
ドライランブータン【自動記述20250211】
午後9時53分
昨日のことを今日のことのように思い出すことで
昨日の一日を送り直す。
チョコレートのシミ。
空高く飛んで消えた杓子の軌跡を想起する。
ペットの猫はどこかへ行ったのではなく、
恐らくはもともといなかったのだろう。
しっぽだけ残っているこれは、
だから何かの罠なのだから
触れてはならない。
障子に日が透けて室内を明るくする。
かといってでは障子を開けたところで向こうがわに
日の照る外部があるかどうかはわからないし、
言ってしまえばこのドアの先に
地続きの空間があるなどという保証ももはやない。
だから昨日のことを今日のことのように思い出すことが必要で、
それは登山において先人が打った
楔を辿るようなものなのではある。
とはいえそんなものも
はなから望めないことは目に見えており、
酷いときには部屋さえ一瞬なくなる。
一瞬なくなった後でまたもとに戻ってくれるのは
せめてもの慈悲だろうか。
眠りたいと切に願う。
なんなら永眠したいと。
永眠した先で見る夢のほうがよほど
筋が通っているというもので、
支離滅裂な現実を逃避することに人類の方向性がシフトしてから
久しいこのかた。
夕方の、
暮れ方のオレンジ色の日が差すころなどもはや
世界は時を逸して、
あらゆる物事が等しく重ね描かれることとなる。
四方八方から吹く風があらゆるものの輪郭を撫でてゆく。
音という音が一斉に発する。
腕に生じた虫刺されに覚えがない。
腕が失われたことにも覚えがない。
そして全身をまるごと失ったことにも覚えがない。
およそ覚えというものの根付く地盤が失われて久しい
今日この頃。
なにをやりたいかと言って、
とりあえず投錨したいと誰もが思う。
投錨とは具体的にどういうことなのかということを
誰も知らず、
誰も分からないのにも関わらず。
投錨するには投錨するに足る底が必要で、
これは常に試みているのだが未だに
探し出すことができていない。
だから実のところ、
われわれは本質的に投錨するべき
底というものを欠いているのかもしれない。
だからこそ夢。
夢に移住した人間は影のように
存在が薄くなるからすぐにそれとわかる。
彼らは寝ていない、
ただ存在を薄くして、
この世をゆらゆら彷徨っている、
さながら幽霊のごとくに。
ホイッスルが吹かれて、
それが何の合図なのかわからない。
冬の風が窓から吹き込んでひととき、
肌を震わせる。
それから地が揺れ、
そうして初めて自分は自分の立つ地が
常に揺れているのだということを知る。
だからといって、
いったい、
何ができるのかわからない。
午後10時5分