237-238 凜とした静けさの中で
237. いつもと違う日もいつもと同じように
中庭のガーデンハウスの上を黒猫が小走りに通り過ぎた。「幼い」というには少し大きいけれど、それでも中庭で遊ぶ他の猫たちよりも小柄で、とっとっとっと、と、軽やかに歩く。緑の鳥が三羽、連なって向かいの家の屋根の上を通り過ぎていった。
今日は日本から友人がやってくるので、ミーティングやセッションをした後、部屋の片付けをする。そうしているときっとあっという間に到着時刻になるだろう。長時間のフライトは予定よりも1時間近く早く着くときもあるので、それを見越してハーグの駅まで迎えに行く準備をしなければならない。一刻も早く片付けを始めた方がいい気もするが、慌ただしく一日を始めるよりも、ホームから電車が出るときのようにゆっくりと走り出したい。そのために深呼吸をするような、そんな時間だ。
先日、一年で日照時間が最も長い日を既に過ぎているということを知ってから、この時間に東の方角から中庭に差し込む光の感じが、既に秋のものに見えてきた。人間の見ているものの多くは風景ではなく情景で、そこに見る人の主観がふんだんに盛り込まれているものなのだということを思う。正しく見る必要はないだろう。どこまで行っても、真実のようなものには辿り着けない。であれば、心を通して見る景色を見て、心を知ることができればそれでいいのだと思う。
にわかにカモメの声が大きくなった。グワグワグワグワグワ、と折り重なるように声が動く。何羽ものカモメの姿が空に見え、そして通り過ぎていった。昨日も昼間、カモメが一斉に鳴き出したタイミングがあった。あれは何かの合図なのだろうか、それとも何かを交わしているのだろうか。
南西の空には右側半分が欠けた月が見える。月の模様にあたる部分が空と同じ淡い青をしている。ここでもう少し空を見ていたいが、いよいよ動き出すことにする。2019.7.23 Tue 7:38 Den Haag
238. 凜とした静けさの中で
家中の片付けと掃除を終えて、あとは出かけるだけになった。予定では友人の乗った飛行機は既にスキポール空港に到着しているはずだ。飛行機が遅れているのだろうかと思って空港の到着案内を見ると、聞いていた時刻に到着予定の飛行機にこのあと8分後に着陸見込みの予定が出ている。しかしそれはスペインから来る飛行機だ。日本から、スペインで乗り換えてやってきているのだろうか。
人が来る前の家の中というのは、いつも以上に静けさを纏っている。いつもは気にしていないところまで埃を払い、見えないところまで整えるからだろうか。あたたかさがありながら、整然と、サラッと、凛としている。それは私の在りたい姿なのかもしれない。自分のためだけに何かをするというのはなかなかやる気がでないけれど、人を迎えるために空間を整えるのは本当に気持ちがいい。そのプロセスを通じて、気持ちが整っていく。そんな風に、自分のためにも日々暮らしを整えていけたらと思う。
このまま何かを書き始めても、中途半場なところで家を出ることになるだろうかと思うし、今何か思い浮かんでいるわけでもないが、何か書いていこうかと思ったところでメッセージが入った。初めての場所を楽しみながらのんびりと家までやってくるということなので、時間ができた。せっかくなので、金曜に参加するオンラインゼミナールに向けて、参加しているのとは別の曜日の録音や補助教材の録音を聞いて過ごすことにする。2019.7.23 Wed 15:42 Den Haag