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宿った願いに灯火を ー恩返し 前編ー

何年も願ったことだった。輝く銀色の髪を持つ彼を見て、ごくりと唾を飲む。

「本当に、君が…」

言葉を遮るように君は優しく微笑む。

いつか願った、小さな夢。

「ずっと、君と話がしたかったんだ」

***

恩返し 前編

「そろそろ起きないと遅刻しますよ」

優しさを含む声がどこからか聞こえ、同時に体を揺すられる。

「あと5分…」

唸りながら答えると、呆れた声が耳に届く。

「それはさっきも聞きました。起きてください」

毛布を剥がされて、冷たい風が体にまとわりつく。飛んで起きると、彼は静かに窓を閉めた。

「朝ご飯も出来てます。冷めないうちに食べてください」

銀色の髪に澄んだ青色の瞳。半年前から見てきた姿だが、未だに違和感が残る。右目は前髪で隠されているが、やけに整った顔だからか。…正直羨ましい。

「それじゃ、行くぞ。蒼羽」

制服の胸ポケットに御守りを入れ、銀髪の青年…蒼羽(あおば)に言った。
彼は、この御守りに宿る"元"神様なのだ。

**

最近、新企業や町の発展のために神社が取り壊されることが多い。俺の住んでいる辺りだけの話かもしれないが…まぁ、神社が取り壊されているのは、事実だろう。

蒼羽も元々は神社に宿る神様だったという。
しかし、山を切り崩す為に、その神社も取り壊されることになったのだ。その頃の彼を信仰する人も少なく、力も弱かったらしい。

どうにか消えないように、彼は必死の思いで自分を移す"依り代"を探した。そこで見つけたのが、俺の祖母が1年前にその神社で買った御守りだったという。

少し長くなったが、此処で察する人も多いだろう。その御守りこそが、今俺がポケットに入れているものだ。

祖母、母、俺…とそこまで長くはないが、受け継がれてきた御守りの中に蒼羽はいる。とは言っても、学校以外では人の姿になっていることが多いんだが。

「じゃあ次を、今日は2日だから…出席番号2番、浅桜(あさくら)が読め」

突然名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねる。そうだ、今は授業中だった。反射的に席を立つが、今はどこを読んでいたんだ…?

『35ページですよ。その3段落目から読むんです』

天からの声…いや、蒼羽の声が頭の中に響く。言われた通りに読み上げると、先生が驚いたような表情をする。話を聞いていないと思われていたらしい。…その通りだけど。

蒼羽には感謝してもしきれないな。

**

「あの、噂で聞いたんですけど…1年にいる"相談屋"って浅桜さんのことですか? 」

学食に行こうとしていた時、隣のクラスの女子…確か伊藤さんに呼び止められた。因みに俺は毎日、学食に通っている。流石に蒼羽に弁当まで頼むことはできない。

「噂のかは分からないけど、確かに1年の"相談屋"ってのは俺だよ。どうかしたの? 」

"相談屋"。蒼羽の力を借りつつ、色んな人の相談に乗っていたら、いつの間にか付いた俺の2つ名だ。

「えっと…」

「あぁ、人も多いし場所を変えようか」

大抵はどうでもいいような相談だけど、たまに真剣な相談が来ることもある。そんな時のために、場所は一応考えているんだ。

「ありがとうございます」

階段を上り、4階に行く。4階の奥に今は使われていない教室がある。ベビーブームの時に作られたらしいが、少子化の今は必要ないんだとか。少し古いけど使えなくもない。まぁ、教師が来ない限り大丈夫だ。

「それで、どうしたの? 」

机を向かい合わせ、できるだけ優しい口調を心がけて問いかける。すると、彼女はそっと口を開いた。

「信じてもらえるか、分からないんですが…。えっと、私の兄の話なんです」

中編に続く

(予想より長引いてしまいそうなので、3つに分けます)

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