
非在の発掘【自動記述 20250201】
午後11時9分
化石化した記憶を掘り起こして、
土を払って年代順に並べていく行為。
それから考古学的な視点で私は
私の過去を眺める。
光り輝く何かがあるか。
見るべき何かがあるか。
面白い形があるか。
色は。
匂いは。
それから私は私のフィールドを、
ふたたび埋め戻す。
掘り起こした土で埋め戻す。
アパートの部屋には猫がいない。
アパートなどにそもそも私は住んでいない。
仕事場には嫌な上司がいない。
仕事場など私にはない。
在宅なので。
それから私は飲み屋に行かず。
友人と毎週のように出歩かず。
子どもを連れて車で観光地を訪れたりもしない。
別のフィールドに向かって私は、
私のしなかったことを掘り起こす。
それは土のなかの空隙としてひそかにあり、
熱した金属を注ぎ入れることで
鋳造する形で掘り起こす。
人の形。
建物の形。
ものの形。
小さな急須が出てきて、
小さな湯飲みが出てきて、
それらは自分が使わなかったものであり、
飲まなかったお茶である。
小柄な女性の像が掘り起こされて、
それらは自分が出合わなかった者である。
ないものの発掘されるその場所は無限に広く、
無限に多くの人が発掘作業にいそしんでいる。
自分に何が欠けているのかを探すために、
彼らは空隙に熱した金属を流し込む。
そうして遺物を掘り起こして、
無いはずの思い出に浸るのだった。
無いはずの思い出に浸るころには、
決まって日が暮れる。
しかし日が暮れない。
暮れそうで暮れないだいだい色の、
恐ろしい色をした日の光に身を焦がしながら、
人々は無いはずの思い出に浸る。
それから酒を飲む。
酒を飲まなければ終わらないのだ、この作業は。
酒を飲むためにやっていると言ってもよい。
そんなことを何度も繰り返すもののなかには、
だからこの、
暮れかけのだいだい色の陽光から逃れられなくなる者もいる。
そうした者は自らが、
無いはずの者としてその地に空隙を作るのだった。
そうしてできた空隙はしかし、
誰一人として発掘できる者のないままただただ
空疎に時を過ごすよりほかにやりようがないのだった。
やがて日が落ちて辺りが夜と言うべき夜になると、
人々は眠った。
ただただ泥のように眠った。
そうして泥と化してから朝、
土くれから起き上がって各々の
生活を始めるのだった。
空疎な生活を。
無いはずの生活を。
そうして空は青くなり、
日が昇るのだった。
午後11時21分