津軽弁と片想い
車で横浜の自宅を早朝の4時に出発し、昼過ぎに十和田に到着した。湖のほとりの古めかしく大きなホテルの案内人の説明を聞きながら、私は今年もまた青森にやってきたことを実感した。
私は祖父と祖母とで、年にいちど祖母の故郷を訪れる。とは言っても、私がこの旅のメンバーとして加わったのはつい1年前からのことだ。新幹線のほうが速いしかえって安上がりだと駄々をこねる私に、祖父母は「荷物が多いから」と、お土産の鳩サブレやドライマンゴーをせっせと買い揃えながら言う。向こうに鳩サブレを噛めるほど歯が残っている親戚はもういないのに、どうしてそう噛みにくそうなものばかり持っていくのか。
十和田湖の景色をインスタグラムのストーリーに乗せると、数分後に大川くんからリアクションがとんできた。
「十和田いるの?俺、青森だけど笑」
大川くんは、中学の同級生である。入学して数か月経ったころに、彼は青森からの転校生として私たちの学校へやってきた。私はなぜか、大川くんのことを好きになってしまった。彼は中学生とは思えないようながっしりとした体つきで、肌が抜けるように白く、昔のヤンキー映画に出てくる「ツッパリ」のような髪形をしていた。私は彼のどこが気に入ったのだろうか、自分でもよくわからないが「転校生」という物珍しさがあったのは事実だ。それに、祖母の故郷から来たというのを知って、祖母に「大川くんって人がね、青森の人でね」としきりに話しているうち、頭が勝手に恋だと勘違いしてしまったのだと思う。
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