炎が凍り付いた大地で【自動記述20241216】
午後11時9分
炎が凍り付いた大地で見かけた獣は、すべての歯が抜け落ちて死を待つばかりだった。
青空というものが数十年観測されない大地で、人々の肌は灰色に濁った。
木々は枯れた。
草花は絶滅した。
水は透明なものであるという認識が変わり、泥のように濁った水を常飲する人々の脳内には微細な泥が溜まっていった。
やがて人々は泥人形と化して、自らの皮膚を絶え間なく降る雨に溶かしていった。
溶けだした無数の人が集まる海はだから一人の人であり、多くの人となった。
太陽の存在を確認しようと一部の人が高い高い山に登った。
登った先でそうして死んでいった。
彼らは皆、天に繋がる梯子を見つけ、それを登ったがゆえに死んだのだった。
苦心惨憺、艱難辛苦の末、山の頂に梯子を見つけたとして、それを登らずにいられるだろうか?
たとえその先がどこへ続いているのか知れないとしても。
それから人々は、いや世界は、いや大地は、いや海は、各々の境界を溶け合わせていった。
泥となった人々が溶け込んでありとあらゆるところに拡散し、分布し、そうしてすべては人々となり、やがて一人の人となった。
唯一にして無二となった一人の人は、唯一にして無二である一つの世界とその身体を重ねたのだった。
身体はもはやないも同然だった。
一人の人は星へ、星の外へ、拡散していったのだった。
拡散していく過程で輪郭を失った一人の人は、だから世界となり、全てとなった。
全てとなった一人の人は、だから語ることをやめた。
語る相手がいなかった。
いや正確には、自分自身が唯一の語る相手なのではあった。
自らの輪郭を確からしくするために一人の人は自らに語り続けた。
しかしそうした苦心もほとんど無駄だとわかると、一人の人は語ることをやめた。
そうして語ることをやめた一人の人は、一人の人であることすら曖昧となるくらい輪郭を薄くし、やがて世界となった。
世界となった一人の人の内側で、ふたたび人々が生まれはじめた。
それは一人の人の内側で生じた無数の語りの顕現だった。
そうしてふたたび人々が生じた世界において、いずれ、今後、かならず炎が凍り付く時がくることを、人々の皆はその身のうちで知っていたのだが、長らく生きるあいだにそんなことはすっかり忘れてしまったのだった。
そんなことをすっかり忘れてしまわなければ、人々は人々となりきれなかったのだった。
そうして人々が人々になり、人々が人々として分け隔てられ、泥の身体を溶け合わせるのが困難になったとき、改めて、数十、数百、数千、数万、数億、数兆回目の氷河期が訪れて、炎という炎のすべてが凍り付いたのだった。
そうして人々は、思い出すということもなく初めての出来事として、ただ淡々とこれまでの繰り返しを繰り返してゆくのだった。
午後11時22分