パワハラ戦闘記2 顔色の悪い先輩
配属されて3日間くらいは私はぼんやりと営業所の壁に徹していた。
誰にも相手にされず、淡々と自社製品カタログを眺めながら定時を待つ日々が続いた。
が、配属四日目の木曜日。私が配属された営業第一課に見たことのない若手の社員が出社してきた。
「はじめまして、2年目滝本です」
(ここではすべての人名は仮名になります。)
と、挨拶された。
「あ、こんにちは!蒼子です」
二人でとりとめもない話をした。でも、配属四日目にして私は営業所の人とこんな風に雑談できたのは初めてでうれしくてうれしくて仕方がなかった。
でも、その先輩は何だか目は虚ろで、生気というものがまるでなかった。
そして、
あの中年の色の白い、営業第一課の課長、「古瀬」が出社してきた途端に滝本さんの顔色はみるみる強張っていった。
「お、若い子同士仲良くやってるやん」
「いえ、まあ。。」
滝本さんは視線を下に落とした。
さっきは雑談してたのに課長が来た途端、
滝本さんは全く口を聞かなくなってしまった。
そうかと思ったら朝礼が終わるや否や足早に営業所から出ていってしまった。
「おい、滝本今日も外勤出るの早いなあ」
と課長の古瀬が、7年目の中堅社員の男性な顔立ちの、秋山(あきやま)に話しかけた。
「いや、滝本くん営業所嫌い過ぎでしょ笑笑」
と秋山は完全に馬鹿にした笑い声を上げた。
「外で何してるんかなあ。寝てるんかなあ」
上機嫌の課長は最低な笑顔を浮かべた。
俯いた私の存在にようやく気づいた二人は、
「いやー、冗談やで。
蒼子さん地方出身者やろ?大阪のノリわからへんよなあ。」
と取り繕うように貼り付けた笑顔で課長の古瀬が言った。
「いやー、古瀬さんこんなん傍目からパワハラなんて訴えられちゃったりして!」
秋山が絶妙なタイミングでフォローを入れる。
「滝本は、ええ大学でてるから普段からあんな風につっけんどんで全然話そうとせえへんねん。
頭ええから俺らとは話し合わへんのやろうなあ。
なあ、そういえば蒼子さんは大学どこなん?」
私が自分の出身大学を口にすると、
二人は満足そうに、
「それやったら〇〇さんと一緒やん。
俺ら〇〇大なんやで。
やっぱりなあ、営業にオツムはそんなにいらへんねんなあ」
2人の大学とそんなにレベルが変わらない私の学歴は彼らにとっては好都合だったらしい。
でも、
私の胸の中に広がっていく黒いものは黙々と存在感を増していく。
この人たちはいったい何なんだ。
今まで出会ったどんな人より嫌な感じがする。
そして、その夜私は自分の感覚が間違っていなくて事実だったことをビールの苦味と共に知ることになる。
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