【アシスタントレポート】伝統のスタイルに磨きをかけて~日本体育大(スプリングトーナメント)
アシスタントの山宮です。今回は関東大学バスケットボール選手権大会(スプリングトーナメント)から、井手拓実選手(4年、18番)の取材をもとに日本体育大学について記事を書かせていただきました。今大会を振り返り、今後へ目を向けた記事となっています。
走るバスケで躍進を見せるも、2連敗で大会を終了
日体大はキャプテンであり司令塔の井手を筆頭に、全選手が走り、得点にからんでいく、チームの伝統的なスタイルで優勝を目標に臨んだ。
準々決勝で優勝候補の一角であった専修大に67-64で勝利。井手は嬉し涙を流したが、勢いのままに駆け上がることはできなかった。準決勝で対戦した日本大(今大会優勝)の壁は大きく、74-56で敗退。翌日行われた3位決定戦では、筑波大に75-60で敗れ2連敗し、4位で大会を終えた。日大戦、筑波大戦と2試合連続で、井手は試合後にベンチでうつむき、頭を抱えた。
連戦の疲労による失速
井手は福岡第一高出身。全国トップレベルの走力を鍛え上げ、毎年のように日本一争いに名を連ねる名門で磨いた力は、日体大の“走るバスケ”に、存分に活かされるものだった。同じく福岡第一高出身の留学生センター、バム・ジョナサン(4年・50番)や、古橋正義(3年・1番)、小川麻斗(2年・23番)らと共に、井手は走るバスケで戦った。
3位決定戦の筑波大戦。前半は小川を軸とした素早い攻撃と、モンゾンボ・クリスティン(3年・21番)の高さを生かして競り合っていたものの、第3クォーターの中盤、井手が唇を切ってコートを離れると、チームのペースがおぼつかなくなる。
一度失った流れを再度手にするのは簡単なことではない。井手が戻ってからも日体大は筑波大の猛攻を食い止められず、この試合最大の9点ビハインドを負うこととなった。最終クォーターはシュート率が落ち、ミスも続き、最後まで流れを変えることはできなかった。
井手は敗因を1つにスタミナ不足を挙げ、「5日間ほぼフル出場で、ばてた部分もあった」と述べる。連戦の疲労が蓄積し、最終日は思うようなプレーができなかったようで、日大戦まで常に2ケタ得点をマークしていた井手は、この試合に限っては7得点にとどまった。それだけの疲労が蓄積したとしても、井手が長くコートにいなければならないのが日体大の現状でもある。
3人の留学生ローテーション
攻防が激しくなるインサイドのプレータイムを、留学生3人でシェアできたのは今大会で日体大だけだった。バムは体の幅を活かしたぶつかり合い、クリスティンは積極的なリングアタック、ムトンボ・ジャンピエ―ル(1年・35番)は長い手足を活かしたショットブロッカーとして、それぞれが異なる特徴で存在感を見せる。
また、3人には日体大の持ち味であるスピード重視のオフェンスにからめるという共通の強みがある。通常、留学生は大きな体を最大限に活かし、主にゴール下の守備の要として活躍することが多いが、日体大では守備に加えて、素早い攻めに貢献できる走力が求められるのだろう。
筑波大戦、バムは7年間ともに過ごしてきた井手とのホットラインはもちろん、ライン際に転がったボールを必死に追いかけ、チームに勢いをもたらした。クリスティンは主に第2クォーター、リバウンドやドライブからのバスケットカウントを決め、チームに流れを引き寄せた。ムトンボ・ジャンピエールは、長い手足を活かして高さでアドバンテージをとり、ゲームハイの9リバウンドとゴール下で存在感を見せた。
異なる特徴を持つ3人の留学生を、相手によって使い分けられるのは日体大の大きな強み。井手は「留学生3人の使い方をうまく分かっていけば、とても強い味方になる」と言う。今後、井手がこの3人をコントロールし、強みを最大限に活かすことができれば、他チームにとってさらに脅威となるだろう。
敗戦から得た収穫と課題
留学生をさらに活かしていくことはもちろん、アウトサイドの選手の成長も必要不可欠だ。井手は、古橋と小川に対し「走ってくれるし、ディフェンスも頑張ってくれた。コミュニケーションも取ってくれたので、大会を通じて頼りになると思った」と感謝を述べ、「大事な泥臭い仕事を一生懸命してくれた」と、スターターとして共に長い時間コートに立つ青木遥平(3年・31番)の成長も喜んだ。
一方で、井手は連戦から得た今後への課題も明言。自身については「ディフェンス力を上げていかないと、キャプテンとしてチームを勝たせられないと感じた」とコメントした。
また、選手層の向上も井手が挙げた課題の一つ。試合の大半を7〜9人で回す日体大に対し、他の上位チームは10人前後でローテーションすることが多い。プレータイムの偏りは、今大会の総出場時間の上位4名が日体大の所属(古橋、井手、小川、青木)であることが示している。井手は「スターターの出場時間が長くなると、リーグ戦やインカレではスタミナが持たなくなるので、これからはチーム力の底上げもしていかないといけないと思う」と、バックアップとして出場するベンチプレイヤーの成長に期待を寄せた。
スピードを武器に挑むリーグ戦、インカレーーキャプテンが見据えるこの先
井手は言う。
「最近の日体はずっと弱くて、自分たちの代で優勝することを目標にやってきました」
だからこそベスト4からあと2勝、目標に掲げてきた優勝をつかみ取りたかったのだろう。試合後の井手の様子からも、その思いの強さはよく伝わってきた。
持ち味である“スピード”が通用すると確信を得た今、日体大はこの武器に磨きをかけ、日本一を目指す。その上で、疲労の蓄積を最低限に抑えて戦っていくには、”ベンチプレイヤー”の活躍が以降のリーグ戦、インカレ優勝に向けてのキーポイントとなるだろう。
「専修大に勝てたのは大きな収穫。日大、筑波大の敗戦をしっかり受け止めて、今後やるべきことを修正していけば、日本一になれる」と、井手は自信を見せた。
延期を重ねながら、とうとう今年の大学バスケが幕を開けた。日体大は昨年度のインカレベスト16など近年満足のいかない結果に終わっていたものの、今大会は4年ぶりのベスト4に成りあがった。しかし、2連敗で大会を終えた悔しさと、収穫や課題を今後につなげ、目指す優勝への進化を見ていきたい。
執筆:山宮厳己( @genki_bsk )
編集:青木美帆( @awokie )