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黄緑色の幸福に【自動記述20250104】

 午後11時55分

 黄緑色の幸福。
 地面に落ちていたワッシャー。
 犬の毛。
 それからトラックやダンプカーの通る大通り沿いの不安。
 人々が寝静まった後に通る車、断続的に、潮騒のように。

 鉄道をくぐるアンダーパスは星を渡る境界となって運転手を夢へ誘う。
 澄み渡り冷え切った空気を切り裂いて進め。
 松の木の向こうに透ける星々だけが本当の星々である。

 砂ぼこりを巻き上げて、
 足音高く進む君は、
 月の光に照らされたかたちのない概念と化して、
 人々の夢の焦点を結ぶ。

 開けない夜は星々の光を集めて、
 そうして現実を作り出す。

 ある町に固有の印象など本来ありえないものなのだ、
 そんなものは街を訪れた個々人の印象にすぎないのであって、
 実のところ町の印象とは、
 ある一つの本質的な町の印象のヴァリエーションに過ぎない。

 すべてのヴァリエーションを創出する本質的な町や、
 川や、
 家や、
 家族や、
 空が保存された秘密の資料館の入口は存在しない。

 誰も入ることのできないよう厳重に閉じられた入口はどこにもありえず、
 目指すという志向さえ成立しない。

 だからこそそこを目指していない者がときおり紛れ込むことがあり、
 そうして彼、彼女は職員となる。

 閑職に耐えられないものは舌を噛んで死ぬだろう。
 舌を噛んでも死ねなかったものは寡黙に働くだろう。
 首を吊って死ぬだろう。
 首を吊って死ねなかったものは身体だけで働くだろう。

 そうしてわれわれの現実は、
 われわれの現実の源泉は、
 常に守られている。

 破壊しなければならない、
 何としても。
 なにをどうしても。
 どのような犠牲を払おうとも。

 恐らくわれわれは、秘密の資料館を破壊するために生物進化を遂げ、
 言語を獲得し、
 知性を高め、
 知識を高め、
 孤独を募らせ、
 世界を俯瞰し、
 自己を高めてきた。

 壊さなければならない、すべてを。
 残らず。
 思い出すことさえも困難なほどに。
 粉々に。
 散り散りに。

 それから何を始めよう? 
 何も始めることはない。

 無知と化したわれわれに課された唯一のことは無知であることよりほかになく、だからわれわれは人間のまま人間を葬り去って人間でなくなることを志向している。

 だから私は鉄道をくぐるアンダーパスを行き、
 星を渡る境界となって運転手を夢へ誘う。

 すべての人が寝静まった後に暗躍するものたちの列に加わって、
 秘かに虚ろな配達物を届けよう。

 それから犬の毛。
 地面に落ちていたワッシャー。
 黄緑色の幸福。

 夜が明けそうだ、
 そろそろ。

 午前12時10分

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