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自分は自分の姿を永久に見失った【自動記述20241204】

午後10時28分

 駅に降りたら人がまったくいなかった。

 待ち合わせの時間まで、まだ時間がある。
 早く着き過ぎたのかもしれない。

 駅前の商店街にはシャッターが下りているわけでもなく、お惣菜の店、カフェ、服屋、布団屋、飲み屋などが軒を連ねているのだがなかに人がいない。

 おいしそうな匂いでも漂ってきて不思議ではないような、ある種の街の「生活感」のようなものがあるのだが人だけがいない。
 通勤通学、買い物、店番、誰もいない。
 それどころか、昼間だというのに鳥の一匹も鳴いていない。
 野良猫も見当たらない。
 地面に目を凝らしてみても蟻の一匹もいない。

 地面に目を凝らしてみてわかったが、地面が、舌で舐めるのもためらわれないくらいに清潔。
 風は吹いておらず、砂ぼこりは舞っておらず、ゴミの一つも転がっていない。

 静かな商店街をただ真っ直ぐ歩いてゆくとドーナツ状の道があり、そのドーナツから放射状に、ここと似たような商店街が伸びているらしかった。
 それらすべての商店街には人がおらず、野良猫がおらず、虫がおらず、清潔で、静けさに満ちているのだろう、そういう直感があった。

 どこをたどっても変化がないであろうことが、そのドーナツ状の道と、そこから伸びる商店街のアーケードを見れば明らかだった。

 失念しかけた当初の目的を思い出して、今来た商店街を戻って駅前まで行く、駅前まで行く道すがら、本当にこの商店街には誰もいないのかと左右をキョロキョロ見渡したが誰もいない。

 すべてが整えられており、まるでたった今創成されたかのようであるのに、他方でこれまでずっとそうあったかのようなノスタルジーがある。新しさと古さの齟齬に立ち眩みがする。

 立ち眩みながらよろめき歩いてゆくと駅に着く。

 自分は誰と待ち合わせていたのだったか、思い出せない。
 いや、思い出せないのではない、そもそも顔も知らない誰かと待ち合わせていたのだった。
 いや、素性も知らない誰かと待ち合わせていたのだった。
 概念だけの、記述内容だけの、誰かと待ち合わせていたのだった。

 あるいはそれがすべての始まりで、この世界の謎を解く鍵なのかもしれない。

 いやこの世界に謎などなく、だからそれは鍵などでもなく、ただ単にこの世界に自らを迷い込ませた片道切符だったのかもしれない。

 駅の階段をのぼり、改札まで行く。改札には人の姿などひとつも見当たらないのにもかかわらず、バタバタと忙しげに開いたり閉じたりを繰り返している。

 このバタバタのなかの一つが、恐らく自分の待ち合わせた相手となるのだろう。

 概念だけの透明な人形。
 それは空間を概念で区切られた思念体。
 あるいは向こうも自分のことを、そのような概念のみで区切られた思念体として見なしているのかもしれない。

 何かが頬に触れたような気がして、何かが耳に入り込んだような気がして、そうして何かが自分の口から昇ってきたような気がした。

 そこに自分の思考はまったく介在していないようだった。

 手のひらを見た、足元を見た、腹を見た、そうして自分は、自分の姿を永久に見失ったことを今知った。

午後10時42分

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