
深森行【自動記述20250120】
午後10時54分
知らない言葉を知ろうとして、
土のなかを探した。
スコップで掘って、
石ころを掘り起こして、
ミミズを引っ張り出して、
黒い土が黄土色の粘土に変わった。
太陽は中空に釘付けられたまま、
暮れることを忘れていた。
森の木々は動きを止めて、
歯の擦れる音さえしなかった。
だから私は知らない言葉を知ろうとして、
だから私は土を掘ることをやめた。
どこかに誰かいないか辺りを見渡して、
それから歩き出した。
歩き出して、
また止まって、
また歩き出した。
少しやり方がぬるいんじゃないか。
そんなことを思ったりして、
走ったりして、
それから飛んで見ようと思って木に登って
飛び降りたりしてみたものの、
順当に一歩一歩足を前に繰り出すよりほかに
やりようがなさそうなことを思い知らされただけだった。
だから一歩一歩足を前に繰り出すよりほかに
やるべきことがなかった。
この永久に途切れることを知らない森というものには、
どこか見覚えがあるような気がした。
いつ、
どこで見たのかを思い出そうとして立ち止まり、
森のなかでも特別大きい一本の杉の木に寄りかかって
瞑目した。
そうして私は瞑目した私の内側でもう一つの
森を歩き始めた。
森のなかで目覚めた私は既視感を頼りに
木立の合間を行き、
そうして私の見知った森の箇所へと
歩みを進めていった。
そうして何日も、
何日も、
何日も歩いた。
日が暮れる気配がなかったので、
実際どれほどの時を経たのかはわからなかった。
それでも恐らく、
何日も、
何日も、
何日も歩いた。
そうして私は私のなかの森で、
初めての森で、
既視感を醸成していった。
そうして醸成された既視感を持ち帰った私は、
私の周りの森に覚える既視感の正体を知ったのだった。
木々は瞬間、
林立するビルとなり、
一人一人の人となり、
そそり立つ円柱となり、
火柱となり、
光となり、
風となり、
無となった。
無となった世界における既視感を探ろうとして、
私はその場にうずくまって瞑目した。
そうして私は瞑目した私の内側で
もう一つの無を歩き始めた。
無において目覚めた私は既視感を頼りに無を行き、
そうして私の見知った無へと歩みを進めていった。
そうして何日も、
何日も、
何日も歩いた。
何年か、
何十年か、
何百年かもわからなかった。
何せ辺りは無なのであって、
時を告げるなにものも存在しないのだから。
そうして醸成された既視感を持ち帰った私は、
私がそこにおいてあるところの無に覚える
既視感の正体を知ったのだった。
それを知った途端、
私は無となった。
そうして私は、
無であるところの私を知ったのだった。
そうして私は、
無であるところの私を知ったところの
私をも知ったのだった。
そうして私は無からどこまでも、
無限に逃れていった。
それと同時に私の根源は、
どこまでも無に結ばれており、
どこまでも無においてあることを知ったのだった。
いや、知ったのではない、
私は無であった。
いや、私は無である。
いや、無である。
いや、無。
無。
そうして世界は円満に閉じられ、
開かれた。
始めてのことだった。
しかしそれは定められたことだった。
午後11時8分