のパンフレットだった。


それを見た瞬間、なんとなく芽生えた仲間意識。

あの映画好きだという気持ちだけで彼女を放っておくことができなかった。


気が付いたら、勇気を振り絞って声をかけていた。



〇〇「あ、あの…よかったら、これ」



??「え…?」



〇〇「この映画のチケット、間違えて2枚買っちゃったみたいで、よかったら」



??「え、い、いいんですか!?」



〇〇「はい、僕もその映画楽しみにしてたので。見れないなんて悲しいですから。よろしければ」



??「うぁぁ! ありがとうございます! あ、お金お渡ししちゃいますね!」



女性がそう言いながら、お財布を取り出してお金を手渡そうとして来てくれたので、〇〇も財布を取り出す。


〇〇「(あっ)」


財布を取り出したときに、何かがおちた。

それは、〇〇が映画と同じくらい好きだった日向坂46の影山優佳のチェキだった。
まだ”けやき坂46”のときに手に入れた直筆サイン入りのチェキ。

彼女が日向坂を卒業しても、なんとなくお守りのように持ち歩いていた。



女性は、〇〇が落としたチェキを拾い上げると、じっとそのチェキを見つめる。



ヤバい、気持ち悪かったかな…
女の子のチェキを持ち歩いているなんて

マイナスの想像がぐるぐると〇〇の頭をまわる。



しかし、目の前の女性は〇〇の予想外の反応を見せる。



??「…影山優佳ちゃん、好きだったんですか?」



〇〇「え…は、はい」



??「ふーん、どんなところが?」



〇〇「がんばれるところですかね。日向坂46っていうすごいグループのなかでもしっかりと自分の位置を考えて、頑張れるところが素敵だなって思っていて、尊敬してたんです」



嘘偽りのない言葉。

初めて見た時、自分とほとんど同い年なのに、こんなにしっかりしていてがんばっている姿に勇気をもらったんだ。



??「そっか、そう言ってくれると嬉しいな」



〇〇「え…?」



??「ふふ、気づかないの? 推してくれてたんでしょ?」



〇〇「…!? え、あ!? か、影―」



〇〇がそう叫びそうになった瞬間

目の前の影山優佳はシーっと人差し指を唇に当てた。



〇〇「か、影ちゃん…ですよね?」


優佳「ふふ、そう。ゆうかだよ」


あのひなあいで見た、名シーンのような言い方でそういう優佳は、〇〇にとっては破壊力抜群だった。



〇〇「でも、なんで影ちゃんがこんなところに?」



優佳「お仕事が早めに終わったから見たかった映画見ようと思って。慌ててとったからうまく予約できてなかったみたいだけど」



〇〇「そうだったんですね。あ、じゃあ、僕はこれで…」



優佳「え、ちょっとまってよ。せっかくなら一緒に見ない?」



〇〇「え、一緒にって映画をですか!?」



優佳「そう。ほら、どうせ席隣同士だし、せっかくなら一緒に見たいなーって。ダメ?」


ぐ、可愛い…

そんな首をかしげてかわいらしく聞かれたら、断るなんて…


〇〇「で、でも、誰かにバレたりしたら…」


優佳「大丈夫だよ。まわりはカップルばかりだし、みんな周りのことなんて気にしてないって。それに木を隠すなら森の中。カップルが多いならカップルになってたほうが目立たないと思わない?」


〇〇「たしかに、そうかもしれませんね…」



頭の良さでも優佳にかなうわけもなく、なんとなく言いくるめられてしまった。


しかし、当の優佳は〇〇が納得したような返事を返すと、嬉しそうな表情を見せる。


優佳「よし! そうと決まったら行きましょ!」



優佳はシアターとは別の方向へ歩き出す。



〇〇「え? 行くってどこに?」


優佳「映画見るんだもん。コーラとポップコーン買わないとw」



売店で飲み物とポップコーンを購入した。

売店でカップル割引なんてものがあったので、優佳は”ラッキーだね”と耳打ちしてきたので、思わずドキッとする。


”そういえば、キミ、名前は?”

なんて、ポップコーンとドリンクが出てくるまでの間に、優佳は思い出したように〇〇に尋ねるので、改めて自己紹介をした。




自分一人だったら絶対に買わないサイズの、巨大なポップコーンのカップを〇〇が抱えて、優佳が二人分のドリンクを持ってくれた。


シアタールームにはいると、すでにシートはほとんど埋まっていた。

薄暗くなっているおかげか、誰も優佳に気付く気配はない。


〇〇と優佳は並んでシートに腰かけた。


ドリンクホルダーにそれぞれドリンクを置く。


〇〇「ポップコーンは僕が持ってるね」


優佳「ふふ、ありがとう」



少しして、上映がはじまった。


隣に推しメンがいる

それだけで、最初はドキドキしたが、映画がはじまったら以外にもスッと集中できるもので〇〇は視線をスクリーンにまっすぐ向けていた。



作品は、ハリウッド映画界の恋愛映画の巨匠が、集大成として手掛けただけあり、見入ってしまう。


夢追う女性と、夢破れた男性が次第にひかれあう。

そんなスクリーンの中のストーリーに、なぜか感情移入してしまう。


気が付けば、隣にいる推しメンと自分を重ねてしまうかのように。


クライマックスに近づくにつれて、その思いは強くなっていく。


なにを考えているんだ。

映画に集中しよう。


そう思いながら、おもむろにポップコーンに手を伸ばした瞬間。




ピトッ




明らかにポップコーンではない感覚が指先に走った。


それが優佳の手の感触だと理解するのに時間はいらなかった。


二人して同じタイミングでポップコーンに手を伸ばす。

そんなベタなシチュエーション。



それでも、いまの〇〇に、意識するなというほうが無理だった。


〇〇「ご、ごめん」


〇〇は努めて平静を装って、周りのお客さんに迷惑にならないように、静かに優佳にだけ聞こえるように謝ってから手を引っ込めようとした。



しかし

その手を引き戻すように、〇〇の手を優佳の手が握りしめた。


〇〇「(えっ…?///)」



〇〇は驚いて思わず優佳のほうに視線を向ける。

暗いシアタールームの中でも、優佳の顔がはっきりとわかった。


大好きだった推しメンの美しい顔が目の前にある。

優佳は静かに微笑むと、〇〇を数秒間見つめつづけた。


そして、満足そうに再びスクリーンに向かって視線を戻す優佳。

それでも〇〇と繋がれた手は、恋人繋ぎのまま映画が終わるまでそのままだった。





映画がフィナーレを迎え、エンドロールも終わる。


剃れど同時に暗かった室内に明かりが戻り、残っていた観客たちもゆっくりと余韻に浸りながら席を立っていく。


〇〇たちは無言のまま、手をつないだ状態のまま席に座っていた。




優佳「面白かったね、映画」




ようやく優佳が口を開いたのは、観客が〇〇たちだけになったころだった。



〇〇「ええ。いい映画でしたね」



嘘ではない。

いい映画だった。

でも、途中から集中できなかったから、後半は残念ながらあまり頭に入ってこなかった。


でも、そんなことは言えなくて、〇〇はあたりさわりのない返事をした。



優佳「そうだね。 でもね、正直ドキドキして後半のストーリーがあまり集中できなかった///」



優佳も同じことを思っていたんだ。

それだけで、なんだか嬉しかった。


でも、続けて言う優佳の言葉に、〇〇は言葉がきえる。



優佳「もう一回同じ映画観たいな。よかったら、一緒に映画の続き見てくれない?」


優佳の言葉に、〇〇は静かにコクリと頷いた。


静かな映画館の中で、優佳が〇〇の手を握りしめる力が少しだけ強くなった。









おわり

※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。

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