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2/11 科学における女性と女児の国際デーに考える、理系女性と日本の未来 ~アメリカとシンガポール視察で見えた、日本に必要な変革とは?~
はじめに
2月11日は「科学における女性と女児の国際デー」です。科学技術を通じてより良い世界を築くためには、女性の参加が不可欠だと、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も強調しています。
https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/51585/
しかし、現状では世界の科学者のうち女性はわずか3分の1に過ぎず、STEM(理工系)分野での女性のキャリアとリーダーシップの機会は依然として限られています。
日本の状況はさらに深刻です。
大学に進学する女子学生が理工系に進学する割合は25年以上10%前後で推移し※1、2021年度のデータでは「自然科学・数学・統計学」分野で27%、「工学・製造・建築」分野では16%と、OECD加盟38カ国の中で最下位に位置しています※2。
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https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74535830X10C23A9CM0000/
一般社団法人AWESOMEは、日本の理工系分野で女性がリーダーシップを発揮し、多様な視点からAWESOMEな(=素晴らしい)イノベーションを生み出す未来を目指しています。
今回、米国国務省および理化学研究所革新知能統合研究センターの協力のもと、アメリカ(12/4~19)とシンガポール(1/12~16)を視察し、理系女性の活躍を支える仕組みや文化を学んできました。
私たちは何を学び、日本にはどのような変革が必要なのか。この科学における女性と女児の国際デーに考えてみたいと思います。
アメリカ視察の学び「女性のSTEMキャリアを支えるエコシステム構築」
①地域で産官学が連携し、教育とキャリアをつなぐSTEMパイプライン
アメリカでは、STEM教育からキャリア形成まで切れ目のない支援が整備され、地元企業・行政・NPO・教育機関が連携して支援をしています。University of Texas at Austinでは、工学部の女子比率が15%から30%に倍増したという結果も出ています。持続的な連携が、STEM分野での女性の進出を加速させています。
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地元の多くの企業が協賛していました
②ロールモデルとニーズを見せること・伝え続けること
STEM分野でのキャリア継続には、ロールモデルとのつながりが不可欠と認識され、メンタリングプログラムが広く導入されています。また、産官学の関係者は「結婚・出産などライフステージを経てもキャリアを築ける環境整備の必要性」を強調しています。こうした継続的な取り組みが、アメリカの理系女性の活躍を支えています。
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「訴え続け、政策に反映し続けない限り、認知されず簡単に元の状態に戻ってしまう」という
言葉は非常に印象的でした。
③理系女性が挑戦し続けられる環境づくり
視察中はすべての議論が英語で行われ、伝えたいことを十分に表現できない場面もありましたが、オープンなコミュニケーションの文化に助けられ、多くのネットワークや学びを得ることができました。理系女性は優秀でありながら、不安や迷いから挑戦を躊躇するケースも多いため、日本でも挑戦できる環境の整備が不可欠だと考えています。
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シンガポール視察の学び「STEMが生み出す社会的インパクト」
①STEMを国家戦略として位置づけ、社会全体で推進
シンガポールは、STEM(科学技術と教育)を国家戦略の柱に据え、積極的な投資と政策を展開しています。2024年現在、グローバル・イノベーション・インデックス(GII)世界4位、スマートシティ・ランキング世界5位と、技術の社会実装にも成功しています。小規模国家だからこそ、スピーディーに施策を進め、STEMを活かしグローバル競争力を高めています。(日本はGII13位、スマートシティ86位)
②リーダーとロールモデルの存在が当たり前に存在
9団体へのヒアリングを通じ、分野や官民を問わず、女性が管理職や経営層に普通に存在していることが明らかになりました。また、採用や給与において性別の差はほとんどなく、ジェンダーギャップ指数でもそれが証明されています。
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0が完全不平等、1が完全平等を表している また順位は146か国中を示している
③STEM×ソフトスキルの重要性
STEMの分野で女性が活躍していくためには、STEMの知識だけでなく、メンタリングやリーダーシップなどのソフトスキル支援が不可欠です。United Women Singaporeは、この視点から多様なプログラムを提供し、女性リーダーの育成につなげていました。
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視察から見えた日本に必要な変革とAWESOMEの取り組み
①地域で産官学が連携し、STEMキャリアのパイプラインを構築
日本では、内閣府の理工チャレンジ(リコチャレ)や文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)など、STEM分野における教育支援の取り組みが進んでいます。一方で、教育からキャリア形成へとスムーズにつながるパイプラインや、産官学が一体となった連携には、さらに強化の余地があります。AWESOMEはアメリカの事例を参考に、兵庫・大阪を中心に地域連携を強化し、持続的に理系女性のキャリアを支援する仕組みを構築していきます。
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②理系キャリアの先に広がる世界を可視化
STEMは専門分野にとどまらず、社会課題解決や技術革新の基盤となる分野です。進路を選ぶ中高生に、研究職だけでなく、製品開発やコンサルティングなど多様なキャリアがあることを伝えることが重要です。AWESOMEは、ロールモデル集「AWESOME Choices」の発信に加え、理系キャリアプログラムを提供し、理工系進学率の向上を目指します。
③理系女性のリーダーシップで、イノベーションを加速
視察を通じ、日本における理系分野の女性リーダー層の不在が課題であると改めて実感しました。イノベーションには多様な視点が不可欠であり、理系女性が果たす役割は大きいと考えています。AWESOMEは、理工系キャリアで活躍する女性を対象にリーダーシップやプレゼンテーションスキルを強化するプログラムを提供し、主体的なキャリア形成を促します。彼女たちが自分らしくリーダーシップを発揮することで、AWESOMEなイノベーションを生む未来を創ります。
あとがき
アメリカ視察中に訪れたワシントンD.Cにあるスミソニアン博物館は、規模から展示方法から展示内容まで、本当にAWESOMEでした。その中に「See your phone is its natural elements.」という新たな展示コーナーができており、そこでのある展示がこちらです。
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AI分野の教授の80%が男性、そしてコンピューターサイエンスの分野の博士全体における女性と白人以外の人はわずか25%とのこと。展示では、犬を白人男性、ネコを女性や有色人種に見立てて、顔認証が機能しないことについての一コマを描いています。急速に発達するこの領域を開発している人が偏っているということは、何を表しているのか。ぜひ、この記事を読んでいただいた方たちにも少し考えてほしいなと思っています。