「あんたみたいな」
今日も昼過ぎに起きて、祖母が茹でたうどんを食べていた。溜まっていた大河ドラマの続きを見ながら食べたかったのに、祖母がやたらと話しかけてくるので、私は途中でドラマを止めて適当に相槌を打つことにした。
「おとといは何の用があって大阪まで行ったのか」と聞かれたので、私は短く「モデルの仕事」と返事をした。祖母はふーんというような返事をしたあと、それと変わらないままの声の調子で「まあ、いちいち一流のモデルなんて使えないから、あんたみたいなのも使うんだろうね、会社も」と言った。
私は祖母に聞こえない小さな声で「すごい酷いこと言うじゃん」と床に向かって溢したあと、じわじわと自分が本当に傷ついたことを自覚し始めた。まるで頭を打ってしばらくしてから頭痛が起きたようにショックが広がり、口には出さないまま、そしてうどんを口に運び続けるまま、頭の中で「え?私は一流じゃないってこと?」「あんたみたいな?」「あんたみたいなってどういうこと?」と、静かに激しく動揺した。祖母はなんでもなかったように話を続けている。私の身体もそれまで通り相槌を続けている。私がきちんと返事をせずに適当に済ませていたから、わざと癪に障るようにそんなことを言ったのかとも考えたが、祖母は本当に悪気なく言ったように見えた。
祖母が持っている言葉の手札は私に比べてとても少ない。幼いころから奉公に出ていたから、祖母は文字を読み書きする機会に恵まれなかった。だから時々、私からするととんでもない言葉の選び方をするときがある。今の発言も、きっと何か別の真意があって、それをうまく言い表せないだけだとも受け止めることもできそうだった。祖母が言う「一流モデル」というのはたぶん、テレビに出ていて世間に名の知れている“冨永愛”とかを指していて、実際のモデル技術に基づいた判断ではなく(冨永愛は実際有名かつ超一流だが)単純な知名度で「一流」か「あんたみたいなの」を比べているのだろうと想像できた。しかしそれでも、私はあまりに突然頭を殴られたので身構えることもできなかった。最近気がついたことだが、私はパニックになると口角が上がるらしい。不自然にニコニコと微笑みながらうどんを完食して、完全に頭がフリーズしたまま「ごちそうさまでした」と言い、足を引きづりながら2階の自室へと退散した。
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【note連載】言葉
「もっと知りたい。こんなとき、貴方になんと伝えようか。もっと聞きたい。貴方はなんて言ってくれるの。」 月2回更新します。
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