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ホラー喰い【自動記述20250117】

 午後10時36分

 図書館が無くなるということで住民が署名を求めていた。
 駅前で活動している人々を見てビラだけ受け取る。
 図書館が無くなるのは確かに困る。
 署名したい。
 いずれしようと思いながら生活へ戻る。

 生活の重さ。

 署名を求める市民はほとんど60代以上、
 ものを考える余裕がありそうな世代である。

 社会を変革させるのは、
 社会を変革させようと思えるだけの余裕のあるものに限られる。

 案外、余裕を与えないことは社会を抑制することに繋がり、
 それは社会を安定的に保つための秘訣なのかもしれない。

 そんなことを思いながらビラを、読まずにカバンにしまう。

 それから階段を降りて駅前を歩き、
 パチンコ屋の前を通り過ぎてゆく。

 その間に何人の人とすれ違っただろう。
 年齢も性別も様々な人、
 人、
 人。
 彼らの一人一人に住む家があり、
 接する家族があるというのは驚きを通り越してもはや怖い。

 ホラーである。
 ホラーが大量に闊歩している。

 ホラーが大量に闊歩している駅前を過ぎて、
 私は私のホラーへ立ち戻らなければならない。

 それから叢。
 太陽。
 青空。
 風の渡る音。
 小川の流れるささやかな音。

 それから遙か未来の予定。
 それから遙か過去の思い出。

 それから澄んだ冬空に、
 都会の夜空に、
 かろうじてまたたく星々。

 風は冷たく、コートの隙間から入り込んで肌に現実を伝える。

 それから私の顔が、
 在るということを伝える。

 私の顔は身体よりも大きく拡大して私の住む
 この街を眺め、
 舐め、
 嗅ぎ、
 それから食べ始める。

 アスファルトを砕き、
 ビルを折り、
 人という人を、
 ホラーというホラーを咀嚼して
 ぐちゃぐちゃのミンチにして飲み下してゆく。

 私はだから、腹が減っていたのかもしれない。
 どのような腹が減っていたのだろう? 
 どのような腹に、ホラーは溜まっていくのだろう? 

 そしてそれは、私の何を満たしてくれるのだろう? 

 何もわからないまま、
 ただただ私はホラーを食らい、
 私の住む町を食らい、
 私の吸う息を食らい、
 私の過ごした思い出を食らい、

 そうして当然ながら、
 私そのものを食らう。

 午後10時45分

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