あいうえおの日々【自動記述20250126】
午前12時3分
何もわからないうちに全てが終わっている。
始める前に全てが終わっている。
そうして取り残された地平で落穂ひろいをする自らを、
頭上から眺める自らが生じる。
それから建物の壁を這う虫達が、
数えきれない足を規則的に動かして、
窓枠の隙間へ退去する。
太陽が昇るのが待ち遠しいのだろうか。
ということは今は夜なのだろうか。
時の流れ、
今自分がどの時間帯に位置するのかについて
興味を失ってから久しいらしかった。
山間の集落では山向こうの人と対話するのにあたって、
独自のシグナルを用いるらしい。
山を越えた向こう側の人と対話するのにあたっては、
それこそさらに独自のシグナルを用いるのに違いない。
それから不壊の銃弾が空間を穿って、
衛星軌道を経めぐって経路にあるものみなに風穴を穿ってゆく。
厳密に規格された計画都市に穿たれた風穴は、
都市の計画を崩し去るのには十分で、
同じ服を着て同じ日々を送る人々は
同一性という縁を失って
個別性を取り戻した。
言祝ぐべきことではないか!
甲虫が地から這いだして木々の樹液に集まり出した夏。
虫取り網を持った子どもが空の虫かごに見つけた虫が、
まさか後の世を滅ぼすことになるとは
誰も思わなかっただろう。
あたたかいというだけで良いものである。
寒いというだけで悪いものである。
おおむね悪いものから生み出された人間の分化は、
だからやはり悪いものである。
そう結論付けて地球を温暖化させることにシフトした人類は、
化石燃料を臆面もなく燃やし、
木々を燃やし、
家々を燃やし、
命を燃やした。
温かいほうが良いに決まっているではないか。
寒さに打ちひしがれた人間などろくなことを考えないのだから。
そうして散歩中の犬が一匹、
また一匹と、
道の脇の側溝に飛び込んで消えた。
飼い主は何も言わなかった、
それが変えようのない犬の運命だったのだとでも捉えているかのように。
巨石を庭へ運ぶ者たちの集団は、
実のところ存在しなかった。
巨石というのは単なる概念であり、
実在の巨石の重さに音をあげた業者の願いであり形式であり
観念でしかなかったのだから。
それから花が乱れ咲いた。
ところが人々はそもそも、
もともと花などというものに目を向けるように出来てはいなかったから
何も知らないまま日々の暮らしを営んだ。
頑なに。
まるでそれしかないかのように。
まるでそれが自らに定められた宿命であるかのように。
月日は過ぎた、
あるいは月日は過ぎなかった。
ただ瞼の重さだけが時を告げるこの部屋のなかで、
私は私の歌う歌をこうして聴きながら、
酒精に身をゆだねつつ、
正体を無くしてゆく。
午前12時19分