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夜に飛ぶ鳥の影を追って【自動記述20250122】
午後9時52分
道端に転がっている石ころに気を止めてはならない。
そう言われて多くの人は育ったらしい。
空を見上げて雲を眺めて日々を過ごしているような人間はやがて
空へ落下して死ぬ。
そう言われて多くの人は育ったらしい。
だから多くの人はうまいことやっているのだろうし、
そもそも人というのがこれほど多いのもそういうことなのだろう。
密林で未知の果物を探す一羽の鳥が、
棘だらけの木に引っかかって死を待つばかりの状況で、
目に見えた光景の美しさに初めて気づいた。
そういう密林に伝わる寓話を思い返して、
それを自らの、都市生活者としての
自らの生に適用してみる。
そうするとマンションは、
ビルは、
高い木々に変わって私の家は高床式の、
丸太作りの素朴な家へと変貌を遂げる。
友人が必要だ。
言葉の通じない友人が。
それは開け放たれたこの窓から家へ侵入し、
侵入した途端人の姿を取って私と
交わせない言葉を交わすだろう。
太陽は震えて巡り、
暮れるほどいや増す憂鬱は夜に消え、
永遠に続くことを錯覚させる暗がりが辺りを
覆い尽くす頃。
夢を見ることを忘れた私はただ
ひたすらに街を歩き、
あてどなく歩き、
暗いほう、
暗いほうを目指して進んでゆく。
夜に飛ぶ鳥の影を追って。
影となった鳥を追って。
棺のなかは空っぽだった。
これは実際的な意味だろうか、
それとも観念的な意味だろうか。
空っぽの棺のなかにはただ闇が、
影が満ちており、
そこから飛びたった鳥は夜にしか
飛ぶことができない。
夜にしか飛ぶことができないのだった。
たくさんの命が失われ、
たくさんの命が生まれた。
たくさんの日がのぼり、
たくさんの日が暮れた。
それから私はささやかな仕方で自らを滅し去り、
それから私はささやかな仕方で自らを在らしめた。
いや違う。
在らしめられた。
いつも無理矢理で唐突だった。
物心ついたころから、
世界は世界だった。
そして私は私だった。
なぜかはわからない。
焼いた食パンを食べる日々。
炊いた米を食べる日々。
それから季節の果物を。
そうして私は飛翔した、
空を。
見えない身体で飛翔した。
泡になって浮かんで消える数多の人々、
都市、
歴史、
世界。
遺棄された懐中時計が油のなかで
遅延した
時を刻む午後。
山の頂ではジリスが逆立ちして、
ポケットのなかの食べものをまるごとひっくり返している。
そろそろ行かなければならないらしいことは、
ひしひしと分かるのだが。
しかし布団の誘惑というものに抗いがたく、
あるいは私は布団に殺されるのかもしれないと、
半ば予感している。
永眠の誘惑が酒精のごとくに頭を巡り、
平衡感覚をわずかに狂わせる。
それでも歩け、
足を前に繰れ、
そう命令する私が私を目覚めさせる。
午後10時5分