AWESOME Choices Issue no.018 理学の道を選び、家庭と研究を両立させた理系女性のロールモデルを目指し、後継者を育てることを志す大学院理学博士課程女子学生
現在は東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士課程で特別研究員として研究をされているということですが、高校・大学時代の進路選択時のお話について聞かせてください
女子があまり理系(特に数学や物理系)に進まないことや、当時から理系分野に女性のロールモデルが少ない現状に違和感を覚えていました。特に勉強面では、「男性に負けたくない気持ち」が私にとって強力な原動力でした。その時点から、将来私は家庭と研究(または仕事)を両立させた理系女性のロールモデルになり、後継者を育てることを志すようになりました。また、無知で幼い見た目が重視される「女子らしさ」の古い概念にも抵抗を感じており、私は自分の意見を持ち、主体的に行動できる女性になることで、まだまだ残る男性優位な社会を変える存在になりたいという思いが強かったのだと思います。もちろん物質や元素に興味があり、純粋に理学を探究したい気持ちもありました。その一方で、背景にあるこれらの要素から、女子が少ない理系に進むことを選びました。また当時、モンスターハンターに夢中で、「強くて美しく、知的で自立したかっこいい女性」に憧れていたのも、私の進路選択に影響を与えているかもしれません。
大学の学部選択の際「理学を大成したい」という思いが強かったため、基礎的な学問分野を探究することのできる「理学部」に進学することを決めました。そこから学科を選ぶ際に「数学科」や「物理学科」等、自分の好きな科目が多岐にわたっていたのに絞られてしまうのが悲しく、またどこか私たちの身近なものと結びつかず机上の空論だけで終わってしまうのが嫌であったため、「地球科学科」を選択しました。「地球科学」のおもしろさは、数学、物理、化学、生物といった理系科目に加えて、社会などの文系科目も含めてほぼすべての学問とつながっていることです。
つまり、我々が生きている宇宙や地球で起こる自然現象や惑星の成因、進化過程は全て複数の学問がつながりあうことで解明されています。実際に大学で「地球科学」を学ぶことで、身のまわりのものや現象と学問のつながりを直接的に感じることができ、自分自身の世界が広がっていくことを改めて実感しています。
大学は地元の国立大学である静岡大学に進学しましたが、当時の研究室の教授が定年であったため、同じ研究室の大学院に行くことはできませんでした。しかし、まだまだ研究したいという思いが強く、当時興味をもった研究をしている有名な教授が東京大学に移動したため、院試を受けることを決意しました。大学入学後も高校理科の教員免許や学芸員資格を取得するなど人の二倍以上の単位をとり、必死で勉強や研究して静岡大学理学部を首席で卒業し、さらに卒業研究の一部を国際誌に論文投稿しました。院試でも好成績をおさめ、そのおかげで国際卓越大学院教育プログラムにも採択され、大学院修士課程からお給料をいただいて研究していました。
現在、東京大学大学院にて研究をされているということで、ご自身の研究の魅力について教えてください
大学院では、「分子地球化学」と呼ばれる手法で研究しています。これは、ミクロな元素の挙動(同位体、価数、結合状態など)から、地球や宇宙の大きな出来事(昔の地球環境復元、惑星の進化過程など)を解釈する方法です。例えば、私たちの研究室では、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウ試料や福島原発事故の影響、微生物やエアロゾル、海底資源など、幅広いテーマに挑戦しています。この手法は宇宙や地球全体の物理化学法則に基づいており、理工学だけでなく様々な分野に新しい知見を提供できます。
研究プロセスは非常に多岐にわたり、スーパーコンピューターを使った予測からフィールド調査、物理化学的な実験、そして最終的な成果を論文や国際会議で発信するまでが含まれます。理論と実験を組み合わせて地球や宇宙の謎を解明するわけです。この分野では、科目だけでなくプログラミングなどの情報系スキルも必要です。様々な経験ができるのがこの分野の魅力です。
日々の生活の中でご自身の「理系が出ているな」と感じることなどはありますか?
友達との会話では、名前のイニシャルを元素記号に見立て、元素の性質とその人の性格を結びつけてサイエンスジョークを楽しむことがあります。また、水族館で他の人が魚に注目している中、私はガラスの耐久性に感動してしまったり、お酒の香りがするとアルコールの構造式が頭に浮かぶなど、日常の中で科学的な視点で物事を捉えることがあります。さらに、雨の日に道で滑ると、地面の摩擦係数に興味を持ち、「今日の摩擦係数はすごいなあ」と感じたこともあります。日常の全てが科学と結びつくようになると、同じものを見ても知識があると新たな発見があり、人生がより豊かで楽しいものに感じられます。
また、最近は理系分野にとどまらず、異なる学問分野や趣味にも興味を持っています。例えば、茶道部でお茶をたてる際には拡散方程式や最適な温度を考えることもあり、理系と異なる分野でも科学的な発想が活かされています。最近の趣味である英検一級の勉強でも、単語がハリーポッターの呪文と結びついたり、異なる分野の学びが新たな発想を生むことを実感しています。学びは物事を別視点から捉え、世界を広げてくれるものだと感じています。
「理系分野を学んでいること」や「リケジョ」に対して何か思うことなどあれば、教えてもらえますか?
理系分野を学ぶ一番の利点は「論理的に自分で考える力」が身についたことです。何か問題が起きたとき、感情的になったりパニックに陥ったりすることなく、冷静かつ論理的に考え、自分なりの解決策を見つける力がつきました。この力は、周りの意見に振り回されず、主体的に行動するうえで非常に重要だと感じています。特に数学や理科は論理的思考力を育むのに適しているので、理系文系に関わらず理系分野の学習は、自分の頭で考えて行動する力を鍛える面で不可欠だと思います。
「リケジョ」について感じていることは、彼女たちは体力的にも精神的にも強く、タフであるということです。専門性を持ち、精神的・経済的に自立しているだけでなく、学び続ける姿勢や忍耐力も兼ね備えている方が多いです。家庭や育児と研究・仕事を両立されている先輩リケジョの方も私の周りには多くいらっしゃいます。努力家で聡明で真の美しさを持っている本物のスーパーウーマンたちだなと感じています。私もそのようになりたいですね。
これからの進路を考える女子中高生に向けて、アドバイスをお願いします
理系女性は増えつつありますが、依然として男性中心の領域で、体力的・精神的なハードルが高いこともあります。数学や物理学、天文、地球科学、工学、データサイエンスなどはその一例です。
しかし、その中で「強さは美しさ」「学び続ける人は美しい」という言葉を忘れないでほしいなと思っています。他の人より大変な分、得られる学びは大きく、絶対的なスキルや専門性が身につきます。そして将来的には、精神的・経済的な自立が実現します。これは女性にとって自由な人生を築くことであり、自分の人生を好きなように生きることに繋がります。難しい勉強をたくさんしたり、数々の試練を乗り越えたりすることで、人間的な魅力を兼ね備え、本当の美しさに磨きをかけることができるのです。
男性が体力的に優れているなら、女性こそ知性を武器に変えていけば良いと私は思っています。固定概念を打破し、一緒に変えていきましょう。理系科目が苦手でも心配いりません。毎日継続して努力すれば、いつかは才能が開花し、昨日の自分を超えることができます。まさに「雨垂れ石を穿つ」です。特に理系は大学入学がゴールではありません。大学入学後も学び続けられるか?そこが勝負だと思います。継続的かつ圧倒的な努力は才能をも凌駕します。私も日々新たな目標を持って学び続けています。一緒に頑張りましょう!
最後に
ご自身の子供のころに感じた違和感と理学への関心から、「自分がロールモデルになって変えていく」という強い思いを持ち、様々なことに努力を重ね、数々の挑戦を乗り越えてきた結果、専門的な分野の知見やスキルにとどまることなく、今の自分の強さや自信を手にすることができたということがお話の随所から感じることができました。小長谷さんの更なる活躍を応援しています!貴重なお話、ありがとうございました。
あとがき
いかがでしたか?
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