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人工衛星に最適なサイズはあるのか

衛星の小型化に成功?

こんにちは、再びCEOの中村です。今日は、衛星のサイズについて考察してみたいと思います。

議論を始めるにあたり、メディアの方からよく聞かれる質問を一つご紹介しましょう。

アクセルスペースは、どうやって衛星の小型化に成功したんですか?

記者A

私たちは「超小型衛星」を開発しています。確かに、世の中で「超小型」と言えば、「これまで大きかったものを小型化した」ものが多いかもしれません。結局、この記者さんが頭の中で考えていることを整理すると、こうなんだろうと思います。

  1. 衛星の主流は大型であった。

  2. アクセルスペースの創業メンバーは、大学での研究を通して大型衛星を小型化するための技術開発に成功した。

  3. この革新技術を引っさげて起業。

しかし、これが正解だとすると、私たちの作る衛星はどんどん小さくなっていかなければなりません。しかし実際は逆です。ちょっと見ていきましょう。

大学時代

まず学生の頃。2003年、世界で初めて、学生手作りの超小型人工衛星「CubeSat(キューブサット)」が打ち上がります。日本からは、東京大学と東京工業大学がプロジェクトに参加し、それぞれ独自の衛星を開発しました。1辺10cmの立方体、重さはたったの1kg。手のひらの上に乗ってしまうほどのサイズで、当時世界最小の人工衛星です。下記がその写真です。

東京大学CubeSat XI-IV(サイ・フォー)
東京工業大学CubeSat CUTE-I(キュート・ワン)

サイズ感が分かりにくいかもしれませんので、組み立て中の写真もどうぞ。

組み立て中のXI-IV。中身がぎゅうぎゅうに詰まっています

秋葉原の電気街で購入してきた電子部品が使われているとか、CubeSatに関する小ネタはたくさんあるのですが、本記事の趣旨から逸れますので割愛。このあたりのドラマは下記の書籍に詳しいので、ご興味ある方はぜひどうぞ。(私も「18年後のメッセージ」に寄稿しています。電子版のみ)

WNISAT-1

ここからは、アクセルスペースを設立して以降の話になります。個々の衛星の詳細は別の機会に譲るとして、今回はサイズや質量を見ていきましょう。まずは最初の衛星、株式会社ウェザーニューズ向けに開発したものです。北極海の海氷を高頻度に観測することが目的です。

質量:10kg、サイズ:30cm x 30cm x 30cm、打ち上げ:2013年

WNSAT-1。表情が固すぎる。。。

ほどよし1号機

アクセルスペース2機目の衛星です。超小型衛星によるビジネス実証を目的として開発しました。急に大きくなっていることがわかると思います。

質量:60kg、サイズ:50cm x 50cm x 50cm、打ち上げ:2014年

ほどよし1号機。社員数が急に増えましたね

GRUS-1A

アクセルスペースが進めるAxelGlobeビジネスのために開発した、初の自社所有衛星。地上分解能2.5m(画像の1ピクセルが地上の2.5mに相当)、撮影幅約60kmという性能を実現するため、さらに大型化しています。

質量:110kg、サイズ:60cm x 60cm x 80cm、打ち上げ:2018年

GRUS-1A。もはや全社員で撮影するのは不可能に。立派なクリーンルームもできました

RAPIS-1

JAXA(宇宙航空研究開発機構)向けに開発した技術実証衛星。革新的衛星技術実証プログラムの一環で、設計製造から打ち上げ後の運用まで、一貫してアクセルスペースが担当しました。スタートアップ企業が政府衛星の開発・運用を受託したのは、これが初めてのことでした。

質量:200kg、サイズ:1m x 1m x 1m、打ち上げ:2019年

RAPIS-1。もはや大きくなりすぎて東京・日本橋にある弊社オフィスでは作れません。
組み立てや試験には茨城県つくば市にあるJAXA施設を利用しました。(画像提供:JAXA)

大きい方が性能がいい

まとめると下記の通り。

1kg → 10kg → 60kg → 110kg → 200kg

着実に大型化しています。これは、衛星に性能を求めた結果です。やはり、大きい方が電力も使えるし、大きな機器も搭載できるし、一般的に言って高性能な衛星になるのです。もちろん、それに合わせて要求される技術レベルも、コストも上がっていきます。私たちの場合、コスト増よりも、性能向上で得られるメリットの方が重要だったのです。

コスト増の崖

では、今後もアクセルスペースの衛星は大きくなり続けるのか? 私もこれまでは、もしかしたらそうなのかもしれないと思っていました。しかし、RAPIS-1を開発した時、200kg級という(私たちにとって)大型の衛星の取り扱い方にかなり苦労させられたことで、考えが変わりました。

100kg級衛星を移動するときにはキャスター付きの台座に乗せてコロコロ押していましたが、200kg級ではクレーンになりました。宇宙環境に耐えるかどうかを確認する環境試験には、これまではほとんど公立の産業試験センターを使っていました。自動車用部品などの試験と共用できるものです。しかし、200kgを超えてくると衛星専用の設備を使わなければならないケースが出てきます。

これまで、衛星が大きくなることによるコスト増は緩やかでした。これが続く限りは、性能を求めて今後も大型化し続けていたかもしれません。しかし、開発・製造に必要な設備が人工衛星に特化しなければならなくなった途端、コストが何倍にも跳ね上がることがわかったのです。200kg衛星をギリギリそのコスト増の崖の手前にすることはできる見通しを持ちましたが、これが300kgになるとそうはいきません。

今後、300kg級衛星には一切手を出さないかどうかは分かりません。技術の進化や製造・試験方法の工夫によって現在の100kg級衛星と同じ考え方を適用できるようになれば、崖の位置がずれることになります。私たちは崖の位置をずらす努力はするかもしれませんが、いずれにせよ崖の向こうには行きません

そもそも、性能が高ければいいというわけではありません。必要以上の性能追求は無駄なコスト増につながります。ターゲットとする顧客のニーズを満たすギリギリのラインがいいわけです。私たちの場合、最適なサイズは「崖の手前」ということになります。このクラスの衛星を今後はMicroSat(マイクロサット)と呼ぶことにしたいと思います。

MicroSatとCubeSat

私たちがとうの昔に「卒業」したCubeSatが、実は今、世界で大成功しています。必要なコンポーネントはネットショップで購入でき、打ち上げの空きスロットもオンラインから簡単に確認できます。この結果、毎年数百機ものCubeSatが世界中で打ち上げられています。おそらく、全ての衛星サイズの中で一番成熟した市場になっていると思います。

CubeSatは小さすぎて、実用的なミッションは少ないと思われてきました。しかし技術の進歩によりCubeSatでも実現できるミッションが増えた結果が現在につながっています(ここでいう技術の進歩とは主に搭載コンポーネントやミッション機器の小型化ですから、これこそ「小型化の成功」と言えます)。

この急速なCubeSatの発展によって、CubeSatとMicroSatの間にも大きな崖が出現することになったと考えています。これは、技術・制度・ビジネス環境等あらゆる側面でCubeSatを作る・使うことの敷居がガクンと下がることによって新たにできたものです。私たちの起業があと5年遅ければ、もしかしたらアクセルスペースはCubeSatの企業だったかもしれませんね。

経緯はどうあれ、私たちは今、MicroSatで世界と勝負しようとしています。今後技術の進歩や標準化が進めば、参入プレイヤーが増え、MicroSatでもCubeSatで起きたような革新の波が押し寄せてくるかもしれません。その時、MicroSatクラスにおいて世界をリードできる企業になっているために、私たちは努力を続けます。

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