宿った願いに灯火を ー恩返し 中編ー
「信じてもらえるか、分からないんですが…。えっと、私の兄の話なんです」
恩返し 中編
兄が大学生になり、1人暮らしを始めました。少し抜けているところはあるけど、家事もできるし私も心配はしていなかったんです。兄ならきっと大丈夫だろうと。
そんな兄に変化があったのは1週間前でした。1件のメッセージが届いていたんです。何かあったのかなと開いてみると、こう書いてありました。
『俺の部屋…事故物件だったのかもしれない』
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「それで…どうしたらいいのか分からなくて。浅桜さんに相談してみようと」
「なるほどな…」
事故物件か。なら、お寺や神社に相談した方が早いと思うんだが、何処に聞けばいいか分からなかった…って感じか?
でもまぁ、心霊関係なら適任がいる。
「取り敢えず話は分かった。知り合いに心霊関係に強い人を知ってるから、連絡してみるよ」
彼女は俺の言葉に、安堵の笑みを浮かべた。
「あと、部屋を見に行くかもしれないって、お兄さんに伝えておいて」
「分かりました。ありがとうございます」
…胸元から抗議の声が聞こえてくるが、嘘はついてないからいいだろ。学校が終わったら話し合いな。
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「事故物件、ですか…」
家に帰って夜ご飯をつくりながら、ぽつりと蒼羽が呟いた。
「何か気になることでもあるのか? 」
俺の言った"心霊関係に強い人"というのは、勿論彼のことだ。蒼羽は元々、厄除け、交通安全、家内安全の神様として祀られていた。だから、心霊関係も強いかなと…単純すぎたか?
「事故物件なら、引っ越したその日から心霊現象が起きているはずです。1週間前というのがどうも…」
確かにそれもそうだ。事故物件じゃないってことは、引っ越してから霊が入り込んだか、お兄さんの勘違いか…。
「やはり、実際に部屋を見てみないとなんとも言えませんね」
そう言い、豚汁の味見をする蒼羽。心霊関係はよく分からないし、今はお兄さんからの許可を待つしかないな。
「そんで、今日の夜ご飯は何? 」
「唐突ですね…これとハンバーグですよ」
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伊藤さんのお兄さんから連絡が来たのは、相談された日から2日後だった。学校で伊藤さんから連絡先やら住所やらを聞けたんだ。
どうやら、今でも怪奇現象は起きているらしい。
ミシミシと音が鳴るラップ音から、物が勝手に落ちたり、何かの鳴き声が聞こえたり。気の所為とも取れるが、心霊現象とも取れる。
部屋はお兄さんがいる日なら、いつでも大丈夫とのこと。少しでも早く解決させたいんだとさ。
まぁ、いつまでも不安を抱えたまま暮らしたくはないよな。
「んで、どうしましょうか。蒼羽さん…」
隣で文庫本に視線を落としている彼に話しかける。
「日にちは灯里が決めてください。…近いうちの方がいいでしょうけど」
今日は木曜日だから、明後日とかどうだろうか。休日の方が動きやすい。
液晶に触れ、依頼主であるお兄さんにメッセージを送ってみる。今週の土曜日はどうだろうかと。運良くこの日は学校が休みなのだ。
返信が来たのはすぐだった。
『その日は俺も大丈夫です。よろしくお願いします』
日にちも決まったし、後は土曜日になるのを待つだけ。…本当に心霊現象なのかどうか。怖いような少し興味があるような…。
まぁ、なんにせよ。
「土曜日になるのを待つしかないな」