「不動産も外車も買ってちょーだいな!」
ちょっと前に仕事で沖縄に行ってきた。
青い海、広い空、そしてなんとも言えないゆるーい空気感。
世の中の人々がなぜ毎年真夏にこの狂った暑い日本本土から、さらに南を目指してこの日本最南の地を目指すのか。
仕事がらみできたくせに、十分にその理由を理解できる魅力が沖縄にはあった。
が、しかし。
その魅力的なところばかりを見るにつけてある映画を思い出して暗澹とした気分になってみたりもした。
去年7月に一本の映画が公開された。
「遠いところ」という題名の日本の映画で、
沖縄の貧困にスポットを当てた映画である。
内容としてはざっくりと言えば、
17歳の沖縄の少女が貧困と周りの環境のせいで隘路へ隘路へ流されてどんどん人生をまずい方向に転がり落ちてしまい、最後は売春婦にまで成り果てていく、、と言う救いようのない物語。
沖縄の現実をこれでもかと言うほど淡々と描いた映画なのだけれども、その中でも最も衝撃的だったシーンが
中国人か香港人か、とにかく広東語を話す客に少女が手ひどく犯されるシーンである。
広東語で罵倒の言葉を浴びせられながらひたすらに行為を強要される少女の姿は映画の中とはいえ直視し難いものがあった。
このどーしようもない辛いベッドシーンを演じた男優、ああ間違えた俳優は、私の大好きなマレーシア人の映画監督リムカーヴァイさんなんですけど、彼の映画の話は今回は置いといて。。
沖縄の貧困を描いた映画の中に、中華系の客を取る沖縄の少女という存在が出てきたところが、私にとってはものすごく衝撃的なことだったのだ!
そして、現実の沖縄でもそこらかしこで広東語や中国語が聞こえていた。
沖縄から一旦離れて、インターネット空間でも
「中国案件 一晩50万円!」
なんて投稿がゴロゴロ転がっている。
うーん……。
なんだかなあ。
金払いがいい中国人と、金が欲しい日本人の女がマッチングして商売しているこの現状。
今は中国経済が下火になってきたところもあり、中国のおじさまたちの財布の紐もキュッと締まってしまったかもしれないけれど、私が中国にいた2018年はそりゃもう経済絶頂でインバウンドも全盛期だった。
コロナ前のそんな時代の沖縄を描いた「遠いところ」の該当シーンは、きっとその時代日本に押しかけてきていた中華圏のお客様の夜のお遊びを切り取ったものだったのかもしれない。
まあ、実際に日本に女の子をお買い上げに来るほどの経済力と行動力のある中国人はそんなに多くはないかもしれないけれど、
実際問題中国で日本の女の子に興味を持ってる男性は多い。
いや、多いどころか1人残らず日本人女子に興味があると言ってもギリギリ嘘にならない、とまで言ってもいいかもってレベルだ。
さて、前置きが長くなったけれども2018年。
23歳の私は、大学を一年休学して中国で1年間暮らす道を選んだ。
とりあえず中国語が話せるようになりたくて、
「ニーハオ」「シェイシェイ」「ブーヤオ」の3点セットだけを身につけて、人口300万人の山東省の田舎町に単身乗り込んだのである。
ちなみに、こんにちは、ありがとう、いりません。
という意味なのだが、この次に真っ先に覚えたのが
「ティンブドン」 ききとれません。
という言葉だったところから、私の中国生活がいかにテキトーなものだったのかを読み取れるかと思う。
その町には日本人は5人しかおらず、駐在員と日本語教師の夫婦だけで、上海や北京で見られるような日本人同士のいがみ合いはなく、
文字通り日本人五人は肩を寄せ合って助け合いながら健気に暮らしていた。
そんなところに、当時23歳、若い日本人の女がやってきたという事実はその町でとんでもないビッグニュースとして駆け巡った!
私はそんなに美人ではないし、
スタイルも良くないし、
丸い目丸い顔低い背丈と、マジで平凡な姿をした日本人である。
しかし、当時反日モードも影を潜めていたおおらかな中国では、タオバオで買ったポリエステルのテロテロの浴衣を私わざわざ持ってきて着せて一緒に写真撮りたがる人までいたのだ。
その写真は彼の朋友圈を彩り、
彼は大いに注目をされ、得意げな顔をしていた。
ちなみに、この頃私は渡航1ヶ月くらい。
ニーハオ、シェイシェイ、ブーヤオだけで全てを乗り切っていたので、これらの交渉は全てジェスチャーで執り行われた。
中国渡航前に、
「日本人ってだけで中国で爆モテらしいよ」
なんて噂を聞いて内心ときめいたりしていたが、
爆モテかどうかはさておいて。
現実、男女問わず年齢問わず本当に色んな人に毎日ご飯に誘ってもらい、
多くの時間を中国人と過ごしたことで私の中国語は半年でHSK6級が射程に入るレベルまで伸びた。
中国語が全くわからず、マシンガントークを喰らわせられて、適当に頷いてしまった結果、
何故か週末中国人の家庭にお泊まりをする羽目になった。
という経験をしたり、
隣の市の済南旅行に同行することになったり。
色んな経験をした結果、中国語がわからないとどこまでも中国人に引きずり倒されることを学び、必死こいて勉強したことも功を奏したと言える。
あの時言葉も碌にわからない私となぜ彼ら彼女らが一緒にいたいと思ってくれて、
色んなところに連れ出してくれたのかは定かではないものの。
今となっては、よくもまあこんな私にあんなに構ってくれたものだと思い本当に感謝している。
しかし、中国語がかなりわかるようになってくると「あれっ?」と思うことが増えた。
「日本の女の子って結婚する時家と車用意する必要ないってホント?」
「日本の女の子ってデートの時割り勘なんでしょ?」
無邪気な瞳でそんな質問を投げかけてくる中国男子たちの質問に最初は
「そだよー」
と答えていた私だが、あまりにも同じ質問をされるものでだんだん「むむむ?」という気持ちが芽生えてきた。
何より私を「むむむ?」という気持ちにさせたのは、
「結婚でなんで車と家が必要なの?日本では結婚してから夫婦でお金を貯めて買うものだよ」
「人によるけど、割り勘の人も多いよー」
という私の答えに対して、
どこか満足げな彼らが、
「やっぱり日本の女はサイコーだね!」
と、言うことだった。
うーん、なんなんだろこのモヤモヤ。
不動産も車も欲しがらず、割り勘でいい日本人の女コスパ良くてサイコー。
って言葉を浴びさせられるたびに思ったことは、
んん?それって
中国の女より日本の女が安くて金かからないからいいってこと!?
簡単な言葉で言うならば
日本の女が中国の女より安いってことかあ!
そんなのって、日本女子としてちょっとどころかマジムカ案件(マジでムカつく案件) 。
彼らの頭の中では、
「日本の女の子は家も買わない車も買わないプレゼントも求めないありのままのボクちんをうけいれてくれる」
と言う妄想が出来上がってしまっていた。
でもね。
〇〇しなくていいから、日本の女の子がいいなんて随分と失礼な言い口ね。
そんなことを、23歳の私はぐだぐだと心の中では思いながらも口には出せなかった。
そして、さらに中国語が上手になると、
今度はさらに込み入った話を聞かれるようになる。
込み入った話=Hな話である。
どういうわけか、みんな同じパターンを辿るのだが。
タクシーのジジイだろうが、北京大学の院生だろうが、百度のエンジニアだろうが、
みんながみんな。
声をワントーン小さくして、
「日本の女の子って本当にAVみたいな××するの?」
って聞いてくる。
私だって最初の方は、日本女子独特の波風荒立てない主義を発揮して彼らの優しい妄想世界を壊さないように、彼らの妄想を否定しない言葉選びに苦心した。
でも、三上悠亜とか波多野結衣とか蒼井そらの名前と飛田新地とか、そんな話題に出てくるたびに自分の中の何かが消耗していっている気がしていた。
「ボクの友達はAV女優とやったことがあるんだ。日本の特別なソープランドでは有名なAV女優が接客してくれてね」
「ボクの友達はAVの撮影現場を特別なコネで見せてもらったことがあるらしい」
うん、うん、うん、うん!
言葉にしてみたいけど難しくて、でもあえてそれを試みるならば。
日本の女の子って、中国人にとって下品なブランドロゴのバッグみたいな存在なのかもしれないと感じていた。
ブランド価値はあるけど、下品な感じ。
そう言うイメージを持たれている。
まさに、昼は淑女に自分の僕であり、夜は娼婦のように自分を楽しませてくれる罪深くも甘い存在。
でもそんなのは嘘で幻想だ。
日本の女はフツーにめんどくさい。
中国の女の子ほどはっきり要求や不満を口にしないから、ある日突然愛想つかして音信不通になるし、なんだか機嫌が悪い理由を察する高度な読解力が必要になる。
日本の女だって、プレゼントは嬉しいし金持ちの男が好きだ。
というか、世界の女全ての欲しいもの好きなものなんて多少の差異はあれどそんなに差はないだろう。
だけど、アニメやAVの影響力は凄まじくて、
彼らと仲良くなりたくて彼らの理想の日本女子像を演じてしまう自分に疲れてしまう。
そう言うことを何度も何度も繰り返してしまってきた。
中国人の幻想は金を産む。
きっと彼らの幻想と妄想が、一晩何十万円の中国案件を産んだことは間違いないだろう。
でも、その反面で膨らんだ幻想の後始末をしているのは、彼らと友達になりたくて。
彼らのとを知りたくて、
现代汉语词典片手にHSK対策を乗り越えた普通に真面目な日本の若い女なのだ。
まだ血気盛んだった頃は、
「私たち日本女子が全部あんなふうなことはしない!」
みたいにくってかかっていたものだけど、私ももはやアラサー女子。
落ち着いてるようで何にも落ち着いてないけど、体力は少し落ちてしまった。
だから、目をキラキラさせた中華圏の男の子たちから日本の女の子って…とお決まりの話題が始まると少しだけ意地悪してやるんだ。
「私ね、中国が大好きだから将来は中国で暮らしたいと思っているの。
だから結婚する相手には上海か北京か広州の家を買って欲しいの!それからドライブも大好きだからかっこいい車が欲しいなあ!」
なんて、無邪気なふりして言うのだ。
それでも諦め悪く、「君はそうでも普通の日本の女の子は…」なんて言ってきた男の子には、
「ええ、私の要求なんて日本の女の子の中では控えめな方なのだけれど…」
なんて言ってみる。
都合のいい日本女子幻想は簡単に変わらないかもしれないけど、
変えられなくても相手の顔色見るためにそれを演じてはあげない。
この程度の小さな反抗に溜飲を下げてるつまんない女。
だけどまあ、
いつか日本女子じゃなくて私を好きになってくれるそんな億万長者のスパダリ中華男子が現れる夢も捨てられない中途半端な夢見る乙女。
二律背反抱えながらさて、今後どう生きるのかは5年後の私に聞くしか術はないのである。