ドライブ・マイ・カーから

映画 「ドライブ・マイ・カー」を観ていたら 母が亡くなった時のことを 思い出した 20年前 その日 江古田駅の近くで 内橋和久さんが出ていたライブを見に行って 自転車で東長崎のアパートに帰った 固定電話に留守電が入っていて 姉に連絡したら 驚かずに聞いてと言われ 母が誰もいない時に 亡くなったという知らせだった 姉が朝仕事に出る時も普段と変わらず そして その日も いつもと同じように お店をやっていて 片付けも終わっている状態で 倒れていたとのことだった 朝になったら向かいますと 返事して 電話を切ったはずで 実家に向かう途中で 記憶がいろいろ浮かんできて 自分が母に最期に会った 四年くらい前に 実家近くの駅まで 送ってもらった時の記憶が出てきて  帰ってから顔を見たら その四年前とそう変わらない感じで寝ていた 亡くなるひと月前だったのか 電話がきて だいぶ前に自分が 子どもの頃 こう見ていたよと伝えたことで 眠れなくなったということ 話してないことはある 辛すぎることは言葉にできない あなたはあなたでいいと思うようにやればいい とだいたいこの三つの内容を母が言っていた 母が亡くなった後 住んでいた家は すぐに取り壊しになった 一度帰ったけど 何も持ち帰らずに そのままにして 帰ってしまった 取り壊されて何年も経った後に 行ってみたらまだ空き地のままで その空き地を眺めて帰った 母が言えなかったことはなんだったのか 未だにわからない 母が亡くなるその四年前くらいに母と駅で別れたのが 実質 お別れだったように思う 逃げたような気もするし 帰るところを無くした気もするし わからないけど  自分と歩き方が似ている父のことは父が亡くなって30年過ぎてから わかったけど たぶん 自分とは違う性質の母のことは 聞かなければ わからなかったのかもな 声に出していなかった音を 全てはたましいのままに 生きられますように あの土地で見ていた 景色が 底の方で それをくるんだまま 進めと 言ってくるんで とりあえずは それを持ったまま 進むことにした

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