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声は小さい、気は強い

私は声が小さい。

言葉を話せるようになった瞬間からずっと小さい。話す速度ものろくて、抑揚もあまりない。どうしてこうなったかはわからない。物心がつき、いくつかの言葉を発したあと、私はこのくらいの音量が私には最適と考えたのだと思う。

もしかしたら、最初は声の大きく短気な父を刺激しないためだったかもしれないし、べつに理由なんてとくになくて、ただ母の話し方をそっくりそのまま受け継いだだけかもしれない。たしかに、私と弟は母とそっくりな話し方をする。3人とも、まるで牛が草を食みながら半分眠りかけているような調子で話すので、せっかちな祖母はその様子を見ていつも呆れたような顔をしているし、たまにしびれを切らして「はっきり喋んなさい!」と怒鳴ることもあった。

しかし、母の影響を抜きにしても、父の怒鳴り声を「DNAに直接届く恐怖」だと感じていた私にとっては、大きな声を出すことは怒りの表れであり、してはいけないと考えてしまうことなのだと思う。珍しく私が大きな声を出すとき、私はたいてい怒っている。楽しさや喜びで大きな声が出ることはほとんどない。ポジティブな感情を大きな声で表現する方法がわからない。

唯一、ジェットコースターに乗ったときだけは人並みの音量で「キャー!」と叫ぶことができる(これは楽しさというより恐怖かもしれないが)。私は、ジェットコースターでしか聞けない自分の声が聞きたくて、ジェットコースターに乗るのかもしれない。今日もバイトでのアドバイスを後輩に聞き返された。同じ音量で丁寧に言い直す。

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「もっと知りたい。こんなとき、貴方になんと伝えようか。もっと聞きたい。貴方はなんて言ってくれるの。」 月2回更新します。

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