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遺された5歳の双子ちゃん

とあるご家族。
病気で闘病していたお母さんが亡くなってしまいました。まだ30代。
残された旦那さんと、5歳の双子の娘さんたち。
旦那様がご葬儀を取り仕切り、喪主を勤められました。

もちろんまだ、亡くなったお母さんの、ご両親もご健在です。

双子ちゃんたち、初めは無邪気に、たくさんの親戚の方達とお話したり遊んだり、自由に過ごしていました。でも、柩の中にいるお母さんと、お父さんの近くにずっといました。

告別式が始まって、お母さんに、お話やお手紙や、いろんなものを柩に入れて、いよいよ、柩の蓋を閉めるというとき。

双子ちゃんのひとりが、
「ダメ!しめないで!ダメ!」と、
泣き始めた。

待てるところまで、蓋をするのを待っていたけど、ずっとその子は泣き叫び続けた。

お母さんの入った柩が、
霊柩車に乗せられる時も、ずっと
「連れて行かないで!ダメ!行かないで!」と、泣き叫び続けた。

霊柩車にその子は一緒に乗って、火葬場まで行った。

火葬場に向かう車内でも、ずっと泣いていたのだろう。

火葬場に到着して、柩を車から下ろす時も、ずっと、「やだ!行かないで!ママ!行かないで!」
と、叫び続けた。

お父さんはその泣き叫んでいる子を抱っこしている。

双子のもうひとりの子は、黙ってお母さんの柩を見つめている。

炉に入ってしまうときも、泣いているその子は、叫び続けた。
「ママ、待ってよ!行かないでよ!やだ!行かないで!行かないで!」-----

しばらく泣き続けたけど、お食事の席になって、お父さんも、双子ちゃんも、ご飯を食べて少し落ち着いたみたい。

お食事の、お料理屋さんが、お子様用のおもちゃを用意してくれていて、双子ちゃんで同じものが欲しかったけど、ひとつずつしかなかったみたいで、それをきっかけに、双子ちゃんの、さっき泣いていなかった方の子が、ぐずり始めた。ぐずぐずとして、次第に、泣く理由を探していたかのように、わんわんと泣き始めた。

そうしているうちに収骨の時間になって、みんなで部屋を移動しなければいけなかったのですが、その泣き始めた子が、あんまり泣いていて、「行かない!」と頑なに動かなくなってしまったのです。

初めは、「行くよ」と、優しく言っていたお父さんも、あまりに泣いて動かないその子に苛立ち始め、ついに、ブチ切れたのです。

「泣きたいのはこっちだよ!!!!」
「早く帰りたいんだよ!そんなのどうでもいいんだよ!早く4人で家に帰るんだよ!!!!ふざけんなよ!!泣きたいのはこっちだ!いつまでもそんなふうにしてるなよ!!」
と、その5歳の子に向かって、
お父さんブチ切れてしまいました。

「先に行ってくれ!」
と、親戚やみんなを先に行かせて、双子ちゃんとお父さんを残して、私たちもその場をあとにしました。

次の部屋で、少し待っていると、落ち着いた様子で3人が合流しました。

でも……
奥さんの遺骨を見た旦那さん(双子ちゃんのお父さん)が、その場で泣き崩れてしまいました。

声を出して、大の大人が、わんわんと声を出して泣いています。

お父さんが泣いてしまって、どうしたらいいかわからない双子ちゃん。一人は、「父ちゃん泣いちゃった…どうしよう。」と、私のところにきました。
私はその子の背中に手を回して、「大丈夫。大丈夫。」と、なでなですることしかできなかった。
もう1人の子は、泣いているお父さんの近くで佇んでいました。

3人とも泣くことができて、良かったと、思いました。
これから3人で、大変なことの多い中生きていかなきゃいけない。
言いたいこと言えないまま、泣けないままじゃ苦しいから

みんな、わんわんと思いっきり泣くことができて、良かったと思いました。


さて、ここまで読んでくださったみなさん。

何かおかしいと思うこと、ありませんでしたか?

……そうなんです。

親戚はたくさんいたんです。

双子ちゃんの、おじいちゃんやおばあちゃんもその場にいたんです。

それなのに…

双子ちゃんが泣いている時、ぐずっている時、お父さんがブチ切れてしまった時、泣き崩れてしまった時も

そばに寄り添って
支えてくれる人が
誰もいなかったんです

どうしてなんだろう…と、やるせない気持ちでいっぱいになりました

でも
この後、遺されたご家族が、
支え合って仲良く生きていけますように

そう願わずにはいられません

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