琥白の記録書③
2月4日 火曜日 天気:晴れ
立春。暦の上では今日から春。でも、まだまだ寒い日が多い…。これから段々暖かくなってくるのかな。
今日は、学校で椛織ちゃんと少し昔の話をした。
「ねぇねぇ、琥白ちゃんが雨水(うすい)さんと付き合い始めたきっかけは何だった? 」
藪から棒に、椛織ちゃんが話題を振ってきた。
「急にどうしたの? 」
何かあったのだろうか、もしかして好きな人ができたとか。そうだったら千暁さんの片思いが危うい。
「えっと、私の兄の友達に恋人ができたんだ。それで、琥白ちゃんは何がきっかけで、付き合い始めたのかなって」
遠回しに自分の恋愛相談をしている、ってわけではなさそう。…よく考えたら、椛織ちゃんが片思いをしていたら気づくはず。良くも悪くも分かりやすいからね。
「なるほどね。うーん、きっかけか…」
私が雨水…いや、氷知と付き合い始めたのは、中学に上がってすぐだったはず。
「中1の時、氷知に告白されたことかな」
「雨水さんから告白したんだ! 意外だね」
あの時はまだ、異性っていう認識があんまり無かったから驚いた。いや、異性として見てなかったというか、幼馴染だったのもあって、見れなかったというか。
「ほんと、意外だよね。そう言う椛織ちゃんこそ、気になってる人とかいないの? 」
情報によっては、千暁さんの力になれる。
「んー、特にいないかな。今は勉強で精一杯って感じなんだ…」
彼女がそう言うと、スピーカーから次の授業の合図が聞こえた。…千暁さん頑張って。
付き合い始めた頃か、あまり昔じゃないはずなのに、ずっと前のような感覚だ。氷知とはずっと一緒だからかな。久しぶりにアルバムを見てみるのもありだね。では、今日はここまで。
2月11日 火曜日 天気:曇りのち晴れ
今日は建国記念日で、学校がお休み。学校が嫌いなわけじゃないけど、休みだと少し嬉しい。
そんな休日だけど、昨日の夜に氷知から『明日、暇だったら13時に家に来て』と連絡が。どうしたんだろう。
「あれ、千暁さんも呼ばれたんだ」
氷知の家の前に千暁さんがいるのを見つけ、声をかけた。
「あぁ。えっと、ゆぶ…琥白さんも? 」
苗字で呼ぶか、名前で呼ぶか迷ったらしい。ちなみに、私の苗字は雪に吹くと書いて、ゆぶき と読む。
「うん。取り敢えず、中に入ろうか」
私がインターホンを鳴らすと、気の抜けた声と共に玄関が開いた。
氷知の家は新築というのもあり、結構綺麗だ。部屋は少し散らかってる時もあるけど、元々物が少ないからすぐに片付く。
「それで、今日はどうしたの? 」
3人で机を囲んだところで、話題を切り出した。
「正月に親戚から、これ貰った」
そう言い、見せたのは遊園地のペアチケット。それも2枚。
「これで、俺と琥白と千暁と明月さんで遊べるかなって。千暁が明月さんと話すきっかけにもなる」
「なるほど、遊園地なら遊びやすいし、何より楽しいもんね」
氷知なりに色々考えてたんだね。彼が人の為に頑張るなんて、やっぱり千暁さんは氷知にとって、大事な友達なんだな。
「椛織さんと…遊べる…」
嬉しいのか恥じらいがあるのか、固まっている千暁さん。耳がほんのり染まっている。
「せっかくだし、千暁から誘う? 」
「それは無理」
氷知の言葉に即答した。
「なら、私から話してみるよ。それで大丈夫だったら、グループトークできるようにしてみようか」
グループを作っていた方が、連絡も取りやすい。何より、千暁さんと椛織ちゃんが連絡先を交換することもできる。
「よ、ろしくお願いします…」
そう言い、机に伏せてしまった。氷知も首を縦に振る。
少しずつでも進展させれば、千暁さんの恋も実る…と信じたい。
伏せたままの千暁さんを、つつく氷知。また、楽しいことになりそうな予感。
千暁さんの恋愛云々もあるけど、単純に皆と遊園地に行くのが楽しみだ。まずは、椛織ちゃんを誘わないとね。私も頑張らないと。では、今日はここまで。
琥白の記録書③ 終わり
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