あきは夕暮れ。
血迷ったので物語を書く
あきは夕暮れ。
私、本を読んでいた。太宰治、『もの思う葦』をまじまじ読んでいた。駅のホーム、只静かな一番線のベンチにて大きく座り、そしてノスタルジィを感じていた。
そこに、私の肩をとんとん叩く感覚がした。
顔を上げるとお婆さん一人。話を聞くと道に迷ったそう。
「上りの電車に乗るには、ここで待っていればいいのかしら?」
上品な口調。どっしりとした立ち姿にお婆さんの人を見た。面白くて、少し、考えた。そしてこう言った。
「時間を急いているのなら、3,4番線、少し待っても席に座りたくば5番線、静けさを食むのなら、此処です。」
すると、彼女もまた少し考えて、
「そう、ありがとう。分からなくってね、ごめんなさい。」
そう言って、そそくさ帰ってしまった。
分からなかったか、そう思った。
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