29歳の週報 第9号 インバウンド韓国人が救った限界OLの大ピンチ!
1月中旬、旧正月間際の大阪で私は最後の手段に出て、
「アンニョンハセヨ!」と絶叫した。
今日はそんな話をしたいと思う。
私は普段中国関連の仕事を日系企業で頑張っている女である。
中国語を使い、中国人と働き、中国に出張にも行き、文字通り中国一色の私の毎日だけれど。
が、その傍ら実は会社から韓国関連の仕事も任せてもらい、日々頑張っている。
それについては以前この29歳の週報でも取り上げたことがあるので是非是非読んでくださると嬉しい。
偶然にも私が韓国関連の仕事を任せてもらい始めた少し前に、私には韓国人の相棒が現れて。
大学生から自主的に言語を学び、そこで生活してみて、何回も何回も訪れて、完全に自分の意思と希望で追い求めている中国や香港と違って、
韓国はまさにある日突然勝手に私の人生に飛び込んできた異文化であった。
相棒のことは大切に思ってるし、韓国についてしればその歴史も文化も非常に面白いと思う。
だけど、目の前の中国語や中国の仕事に追いかけまわされて引きずり倒されて、青息吐息の私は韓国語の勉強もままならず相棒の日本語能力に甘え散らかし、拙い英語を駆使してなんとか韓国の仕事を回している。
そんな状態なのだ。
さて、前回の感動の(?)中国出張!
この中国出張から帰国して数週間ぶりに出社した私のデスクに見慣れない小包が届いていた。
そして、その小包がなんなのかを少し考えてその小包の正体がわかった時、私は頭からつま先までの血の気がさあっと引いていきダラダラと冷や汗が止まらなくなった。
それは、定期的に韓国の取引先の代理店に送付しなければいけないサンプル品であった。
本来であれば中国出張を見越して、サンプル品を出庫してくれる部署に早めに出庫してもらって、中国出張に行く前に韓国に送付をしなければならないものだったのに、
このポンコツな私は、それをころっと忘れていたのであった。
さらに私が青ざめた理由はもう一つある。
それが、あと数日後に韓国が旧正月の休暇に入ってしまうという事実が立ちはだかっていたからである。
春節、というとおびただしいインバウンドによって中華圏のイメージが定着している我が国ではあるが。
韓国もがっつりしっかり旧正月がバリバリ文化に残っている。
つまり、だ。
これを早急になんとか出してしまわないと、取引先が旧正月の休みに突入してサンプルが間に合わなくなりいろんなめんどくさいことが発生してしまい、これはまあまあでかいミスとして私は責任を問われる。
という状態だった。
私はすぐさま取引先に
「いつから旧正月の休暇なんだ?」
と問い合わせると
明々後日、と帰ってきた!
おいおいまてまてまて。
それって今日一刻も早くEMSを送って間に合うかどうかの世界じゃないのー!
もうパニックである。
さらに運が悪いことに、
私がこの小包をちゃんと観察して、ちゃんと中身を確認したときすでに17時であった。
いや、朝イチに確認しろ。このポンコツ女!
と思った方もいらっしゃるだろうが、
その通り。
私はポンコツ女なのである。
17時にこの荷物の存在と正体に気がつき、韓国の会社に休みのこととかを問い合わせた時にはすでに17時40分。
ダンボールとサンプルとガムテープとボールペンを引っ掴んでオフィスのビルのエレベーターに飛び乗り最寄りの郵便局に向けて走り出した。
「大人になって全力疾走をすることなんてないナ。
最近走ってないなあ…」
なんて、ドラマや映画の中のサラリーマンやOLは夕陽を背に黄昏れているけれど。
限界OLの私はまあまあの頻度で全力疾走をかましている。なぜなら、ポンコツ女だからである。
できることなら私も早く黄昏れられるようになりたいものである。
ではなぜその瞬間私が全力疾走してるのかというと、最寄りのEMSを受け付けてくれる郵便局の営業時間が18時までだからである。
この時すでに17時45分。
端的に言って大ピンチである。
が、しかし追い詰められた私の全力疾走にモーセのようにサラリーマンたちは道を開けてくれて私は最寄りの郵便局まで3分という劇的な速度で辿り着きEMS送付の手続きに入った。
すっかり安心した私は、
「まー、なんだかんだ言っていっつも間に合わせるから偉いよな、私は」
と、完全に調子に乗っていた。
梱包が済んで、住所を書き込んで係の人に渡した途端に係の人は私の書いた伝票を確認して短く一言私を絶望に突き落とす言葉を吐いた。
「郵便番号は必須です」
え…………
ユウビンバンゴウ????
そんなものはない。
取引先が送ってきた住所に郵便番号の記述はなかった。
が、ここでめげる私ではない。
だって私には愛しい韓国人の相棒がいるもの!
私のラインのメッセージには光の速さで返信をくれて、私の電話には絶対出てくれる優しい優しい韓国人の相棒なら、ちょちょっと郵便番号くらい調べてくれるだろう。
そう思って電話をかけたところ
相棒が、出ない!つながらない!!!!!!
たらり、と汗が出てくる。
サラッとしたヤツじゃなくて、マジで体から滲み出るような脂汗である。
この時時刻は17時55分。
ここの郵便局は、周辺オフィスに勤める私のような大量のポンコツが日々無茶を言いにくるので閉店時刻を冷酷に厳守している。
そうでもしなきゃ、閉められないからね!
極めて当たり前の措置と言える。
「郵便番号がなければ送付はできませんので、本日は…」
諦めろよ。と、言われそうになったのを言わせずに
「いや。3分だけ待ってください!郵便番号用意しますので!」
と私は叫んで郵便局の外に出た。
あと5分で受付終了である。
相棒も、会社の韓国人社員さんも電話はつながらない。
万策尽きたその時、私の目の中に飛び込んできた人たちがいた。
お揃いのノースフェイスのジャンパーを着て、
髪の毛をお揃いの髪型に切りそろえて、
陶磁器みたいにつるんとした肌に、
少し太めの黒縁メガネ。
四人組の韓国人の男子たち。
ポケモンセンターの袋を片手に完全に浮かれ切った観光客である。
一か八か!ええい、いったれ!!!!!!!
私は彼らめがけて走り出し、
「wait!!!!アニョハセヨ!!!」
と叫ぶ。
ギョッとした彼らに、私は息を切らして
「can you speak Korean????」
(韓国語が話せますか?)
と、言い放った。
もうめちゃくちゃである。
が、このただならぬ空気に韓国人の兄ちゃんたちは私の言葉を聞いてくれて
「YES , we are Korean」
(もちろん!俺たちは韓国人だぜ!)
と答えてくれた。
そこからは必死である。
「私!ビジネスマン!このビルで働いてる!
韓国に荷物を送る必要ある!でも住所あるけど郵便番号ない!韓国語わからない!だから調べられない!タイムリミットはあと3分だ!なんとか韓国語の郵便番号を調べてくれ!」
カタコトの必死の英語を、彼らは最初は怪訝そうに聞いていたが、なんと1発で意味を理解してくれて。
「OK!OK! give me adress! I can help you!」
(わかった!住所をよこしな。俺たちで調べてやるから!)
とにっこり笑った。
この時時刻17時59分。
戻ってきた厄介な女が、四人の韓国人を引き連れてきたことに郵便局のお姉さんはマジでドン引きしていたが、無事郵便番号を記入し私のEMSは見事に受付を終えた。
時刻は18時ぴったり。
まさに滑り込みセーフであり、逆転満塁ホームランであった。
必死に
「カムサハムニダ!カムサハムニダ!」
(カムサハムニダ=ありがとう)
と泣きそうになりながらお礼を言う私に四人の韓国人は照れくさそうに笑って何かを韓国語で言った。
「まさか、日本で日本人を韓国人として助けることになるとは思わなかったよ笑笑
日韓の経済交流のためにこれからも頑張ってねー」
と気ののいいことを英語で言って爽やかにさって行こうとするお兄さんたちに何かをしたかった。
そこで、私は郵便局のご当地カードに目をやった。
この時、18時3分。
営業終了済みなのに、さっきあんなに締め切りを冷酷に宣告してきたお姉さんはしょうがなさそうに笑って。
「会計できますよ?」
と、すました顔で言った。
ご当地カード、とは。
47都道府県の郵便局で扱っている各都道府県の限定カードである。
文通界隈では有名で、海外にもファンは多い。
たこ焼きと、大阪城と、、ご当地カードを4枚買って。
レジを開けてくれたお姉さんにも何回も頭を下げて。
郵便局をさったお兄さんたちを追いかけた。
追いかけてきた私に、
「なんだよ、まだ郵便番号が必要か?」
と茶化したお兄さんたちに私はご当地カードを差し出す。
「今日は本当にありがとう。あなたたちのおかげで私は大丈夫になったんだ。
本当に感謝してる。これを持って行ってくれー」
と差し出すご当地カードにお兄さんたちは大袈裟に喜んでくれて。
去っていった。
ヘナヘナとその場に倒れ込みそうになりながら、ぼんやりと雑踏に立ち尽くしていると今更鳴るスマホ。
相棒からだった。
「遅いよー!10分前私は世界で一番君のことを必要としてたのに!」
と言うと相棒は驚いた声を出して、
一部始終を聞いた後で大笑いをしていた。
「蒼子さんが、カムサハムニダって言った時。
多分その人たち、ケンチャナヨって言ったんじゃないかな。
韓国語で大丈夫の意味だよ」
「あ、そうだったかも!そんな気がする!」
ケンチャナヨ、大丈夫。
新しい言葉の意味を知った。
私はポンコツ女で、どうにもこうにも抜けてる自分の性分に苦しみながらも市井の人たちの優しさと運の良さだけで今日もなんとか生き残っている。
私はやっぱり、大阪が好きだ。
いろんな国の人たちが、いろんなところから来た人たちを限りなく適当に受容し、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、果てしなく交差するこの街を愛してやまない。
この町で私も誰かを助けることもあれば、、
この日のように私が名も知らぬ人達から窮地を救われることもある。
だから、ポンコツはどうにかしていくのはそうなんだけどここは敢えて。
ポンコツだって悪くないんだ!
と言い張りたい。
そんな傲慢さを大阪は許容してくれるんだろうか。
EMSは無事春節前に韓国に届き、私の首の皮もしっかり繋がった。
できれば安泰に平和にまいにちを過ごせるように、抜け漏れ防止のtodoリストを作成した私はそのtodoリストを書いたノートを水に落としたところで今日はおしまい。
いつかは仕事ができる、シゴデキ、バリキャリOLを目指して明日も頑張っていきましょう!
それではこの辺でみなさん。
アンニョン!!!!!