琥白の記録書【クリスマス編】
12月24日 火曜日 天気:晴れ
冬休みに入って数日が経った。
今日は、街が煌めいてざわついている。クリスマスだから仕方ないかな。今年も私の両親は仕事で不在。少し寂しいけど、今夜は氷知が私の家に来る。寂しさも和らぐね。
『少し遅れる。ごめん。』
氷知から1件のメッセージが入った。店が混んでいるんだろうか。
『ゆっくりで大丈夫だよ。』
その間に部屋の装飾を済ませてしまおう。
今夜は氷知が私の家に来る。外でクリスマスを楽しんでも良かったんだけど、彼が人混みを嫌うのとクラスの人に会うのが嫌だからって私の家でパーティをすることなったんだ。
氷知は飲食物を担当し、私が部屋の装飾と食器などの準備を担当する。
"Merry Christmas"の形になっている風船を見て、柄でもないなと思わず笑みをこぼす。数年前から使っている1mくらいのツリーと、上等とは言えないテーブルクロス。ささやかなパーティだけど、凄く楽しみだ。
食器を出していると、携帯が音を出して震えた。
『飲食物確保。今から行く。』
『こっちも用意できた。いつでも来て良いよ。』
画面に指を走らせて送信した。毎年一緒にいるはずなのに、心臓が鳴り始める。クリスマスだからかな。不思議だ。
返信して5分くらい経ったかな。軽やかな足音が聞こえてすぐに、チャイムが鳴った。
「はーい」
普段より少し上ずった声が部屋に響く。玄関を開けると買い物袋を提げた氷知が立っていた。寒かったのか、耳がほんのり赤くなっている。
「どうぞ。取り敢えず暖まってて」
氷知から受け取った袋には、中くらいのオードブルが1つとシャンメリーが2本、小さなケーキが2つ入っていた。机上に並べて氷知に声をかける。
「そろそろ始めようか」
こくりと頷き、私の正面に座る。
シャンメリーを注ぐ氷知の顔が、いつもより格好よく見えるのは気のせい、かな。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
硝子のぶつかる音が静かに響く。普通の炭酸飲料のはずなのにお洒落に見えるのは、容器のせいか、色のせいか。何もかもが不思議な日だな。魔法にかかったような感じがする。
「サンタさん、いつまで信じてた? 」
学校でよく出る話題を彼が振ってきた。
「いつまでだったかな…小学5年生くらい? 」
「意外と早い…俺は中1まで信じてた」
そういえば中学生の時、24日になると少しそわそわしてたっけ。まだ信じてたんだ。
「夢があるよね。プレゼントを届けてくれるの」
氷知が少し瞳を細めて言った。色々な国で言い伝えはあるけど、確かに夢があって良いね。
「プレゼントってのも大きいのかもね」
うん、と答えつつチキンを頬張る彼。
そうだ、プレゼントといえば…。
「氷知。これ」
袋に包まれたプレゼントを渡す。自分で包装をしたんだけど、我ながら上手くできたと思う。
「開けていい? 」
「もちろん」
中には、青色のルームソックスが入っている。形が歪なのは、手作りだからで…。なんだか、手作りのプレゼントって恥ずかしい。少し体温が上昇する。
「…手作り? 」
ためらいがちに頷くと、氷知は表情を明るくした。
「ありがとう。一生大事にする」
「大袈裟だよ」
良かった。そっと胸を撫で下ろす。寝る前に少しづつ頑張った甲斐があったなと、安心していると今度は氷知が小さな箱を私に差し出した。
「あげる」
「ありがとう。開けてもいい? 」
彼は首をこくこくと縦に振った。去年は文房具だった気がするけど、今年はなんだろう。
開けてみると、指輪がちょこんと入っていた。紫色の光を放っている。驚いていると氷知が近づいて言った。
「右手、出して」
右手を跪く彼に出すと、薬指に優しく指輪をはめてくれた。脈がどんどん速くなっていくのを自分でも感じた。全身に鼓動が響く。
「まだ、右手につけてて。いつか、左手につけれるの渡すから」
こくりと頷いた。顔が、体が熱くなっていく。
「ま、待ってるね」
精一杯絞り出した声で言うと、氷知は跪いたまま口元を綻ばせた。
いつもはふわふわとした彼から、指輪を貰うなんて思わなかった。いつか左手に指輪をつける、か。まだ先のことだけど、楽しみだな。
今年のクリスマスは外で何かをしたわけではないけど、これはこれで良かったな。2人だけの秘密みたいだった。
では、今日はここまで。
クリスマス編 終わり
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