琥白の記録書②
11月24日 日曜日 天気:晴れ
街が少しずつクリスマスの支度をし始めている。雑貨屋さんでも、クリスマスに向けた飾りやコスチュームが売られていた。意外と冬はそこまで来ているのかもしれない。
そんな、街の支度を氷知と一緒に見てきた。
「氷知から誘ってくれるなんて、珍しいね」
昨日の夜、氷知から携帯に1件のメッセージが入っていた。内容は簡単なもので、明日の夜に行きたい所がある。とだけだった。
「それで…今からどこに行くの? 」
彼は、少し間を空けて言った。
「内緒」
まぁ、氷知のことだから変な所に連れていこうって訳ではないと思うけど。ここは素直について行こうかな。
彼について行くと、徐々にキラキラしたものが見えてきた。足を運ぶたびに輝きは広がっていく。
「これって…」
多くの木や店が輝きを纏って、大きな広場には背の高いツリーが堂々と立っている。どれも点灯されていて、通学路とは違う世界があった。
「昨日から点灯されているって、友達から聞いて。…琥白と見たかった」
少し頬を染めながら言う彼。あまり見ない表情に、胸が跳ねる。
「そっか…ありがとう」
そう言うと、首をぶんぶんと横に振った。
もうクリスマスか…なんだか早いな。店やツリーが早くに飾られたりするのは分かっているけど。時の流れは早いなとしみじみ思う。
「クリスマス、予定空けててね」
彼の言葉に勢いよく頷いた。当たり前だよ。
この前までハロウィンだなんだと騒いでいたのに、もうクリスマスなんだね。私も街に習って支度をしないといけないかな。今年のクリスマスはどうなるんだろう。今から楽しみ。では、今日はここまで。
12月1日 日曜日 天気:曇りのち雨
冬に入ったと言っても、もう過言ではないと思う。学校でも風邪をひく人が増えて、外に出るのも嫌になってきた。そういえば、この時期は色々な場所で『彼氏/彼女が欲しい』という言葉を耳にする。クリスマスが近いからかな。
今日は急遽、氷知が私の家に来た。話したいことがあるらしい。
「今日はどうしたの? 相談したいことがあるって」
珍しく氷知が真剣に、相談したいことがある と言った。何かあったんだろうか。問題に巻き込まれた…なんてことはないと思うけど。
「昨日の学校で、千暁(ちあき)に恋愛相談された」
「恋愛相談? 」
千暁というのは、氷知と同じクラスの陽川(ひかわ)千暁さん。弟と妹が1人ずついて、面倒見が良く、氷知の面倒も見てくれている。何度か話したことがあるけど、しっかりした人だった。
「千暁に、『好きな人ができたんだけど、どうしたらいいか教えて欲しい』って言われた」
「それで…何て答えたの? 」
まともに返事をしたのか不安だけど、一応尋ねてみた。
「告白したら? って言った。そしたら、『それが出来たら相談しないだろ馬鹿』って言われた」
少し不満げに彼は言った。でしょうね。告白する勇気も自信もないから相談したんじゃないかな。氷知が相談されたことを私に相談するってことは…。
「えっと、これを私に相談するってことは、何か策がほしいってことかな? 」
問いかけると、彼は首を縦に数回振った。
「なるほどね。そもそも、千暁さんの好きな人って誰なの? 」
「名前は忘れたけど、琥白が仲良くしてる女子。えっと…なんか、優しい感じの…」
随分と抽象的ですね…。私が仲良くしてて、優しい雰囲気の人だったら、椛織(かおり)ちゃんかな。そういえば、千暁さんと同じ保健委員だった。
「椛織ちゃんかな? 明月(あきづき)椛織。」
氷知は、その人 と声を漏らした。氷知も何回か話したことあるでしょう。相変わらず人の名前を覚えるのは苦手なんだね。
それぞれ2人の友達なら、何か出来そうな予感がする。少し考えてみよう。
「取り敢えず、私も考えてみるけど…氷知も何か考えててね? 」
彼はんーっと、曖昧な返事をした。
他の人の恋愛について、どうしたらいいかよく分からないけど、お互いの友人だし何処かに出かけたりしてゆっくり距離を縮めるのもありだと思う。もう少し具体的に考えてみようかな。では、今日はここまで。
②終わり
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