【伝説】ジョン・ディーコンの処女作「ミス・ファイアー」~クイーンを救った大ヒットシングルの前作~【和訳・解釈】
処女作ということで、そっち系も深く切り込んでいきます。
ただし、芸術という観点からお上品に。
"Misfire"
Written by John Deacon
Don't you misfire
Fill me up
With the desire
To carry on
Don't you know honey, that love's a game
It's always hit or miss, so take your aim
Got to hold on tight, shoot me out of sight
Don't you misfire...
Don't you misfire...
Your gun is loaded, and pointing my way
There's only one bullet, so don't delay
Got to time it right, fire me through the night
Come on, take a shot
Fire me higher
Don't you miss this time
Please don't misfire, misfire
(直訳+手直し)
不発になってない?
ほら私を満たしてごらん
あの欲望で
続けたいという
ねぇ知らない?
「愛はゲーム」だって
いつだって命中か外れしかない即興劇
だから狙いを定めて
じっくり機会をうかがって
私を撃ち抜いてみせて
不発にしないで・・・
不発にしないで・・・
今あなたの銃は装填完了して
私の方向を指している
弾丸は1発しか入ってない
だから遅れないで
タイミングぴったりに撃って
一晩中私を燃えあがらせて
さあ、撃ってみて
高く射ちあげて燃えあがらせて
この機会を逃さないよね
お願い、不発にしないで
はじめに
この和訳は何とも味気ないです。
この和訳で楽しめるのは、男性でも女性でもどちらの心情をうたっていてもおかしくないユニセックスな仕上がりになっているところだとは思います。
「私」を、「僕」や「あたし」などに変えて読んでみて下さい。
この詩(英語原文)は、処女作とは思えないほど完成しています。
少し曲は短いですが、詩がフレディのようにダブル・ミーニングにあふれています。
動機
因みに、なぜそっち系の話をするかというと、ある企画に参加するため。
もともとクイーンの詩を和訳していると、どうしてもぶつかるテーマがあり、それが性です。
そしてそれが魅力でもあります。
これはクイーンに限らず、他のアーティストの曲でも、絵でも、芸術には必ずと言っていいほど現れ、むしろこれこそが芸術の源と言えるかもしれません。
若さ、エネルギー。美。
英語原文ならウィットに富んでいて拍手喝采かもしれませんが、和訳はうまく言葉がかかりません。
なので野暮にもそこら辺を解説しなくてはいけません。
しかし、英語の詩を味わい尽くすには避けて通れません。
そこで言語化するのに悩んでいたのですが、そこにこの企画が現れ、参加させていただくことになりました。
なぜ、その記念すべき一回目がよりにもよってQueenの良心、ジョン・ディーコンさんの作品なのか?フレディじゃないのか。
それは、多分クイーンの中では、最初のはっきりしたラブソングが、この「Misfire」という作品じゃないかと思うからです。
とくに、詩の中のセリフ「夜中私を燃やして」を発見してしまったのです。
洋楽全般や、クイーンのその後を知っている人からしたら、何の刺激もない、むしろ陳腐なセリフかもしれませんが、彼らの歴史(特に作詞)を勉強すると、ガリレオの発見のように新鮮なセリフ、作風です。
また、サウンドも(当時のクイーンとしては)かなり異色です。
彼の詩は、シンプル極まりません。
当時(1974年、デビューから1年)フレディやブライアン氏の恋愛系の詩は文学的でした。対してジョン氏は、はっきりとした現代風ラブソングを作曲のスタートとしました。
初期のクイーンは、ハードロック・バンド(ただしビジュアルは中世・中性的)というスタンスでしたが、彼の作品はサウンドも詩も、アメリカ風なポップな感じです。
しかし、当時の貴公子クイーンらしからぬ「夜じゅう燃やして」などの直球のセリフが出てくるラブソングとはいえ、フレディは明るいポップな現代風の雰囲気で歌い上げ、完全にものにしています。
フレディが歌うことを想定して書かれているからかもしれません。
詩やメッセージがシンプルのせいか、声の伸びや歌い方などがとても生かされています。
素晴らしい関係性です。
このあと、フレディの声はポップやファンク、ソウル系の要素が増えていき、自然とサウンドもポップ系、現代系に移行していきます。
そしてバラエティに富んだクイーンのサウンドが生まれていきます。
その記念すべき第一作目かと思います。
それでは和訳の解説に参りましょう。
解説
ダブル・ミーニングが多いと言いました。
そのキーとなる単語を解説していきます。
単語「ミスファイアー」考察
まず、タイトルであり、キーフレーズである、「ミスファイアー(misfire)」の意味。
これはもともと、「銃などが不発に終わる」という動詞。
銃を使わない人にはあまりこの意味では使わない単語だと思います。
転じて、「エンジンなどがタイミングよく点火しないこと」、「計画などが思い通りに行かないこと、失敗すること」などとして使われます。
そして、隠されている言葉が、ファイアー(fire)です。
「fire me」が2回出てきます。
動詞として使われています。
人が目的語となると、「感情を燃え立たせる、インスピレーションを与える」という意味。
原義は「火をつける」。
そして「銃を発射する」。
発砲することを、日本語でも「火を噴く」とも言います。
大砲の時代の名残かもせれません。
あとは「エンジンを点火する」など。「火」や「着火」に関係します。
あとは、動詞「ミス(miss)」です。
「hit or miss」「miss this time」として出てきます。
「ヒットかミスか」は、直訳は「命中か外れ」、転じて「行き当たりばったり」の態度のことを表します。ラブ・ゲームの世界ともいえます。
直訳は、もちろん、銃についてなぞらえています。
あとはバンドのように、ヒットするか売れないか。
「(hit or) miss」はすごく伸ばして歌われるので、キーワードだと思います。
ラブ・ゲームにおいては、相手にアタックするも失敗すること。
「miss this time」は「失う」という意味。機会やタイミングを失すること。
また、「misfire」は、耳で聞けば、
「火を失う(miss fire)」ともいえる。
まとめると、「misfire」の意味は、
原義は「銃が火を噴かない(弾が出ない、不発)」であること。
詩の中に「銃」の表現がやたら現れるが、それはメタファーであり、
ラブゲームにおいて、アクションを起こさない人物に対し、ハートに火をつけてと、はっぱをかけているセリフだと思われる(don't miss fire)。
またその人物が歌い手を得ようと計画はしているものの、動かないで失敗(miss)しそうになっているのを比喩で表している。
そもそも、misfireは人に使わない言葉なので、比喩である。
とても一言で言い表せない。
さらに悩ませるのが、コーラスで何度も出てくる
「Don't you misfire」
という「否定疑問文(Don't you ~ ?)」のような語順。
しかもこの文法は別に2回現れる。
否定疑問文とは、
1.情報を確認する
2.驚きを表す
という目的に大別される。
別のセリフの
Don't you know ?
は、「知ってる?」と確認する意味と思うが、「(そんなことも)知らないの?(知っていることを期待していたのに)」と、なじるときにも使われる。
今回は、ミスファイアー自体が人に使わない比喩なので、何とも訳しづらいが、
「確認」の意味にした。
つまり、ミスファイアーしていませんか?
という確認である。
(もしかして)あなたの銃は不発状態になってませんか、あなたのハートの火が消えてませんか、という意味。
または、否定疑問文などの文法を無視している可能性もあり、
最後のセリフが、
「Please don't misfire」
(ミスファイアーしないで)
なので、この意味だと思う。
あと、私が想像するのは、
耳で聞くと、
「Miss. Fire」
とも聞こえる。
ファイアー婦人。
このコーラスだけ男性が「ほむら婦人」に語り掛けている。
さらに言うと、
「fill me up」は、
「feel me up」に聞こえ、
意味は(touch someone sexually)。
つまり、
「どうですか、レディー・ファイアーよ、
僕に触れて、あなたのその欲望とともに。
関係を続けるために」
となる。
(Why)don't you feel me up with ... ?
といった構造を想定する。
そのあとのセリフ(「知らないの、ハニー?」から始まる詩)は、「レディー・ファイア」による、望み通り、男性をたきつけるセリフ。
因みに「ハニー」は男女どちらでも使える。
キーも高い。
このように、男性パートと女性パートが分かれているともいえる。
女性像は、同じ収録アルバムの「キラー・クイーン」のイメージ。マリー・アントワネットとか、芸者など(おそらく)恋愛上級者。
また、carry onには、「続ける」以外に、
古い言葉で、不倫などいけない関係を結ぶことも指す。
マダム・ファイアーとの危険な火遊びを想像させる。
また、このマダムは、「クイーン」というバンドのメタファーであるという想像もした。
バンド「クイーン」を続けたいというモチベーションを維持する気持ちにさせてほしい、という、女神への祈り。
サウンドや詩のインスピレーションなど「産みの苦しみ」と、ライブやレコーディングの過酷さ、批評、音楽家という道なき道を歩んでいくパワーを与えたまえという、彼自身のスピリチュアルな詩。
このあとも続くセリフ、
(女神)
「(この)愛(音楽への)はゲーム。
ヒットか失敗しかない。
しっかり狙って、私(勝利の女神)を撃ち抜いてごらん」
という風にも解釈可能。
このように、上品にも変えられる詩なのだ。
(女神)
「お前の銃は充填された
私の繁栄の道を示している
チャンスは1回
タイミングよく撃って
今夜、我をインスピレーションの炎で包みなさい」
この意味深な、
Your gun is loaded, and pointing my way
も、このように訳せる。(明るい展望を示す)
また、「夜」はクイーンの(初期の)キーワードで、夜にライブをしたり、(午後2時くらいから時には徹夜で)レコーディングをしたという。
fire me through the night
は、夜じゅう、クリエイティブな活動をする活力で満たしてほしいという意味かもしれない。もう女神とバンドが一体化している。
長くなってしまったが、これが「Misfire」というキーフレーズへの分析である。
コーラス考察
コーラス(サビ)の意味はもう上記で解説してしまった部分もあります。
音的なものを中心に解説します。
Don't you misfire
Fill me up
With the desire
To carry on
正式に韻(いん)を踏む個所は太字で表しました。
このコーラスは3回繰り返されるので、仕掛けがいっぱいある。
misfire→fill me up
は、misfireをばらしたよう。
ミスファイアー、フィルミーアー
と、同じような発音が現れる。
これはちょっとフレデイ的。音から韻を踏む感じ。
母音も、
イ、アイアー → イ、イー、アー
とアとイだらけ。
また、最後のupはアーと伸ばされ、音の面で、最初の3行は「アー」で韻を踏むともいえる。
With the desireは
misfireと、語尾で「いあぃあー」と韻を踏む。
ウィ,ザ,ディ,ザイアーとリズム感がよい。ザはtheとsで、違う発音だが、音は近い。
母音は「いあいあいあー」で、またもや「あ」と「い」。
サウンドは、「上から下がって、下から上がって」の単位を2回繰り返す。
このように、このコーラスはよく練られて作られています。
意味としての解説は、ちょっとかぶるのでさらっと。
Don't you misfire
Fill me up with the desire to carry on
「ミスファイア」の意味同様、2行目も、とても短く、意味はいろいろと想像させる。
「the desire(その願望)」というのは、「the」が付いているが、何を表すのかはっきりしない。
私を満たすので、私の願望なのか、お願いしているあなたの願望なのかよくわからない。
the desire to carry on
と、「あの、続けたいという願望」という意味になるが、
「続ける」のも「何を」続けるのかは分からない。
次に出てくるラブ・ゲームかもしれない。
表面的な意味では、「自分にモーションをかけてほしい、そうすれば、このラブゲームを続けたい気持ちで満たされる、」という意味か。
あまりに意味が漠然としているので、耳で聞こえる「feel me up」説を採用したくなる。
次に詩の2つと最後の変調部分(ブリッジ)についてまとめてみる。
残りの部分の解説
まず要素となるのが、銃の表現。
Don't you know honey, that love's a game
It's always hit or miss, so take your aim
Got to hold on tight, shoot me out of sight
Your gun is loaded, and pointing my way
There's only one bullet, so don't delay
Got to time it right, fire me through the night
Come on, take a shot
Fire me higher
Don't you miss this time
Please don't misfire, misfire
太字が銃の要素。
真ん中の「bullet(ブレット)」は「弾丸」のことで、なぜか強調して歌われる。
この曲が銃について主にメタファーにしていることを示すためか。
shoot me out of sight
の、「sight」は、銃についている照準器で、獲物(game)に狙いを定めるとき助けになる片目や両目で見る部分。
shoot 人 on sight
だと、見つけ次第撃つ(sightはこの場合「視界」)、視界に入ったら撃て、だが、これは、out of sightに変わった造語。
多分、「私を撃って、照準器や視界から私を外して(つまり、撃たれて地面に倒れ、視界から消えた)」という意味かと思った。
shoot O outも、「撃って~を消す」という意味。
つまり、「撃ち倒して」という意味。
他も、撃つとか銃で狙うとかいう表現。
シンプルな表現のため、「目標を狙う」とか、前述の「道を指し示す」とか、ダブル・ミーニングを持つものも多い。
余裕があれば調べてみてほしい。
次に韻。
[verse1]
Don't you know honey, that love's a game
It's always hit or miss, so take your aim
Got to hold on tight, shoot me out of sight
[verse2]
Your gun is loaded, and pointing my way
There's only one bullet, so don't delay
Got to time it right, fire me through the night
[bridge]
Come on, take a shot
Fire me higher
Don't you miss this time
Please don't misfire, misfire
詩の1と2は、
エイムx2、アイトx2
エイx2、アイトx2
となり、規則的。
強調される「bullet」は、前の「loaded」と似てる。
最後のブリッジは、
基本は2,4行目の「アイアー」(higher, misfire)だが、他は変則的。
行内で韻を踏む感じ(fire me higherなど)。
3行目は、miss this timeはリズムがいい。
これも最後は、基本の韻「アイアー」の一部、「アイ」で一部韻を踏む。
4行目とは、misが同じ。
韻はざっとこんな感じ。
基本的な韻のほかにも音の細工が施されている。
次に時間表現(セクシーなところ)。
最後の2パートに現れる。
Your gun is loaded, and pointing my way
There's only one bullet, so don't delay
Got to time it right, fire me through the night
Come on, take a shot
Fire me higher
Don't you miss this time
Please don't misfire, misfire
遅れるな→ちょうどいい時間に合わせろ(撃て)→夜じゅう燃やして
という時間表現のオンパレード。
「time」は動詞で、「タイミングを合わせる」こと。
time it rightは、「ちょうどいい時間にそれを合わせろ」で、「それit」は撃つことだと思う。
撃つと、銃が火を噴く(a gun fires)ので、それで撃たれた私に火が付くという想像をした。
弾は一発なので、撃つのはたった一回、それで私が夜じゅう燃えるというわけだ。
また、「貴方の銃がロードされた」も、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の問題箇所と同じかもしれない。
ジョンにその気はなくても(だって、1発しかないし。)、フレディはその表現を胸の箱にしまったかもしれない。
これは、チャンスは一回のみ、あとがないことを示す。
このゲームはhit or miss(あたりか外れか、転じて、本来の使われ方は「いきあたりばったり」)だから。
さいごの「Don't (you) miss this time」は、
「この機会を逃さないで」、という時間表現です。
最後のまとめに使われるので、大事な要素です。
以上が時間表現です。
「夜通し燃やせ」はとてもムネアツ表現ですが、計算されて配置されていることがわかります。
意味的なものもざっと紹介して終わります。
銃を基本に話が展開します。
この曲が言いたいことは、
ハートに火が付かない人物に、
「リスクをとって、チャンスに賭けて。
私を撃ってごらん、自分の欲望に従って、心が動いたらすぐに。
そして、高みにむかって燃えていこう。」
というような感じです。
これは何も恋愛だけとは限りません。
セクシーなようで、何か高次元なものに導かれているような。
自分の願望に素直に、スキと思ったら即行動して、というようなメッセージも感じます。
また、自分たちの姿勢を示すとともに、このバンド「クイーン」に身をゆだねてごらん、とも聞こえます。
まとめ
ということで、長くなってしまったので、残念ながら全ての表現を詳細に解説できませんが、
とても、よく練られて作られていることがわかります。
最初がこれだから、次回作がヒットしてしまったのかもしれません。
(タイトルの「クイーンを救った」は、次回作「You're My Best Friend」がヒットしたことで、契約していたマネジメントのせいで財政面が破綻しかけていたクイーンに、経済的安定を与えたからです。当時のクイーンはホントに解散寸前で、イチかバチかだったようです。)
しかもこの曲のほぼすべてのギターまで担当し、次回作はピアノまで。
ただのベーシストではありません。
クイーンの錨(いかり)といわれる所以がここにも。
潜在能力がすごいです。
ディーキー・アンプまで作ったので、サウンドまで支配し、影のボスです。
サウンドと言えば、フレディの詩の2番のファルセットも注目です。
マイケル・ジャクソンやビージーズのような、ファンキーなファルセットがいきなり入り、問題の箇所をさらりと聞かせます。
また、最後の詩の部分(ブリッジ)と続くサウンドの最後が、だんだんキーが上がっていってフェードアウトする様は、fire me higherとリンクするように上がっていきます。炎が上へ上へを燃え上がるイメージです。
とにかく、ジョンのシンプルな詩とダイレクトなメッセージ、フレディの伸びのある声芸、その芸術作品の最初の第一歩です。
彼らは、その後もファンキー・ファルセット冴えわたる「クール・キャット」や、最後のライブでも締めにロッキー・チャンピオンズに挟まれて歌われる友情ソング「心の絆」など共作も多いです。
ファンキー・ソウル系や、直球なラブソング、大人な雰囲気の歌など、彼らは音楽の趣味もあっていたようです。
2分弱と短いものの、サウンドも詩も、すでにとても完成した作品だと改めて思います。
声にも注目して(特に2クール目)、妄想しながら、ぜひ聞いてみてください。
Queen - Misfire (Official Lyric Video)
※2021/12/28追記、以下にシンガロング用カタカナルビ付き歌詞を用意しました。こちらもぜひどうぞ。
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