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世界を旅して考える、豊かさと幸せのこと
「この国は、世界の中でもとっても豊かな国の一つだね」
ヨガのレッスンに向かう途中、オランダ人のパートナーが言った。
わたしたちが今滞在しているのはニカラグア。
中米の中でもハイチについで貧しい国だと言われている。
「自然が豊かで、淡水もたくさんある。オフィスはなくて、庭にマンゴーの木がある。そこでリスたちが遊んでる。年中あたたかくて、暖房を使わなくていい」
確かにそうだ。
カフェで注文をすると、材料を今買いにいっているんじゃないかと思うくらい待つことはあるし、週に1回家のお掃除に来てくれる人は本棚にある子ども向けのスペイン語の本を開いて1ページ1ページスマホで写真に撮り始めてなかなか掃除が進まなかったりするし、バスは満員になるまで人を乗せようとするので出発時間も到着時間もてんで分からないけれど、それでもそれに慣れてしまえば困ることはない。
むしろそんな中でただただぼんやりしているときに、そこはかとない幸せや人生の豊かさのようなものを感じる。
時間の感覚と豊かさ
昨日も、夕方前におなかがすいたので近くのサンドイッチやさんに行ったところ「今から準備をして作り始めるから20分くらいかかる」と言われたところ、案の定30分以上は待つことになった。
その間、スマホでKindleを開き『時間の言語学 −メタファーから読みとく』を読み進めていると、こんな話が出てきた。
時間が経つのを忘れてゲームに熱中した。
ときが経つのを忘れてくつろぐ。
次の例も比べよう。
彼女と音楽の話題で話をしていると時間が経つのを忘れてしまう。
白い砂浜を眺めてのんびりしているとときの経つのを忘れてしまう。
微妙な差なので異論があるかもしれないが、右の例で時間とときを入れ替えると、少なくとも私にはしっくりとこない。時間が経つのを忘れるときは何かに夢中になっているとき、ときが経つのを忘れるのはゆっくりくつろいでいるとき、という差が典型的には生じるのではないか。
ニカラグアで暮らす人々の様子を見ていると、「時間が経つ」ではなく「ときが経つ」を日々体験しているのではないかと思う。
夕暮れ時には家の前にロッキングチェアを並べ、ゆらゆらと揺れながら話をしている人たちも多いが、そこでも何かに忙しく夢中になっているというよりくつろいでいるという感じだ。
ときが経つ、というよりときがゆったりと流れる。
いやむしろ、「とき」さえも溶けてしまっているのではないかと思う。
そもそも時間というのもわたしたちが作った概念に過ぎない。
そこにさらに「時は金なり」というメタファーが加わり、わたしたちはせかせかと何かをすることが豊かさを作り出すのだと思い込むようになった。
お金もわたしたちが作り出した概念だ。
お金がもたらしてくれる便利さや快適さはあるけれど、お金がわたしたちを幸せにしてくれるわけではない。
「世界幸福度ランキング」からは見えてこないもの
国連が毎年発表する世界幸福度ランキングは次の7つの指標がもとになっている。
1.人口あたりGDP
2.社会的支援(「困った時に助けてくれるものや信頼できる人がいるか」という問いへの回答)
3.健康寿命
4.人生の選択の自由度(「人生で何をするか選択の自由があるか」への回答)
5.寛容さ(「過去1カ月にいくら募金したか」への回答のGDPに対する度合い)
6.腐敗の認識(「あなたの国やビジネスに汚職・腐敗が蔓延しているか」への回答)
7. 世界最低の国の平均値と3年間の調査で出た各国の残余値
これらの指標は、本当にわたしたちの「幸福」をあらわしているのだろうか?
GDPとは、一定期間内にその国の中で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額のことだ。
仮に生み出されたものが地球環境に大きな負荷を与えるものであっても、健康を害するものであってもGDPに加算される。
特に身体や精神に対して中毒性が高いものというのは、わたしたちを「止められずに消費を続ける」というサイクルに誘い込む。
そんなサイクルの中にいる状態は果たして本当に幸せなのだろうか?
約3年半前に欧州にわたり、昨年の4月からトルコ、ギリシャの小さな島、モロッコ、コスタリカ、そしてニカラグアと各国に2、3ヶ月ずつ滞在してきたが、GDPの高さとそこに住まう人の心身の健康は比例しておらず、むしろGDPの高い国の人の方が環境負荷が高い暮らしをしていることを実感している。
生活の質と環境負荷の相関関係については『人新世の「資本論」』で目にされたことがある方も多いかもしれない。
まずはドーナツ経済の概念図について見てみよう。
ドーナツの内縁はわたしたちに必要な「社会的な土台(生活の質)」、外側は「環境的な上限(環境負荷)」を現している。
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各国の生活の質と、生み出す環境負荷の関係を表したのが次のグラフだ。
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グラフが表しているのは、横軸がプラネタリー・バウンダリー(ドーナツの外縁)を超えてしまっている項目の数、縦軸が社会的閾値(ドーナツの内縁)を達成している項目の数である。つまり、このグラフで左上にいけばいくほど、その社会は「安全で公正な社会」に近いことになる。ところが、実際には、社会的閾値を満たす項目数が増えるほど、プラネタリー・バウンダリーを超えることになり、(ベトナムの例外を除いて)グラフの右上の方に近づいてしまう。ほとんどの国は、持続可能性を犠牲にすることで、社会的欲求を満たしているのである。
これまで暮らしてきた国やこの10ヶ月間で滞在してきた国をこのグラフ上で確認してみると、実際に現地で感じた感覚とかなり重なるところがある。
トルコとモロッコは似たような経済水準や生活の質を感じたが、確かに環境負荷はトルコでの暮らしの方が圧倒的に高いという実感がある。(どこもかしこもビニール袋をくれる・都市化が著しいなど)
自然が豊かだと聞き楽しみにしていたコスタリカは自然が商業の一部として切り売りされていることを感じ悲しく感じた。
オランダでの暮らしも大好きだったが今となっては空調の管理されたスーパーの冷ケースの中にカットされた野菜が並ぶ環境を全ての国の人が手に入れたら、地球はどうなるのだろうかと思う。
ギリシャだけは滞在したのが小さな島だったためか、このグラフの位置付けよりは「不便だけれども環境負荷はそこそこ」という感覚を感じた。
ニカラグアはこのグラフの中には含まれていないが、おそらくモロッコよりもさらに左下か左上に位置するのではないかと思う。
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幸福ランキングの指標には「健康寿命」も含まれているが、そもそもわたしたちは全人類が、80歳以上まで生きてもなお、心健やかにいられる社会や、植物や動物、自然が健やかにいられるだけの彼らとの関係ををつくりだすことができているのだろうか。
ニカラグアのコロナの状況と人々の暮らし
ちなみにニカラグアは現在、厳しい入国制限やロックダウンなどは行っていない。
新型コロナウイルスの新規感染者数は1日あたり8人ほど。死亡者数は累計216人とされている。
人口は660万人ほどで九州の人口の半分くらい(国土面積は北海道と九州を合わせたくらい)で、そのうち314万人以上がワクチン接種をしているというが、舗装されていない道も多く、先住民族が暮らす地域もある中で、これらの情報がどのくらい正確かは定かではない。
ニカラグアという国全体の状況は分からないが、少なくとも第4の都市グラナダ(人口11万人)や、小さな漁師町で暮らす人々を見る限り、夕暮れ時の語らいの時間など、ささやかな日常の楽しみを続けているように見える。
その土地でとれたものを食べ、目の前の人のために手を動かし、家族や友だち、大切な人たちと語らい、音楽を楽しみ、踊り、たくさん寝る。
もちろん大変なことや不便なこともたくさんあるし、環境に全く負荷をかけない暮らしをしているわけではないけれど、経済的な指標で計ることでは見えてこない幸せや豊かさが、この国にはあるのではないかと思う。
おまけ:ニカラグアの写真たち
最初に滞在したRivas
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次に滞在した El Astillero
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その次に滞在したLaguna de Apoyo
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現在滞在しているGranada
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ニカラグアってどんな国?という方はこちらもどうぞ▼
「世界の国を知る 世界の国から学ぶ わたしたちの地球と未来 ニカラグア共和国」
http://www2.aia.pref.aichi.jp/koryu/j/kyouzai/PDF/H23/Nicaragua.pdf
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